第185話第二回公式イベント・collapsing kingdomその16
『そっちに行ったぞ!』
『追え!』
部屋の外から聞こえる、そんな兵士達の怒号に『あぁ、またか』と内心でボヤく……多分、この城に襲撃を仕掛けている犯人にも心当たりがある。……恐らく
「……」
──ジャラッ
自分の未だ小さな両手を上げれば、硬質な鎖の音がする……王太子であった兄さまを殺害した容疑を掛けられているのもあるけれど、それ以前に庇護者であった兄さまと後ろ盾であったガヴァン侯爵、そして祖父であるファルニア公爵が揃って亡くなってしまったのが大きい。
『逃がすな! 絶対に仕留めろ!』
『早く準備しろ!』
部屋の中でさえ自由に歩き回れないように、足首にまで鉄枷を付けるなんて……臆病な兄上らしいわね。
地下牢や独房でないだけ、まだマシなのでしょうけど……王位争いに勝ったも同然なのに、そうまでして自分に自信がないのかしらね……あの第二王子は。
「……私、死ぬのかな」
今度こそ、死ぬのかな……幼い頃から仕えてくれた侍女のアナベラが流してくれた時も、お父様が殺された時も、拐われて戦争の火種にされた時も、ガヴァン侯爵が死んだ時も……結局、私だけ死ねなかった。
「……」
でも、今度こそ……私は死ぬ。恐らく死ぬ。
こんな両手足に鉄枷と鎖を付けられて、戦う力もない小娘に現状をどうにかする事なんてできない……後ろ盾もなく、王位についた兄上に疎まれている私を助けてくれる人なんて居ないし、むしろこの機会に暗殺されるかも知れない。
「……それ以前の話か」
……いや、それ以前に誰もここに来なくて、この部屋でじっとしているだけで死ねるでしょう……あの女性は、個人でとんでもない量の小型化された爆薬を所持していたし、外での戦闘の余波でこの石壁が、天井が、床が……崩落して死ぬのでしょう。
「……最期に、アナベラと話したかったな」
死体なんて残ってなくて、どこにも埋葬なんてされていないけれど……確かお兄さまが遺品を預かってくれていたはず。……もうお兄さまも死んだから、それの在り処すら分かりはしないけれど。
『ここを通すな!』
『邪魔だ! どけ!』
「……?」
なんだか、やけに争う声が近いわね……? こんな所にまで侵入されたのかしら? だとしても、ここは罪を犯した貴人が軟禁される区画……こんな所を攻めても意味はないと思うけれど……。
……まぁでも、壁や天井に潰されて死ぬよりかは、人の手で死ねる方がまだマシなのかしら──
「──ここから出るぞ、急げ」
「ぅあ……?」
勢いよく開かれた部屋の扉、背後の廊下に見える気絶した兵士達……そして何よりも、私の目の前に立っているのは──
「──ハンネス、様?」
「お? おう、そうだよ……って、鎖で繋がれてんのか」
なんでここにハンネス様が居るのか、なぜ私を助けに来てくれたのか……そんな事で混乱する私を無視して、ハンネス様はその手に持つ戦斧で私の両手足を繋ぎ止める鎖を断ち切る。
「なん、で……」
「あ〜、っとだな……」
「……」
「その、だな……」
私の掠れた疑問の声に、ハンネス様はバツが悪そうに頭の後ろを掻きながら何かを答えようとするけど、上手く言葉にならないみたいで……ため息をついて私の頭にそっと手を乗せる。
「……わりぃな、お前の兄貴を守れなくて」
「っ!」
「でもお前の兄貴からお前を守るよう言われた『約束』は守るからよ……あの悪女にも俺からキツく言っておく」
涙がじんわりと浮かんで来る……私、まだ生きていて良いのかな? 生きる事を望んでいても良いのかな? ……また、私のせいで誰か死んじゃわないかな?
「私が生きてても……良いのかな?」
思わず溢れた呟きは思いの外よく響いて……ハンネス様がこちらを振り向く。……どうしよう、怒っちゃったかな? せっかく助けてくれたのに、失礼よね。
「あ、ご、ごめんなさ──」
「──ハッ! ガキが、余計な心配してんじゃねぇよ!」
そんな乱暴な一言で私の心配と謝罪は切って捨てられ、これまた乱暴に担がれる……ハンネス様は詰まらなそうに鼻を鳴らし、部屋を見渡す。
「……なんか他に持って行くもんはねぇな?」
「……アナベラの遺品を持って行きたいです」
「……それなら持って来たから、お前が持ってろ」
そう言って懐から取り出した小さな木箱を渡される……これがアナベラの遺品。多分だけど、私の所に来る前に探して来てくれたんだ……お兄さまの部屋まで行って……。
「あ、俺の前では開けるなよ? いいな? 絶対だぞ?」
「え? あ、はい……」
ただの遺品に、なぜそこまで目を泳がせながら念を押すのかは分からないけれど……とりあえず頷いておく。
「あの、これから何処に逃げるんですか?」
「『バーレンス王国』だ」
「それって……」
あの女の人が私を利用して戦争を起こし、独立させた彼女の傀儡が治める国……そんな所に連れて行かれても意味がないと思うのだけど……。
「安心しろ。中学時代──昔からの知り合いだが、あの女が『約束』を破った事はない」
「……」
「そんでアイツは
「……なる、ほど」
私にはそれがどれほど信用できるのかは分からない……けれど、これだけ神聖とも言える気配を纏っているハンネス様が言うのであれば、そうなのでしょう。
……というか、あの女の人とハンネス様が昔からの知り合いという事に対する驚きの方が強い……気配も価値観も何かもかも真逆に見えるのに、渡り人って不思議だ。
「じゃあしっかり捕まってろよ」
「……はい!」
ハンネス様の声に我に返ると共に、私も覚悟を決める……いつか絶対にこの国に戻ってみせる、という覚悟を……その為になら──
「……」
──
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