第183話第二回公式イベント・collapsing kingdomその15

「​──ふぅぅうんん!!!」


「……っ」


無造作に薙ぎ払われた薙刀の一撃を背を反らす事で回避します……が、総大将さんの一撃は通路の壁を切り崩し、上を向いた事で視界に入った高い壁や天井が私の上へと降り注ぐのがよく見えます。

一応は護るべき王城のはずですが……降下する時の私の爆発で少なくない被害が出ていますし、これからの戦闘でどうせ崩れるから気にしない……という判断でしょうか? ……少なくとも、横幅の狭い通路では長柄の相手の方が不利、という事はなさそうですね。


「憤怒っ!!」


「……シッ!」


大きく踏み込み、こちらに対して上段からの振り落としを腰の捻りによって回転して回避しながら、落ちてくる壁か天井か、その瓦礫を掴み、回転が一周すると共に総大将さんに向けて投擲します。


「小賢しいッ!!」


「んぅっ?!」


そんな物はなんの痛痒にもならないとばかりに無視し、下段から殴りつけられます……短刀を前に出すことで防御しますが、そのままボールのように通路を吹っ飛んで転がっていきます。

……やはりレベル差があり過ぎますね、特に半端な投擲では全然ダメージを与えられません。

ダメージを与えられない、という事は牽制にすらならないという事です。


「なんだ、その程度か​──ぬおっ?!」


……まぁ、半端な投擲でなければ良いんですけどね?

吹っ飛んでいく直前に、その無駄に装飾だとかが多い装備や服に火薬玉を仕込んだ物が時間差で炸裂したようですね。

効果のほどは……ふむ、軽い火傷程度ですが、ダメージは与えられますね。


「……そうだったな、貴様はよく爆発させるのだったな」


「……いや、そんなつもりはありませんが?」


私はそんなにいつも何かしらを爆発させている訳ではないと思うのですがね? ……確かに国王を殺して王女を攫う時も、貴族達を襲撃した時も、今回の襲撃の時も爆発物を使いましたが……偶然ですよ。

偶然王国を舞台にした時に爆発物を使うタイミングが重なっただけです……多分。


「火遊びはしてはいけません、と……親に教えて貰わなかったのか?」


「……………………私は、どうやら悪い子のようですからね」


違います、母は悪くはありません……母はいつも〝正しい〟とされる事を教えてくれました。

母はいつも私に対して真摯的でありましたし、私が納得はできなくても理解はできるように教えてくれていました。


「……悪いのは母様ではなく、私です。批判の対象を間違えないよう、お願い申し上げます」


「……ほう?」


私はもう一人で何も判断ができない小さい子どもではないですし、親の責任なんてほとんどありませんよ……この歳になって母を引き合いに出すなど、私に対する侮りと、非のない人に対する侮辱でしかありません。


「どうやら貴様の柔らかい部分を刺激してしまったようだな?」


「……」


「そうかそうか、なるほどなぁ……だがな? 小娘よ​」


左手の指に各種毒針を挟み、背に隠す事で相手の視界から遠ざけながら姿勢を低くし、各種強化ポーションによって一時的な強化を施していきます。

……呑気に会話を続け、一見無防備に見えても隙はありません……油断はしない方が良いでしょう。


「​──悪いのは貴様の親で間違いはあるまい?」


「​──死ね」


短刀を口に咥え、右手で火薬玉を相手の足下に放り投げて起爆……足場と共にバランスを崩させ、その高い防御力の関係ない眼球と口内目掛けて左手の毒針を投擲……そのまま再度右手に持った短刀で首を狙います。


「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


「……何が可笑しいので?」


薙刀を回転させて毒針を弾き飛ばし、崩落する床と共に落ちながら短刀による一撃を防いだところで、盛大に笑っていますね? 何か愉快な事でもありましたかね?


「いやなに、ここまで甘い考えを持っておるとはなぁ……子の責任は親の責任に決まっておろうに」


「……いいえ、母様は悪くありません」


「いいや、親であるならば責任逃れはできん」


……頭の固いお爺様ですね? 母は何も悪くないと言っているでしょうに、何故分からないのでしょう? 責任があるとすればあの男のみです。


「子どもがよく見ているものはなんだ? 影響を受けるものはなんだ? ……それは親、ひいては周りの大人よ」


「……」


「言って聞かせたから、それでも言う事を聞かないから、何か悪いものに影響されたから……こんなものはただの言い訳に過ぎん」


首を狙った突きを薙刀の柄で逸らされる……鉄と鉄が擦れる嫌な音と共に火花が飛び散る。

インベントリから取り出したナイフで、その聞くに堪えない口を閉じようとするも、そのまま噛み砕かれる……どんな顎をしているんですかね、この老人は。


「よいか? 小娘……どんな理由があれ、大人は子どもに〝あるべき姿〟を見せ、導き、育てる義務がある……それすら出来ず、失敗の責任すら果たせないのなら​──」


地面に降り立ち、相手の有利な間合いを潰すべく、そのままピッタリと張り付くように短刀で喉を、額を、心臓を……それぞれ狙います。


「​──そいつは親失格だな」


「ぐぅっ!!」


ただ一歩踏み込み、こちらを押しただけで数メートルは突き飛ばされましたね……床に使われている石材に足跡が残るほどの馬鹿力……肉体的な接触は全て避けなければなりませんね。


「……貴方は一つ勘違いをしていますね」


「ほう」


腰のアイテムバックからHPポーションを取り出して一気に煽ります。……空の瓶を握り砕き、ガラス片となった物とビー玉サイズの鉄球を透明なカプセルの中に火薬と毒薬と一緒に入れます。


「確かに母様の批判に、悪いのは私だとは言いましたが……そもそも私は悪い事をしているとは思っていなんですよ」


「……」


同じ様な即席の手榴弾を五つほど作り上げたら腰に吊り下げておきましょう。

山田さんや井上さん達に『鼓舞』スキル等でドンドン強化バフを掛けていきながら、自信にも《凶薬》でドーピングを施します。


「街を爆発させるのも、人を殺すのも、戦争を起こすのも悪い事だとは思いません」


「……意味がわからんな」


「貴方の主人である王を殺すのも、王太子を殺すのも、同僚貴族を殺すのも、王都を混沌に落とすのも​──」


何があっても切り崩されないように、壁や天井等を糸を網を被せるように施し、締め付けて補強します。

さらに、この空間全体に触れるだけで皮膚を切り裂く硬度の糸に劇毒を垂らした物を張り巡らせます……さながら大泥棒がスコープを付けながら避ける赤外線みたいですね。


「​──火遊びと同じく、ただの『遊び』なんですよ……そこに〝善悪〟の感情は一切ありません」


「ははぁ、なるほどなぁ​​──うむ、死んで良いぞ」


まずは一つ目の手榴弾を《流星》で投擲し、三田さんに魔術で結界を張って貰ってその背後に隠れてやり過ごします。


「かァッ!!」


三田さんの張った結界が、赤熱させた薙刀によってバターのように切り裂かれるのを一部の安全な糸に掴み乗る事で回避しながら視認します。


「……貴様の親の教育の失敗、儂が尻拭いしてやろう」


「……『遊び』で主君を二度も失った哀れなご老体にお気遣い頂かなくとも……ちゃんと『遊んで』、また仕えさせてあげますよ」


「子は親を選べないからのぅ……可哀想な事じゃて、こんなになるまで親に教育して貰えんかったとは」


「長い人生の最後に、主君を立て続けに失うなんて最大の汚点を飾った貴方ほどではないですよ?」


「「​──死んでください死んでくれ」」


足場にした糸をバネにして、薙刀を振りかぶる老人に向かって突撃します。


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