第182話第二回公式イベント・collapsing kingdomその14

「​──止まれ」


「『……』」


半壊し、さらに入り組んだ王城内を駆け抜けていると、身長が二メートル以上はありそうな偉丈夫が通せんぼして来ましたね……着ている衣服や装備品、装飾品から見るに大物の可能性がありますね。


「どちら様で?」


「……エルマーニュ王国軍総大将、アードルフ・M・サウスクラウド」


「……ほう、総大将?」


思った以上の大物でなんだかワクワクしてきますね。

これまで王城内で出くわしたのは壊乱している兵士の方々のみ……それも殺すとなるとハンネスさんと蘭花さんが邪魔して来ますので、ちょっと消化不良気味でしたんですよね。


「そんな方がどのようなご用件で?」


「知れたこと……歴史と伝統ある我が祖国に唾吐く大逆罪共を誅するのよ」


なるほど、相手も殺る気満々のようでなによりです。……出来る事ならこのまま独り占めしたい所ですが、ハンネスさん達は既に武器を構えてしまっていますね? むむむ、どうしましょうか? このままでは皆さんと​──いや、確かこういう場面では鉄板のセリフがあると、ユウさんとマリアさんが話していましたね。


「​──ここは私に任せて先に行け」


「『……』」


​──決まりましたね。人の技術を見て盗むのは割と得意ですので、ユウさんとマリアさんがふざけ合っていた時の模倣は完璧だと個人的に思いますね。

決して後ろには振り返らず、ニヒルに笑いながら右手の人差し指と中指だけを立て、左肩越しに仲間達に向けて振り下ろします。


「……おい、おま、一条……お前……え? いや、大丈夫か?」


どうやら成功のようですね。この言葉をユウさんが発した後、必ずと言って良いほどにマリアさんが「そんな! 貴方を置いて行けないわ!」だとか、「大丈夫なわけない!」みたいに、相手を心配するような言動を取りますからね……そう来たら次は​──


「​──私の努力を無駄にする気か? 良いからさっさと行きなさい。……大丈夫だ、私は死なん」


「……ちくしょう、今度はいったいなんの『遊び』なんだ?!」


心配したり引き留めようとする仲間達に対して「私の面子を潰してくれるな」とばかりの言葉を投げ掛けるのです……この時に強い断定的な口調なんかが多かったですね。口調を崩すのは少しばかり慣れませんが、これも大物を独り占めする為です。仕方ありません。


「ほう、見上げた女だな? ……全員逃がす訳なかろう」


「ふふっ」


「……何が可笑しいのかね?」


まさか総大将さんまで乗ってくれるとは……彼も私との一騎討ちを望んでいるという事でしょうか? だとしたら好都合です、このまま最後まで段取りを終えてしまいましょう。


「いえ別に……ただ​──王と王太子の仇を前に、随分と悠長な事だな、と」


「……ほう? ほうほうほう? なるほど……貴様が、貴様があの悪魔かァ……」


そうです、敵が「全員逃がさない」というような事を言ったらつかさず挑発するのです……確か二人はそんな感じで進めていましたので、間違いありません。

総大将さんもこめかみに青筋を立て、憤怒の形相で私のみを見詰めていますしね。


「さぁ、ハンネスさん達も……最初に王国攻めを提案したハンネスさんは勿論の事、皆さん他に目的があるのでしょう?」


「あ、あぁ……」


「私は別に楽しければここでイベントを脱落しても問題ありませんのでお構いなく……大国の総大将ともなれば、とんでもなく強い重要NPCでしょうしね」


私自身はスルーしていましたが、どうやら私がアレクセイさんとロノウェさんを立て続けに殺した事によって、運営がNPC全体にテコ入れを入れたようですからね……それに重要NPC自体、プレイヤーがメインシナリオを進める毎に強化されていくのが決まりのようですし、現時点での大国の総大将ともなれば……ふふっ、楽しみですね?


「お前……そんなに死亡フラグ重ねて大丈夫なのかよ​──」


「​──いいから行くぞ! アイツの頑張りを無駄にする気か?!」


「ちょっ、おまっ?! なにす、やめろタピオカマン!!」


何故か微妙な表情をしていたハンネスさんが言い募ろうとしていましたが、タピオカマンさんに羽交い締めにされながら引き摺られて行きますね……凄いですね、本当に先に行くように告げるだけで一人になれるとは……ユウさんとマリアさんのおふざけにも意味があったのですね。


「果たして死亡フラグとジェノサイダー、どっちが勝つのやら……それはヒンヌーのみぞ知る」


「それを言うなら神のみぞ知る、でしょ……個人的には御仏を推すけれど」


「……ややっ?! アソコに見えるのは?!」


「聞きなさいよ!」


それに続くようにして、ヒンヌー教祖さんと蘭花さんの二人も離れて行きますね……お互いにバラバラの方面なのが気になりますが、王城内にまで入り込めたのなら、固まる必要もありませんし、大丈夫ですかね。……一人、ヒンヌー教祖さんが王城から飛び出て行ったのが気になりますが。


「話は終わったか? 邪悪な小娘よ」


「わざわざ待ってくれていたんですね? ……だからみすみす主君を殺されるんですよ、生温い」


「……」


敵方が都合良く待ってくれるのも、ユウさんとマリアさんのおふざけ通りですね、素晴らしいです……。

ですが、これから命の取り合いをするというのに、些か不安ではありますね。……まぁ相手が殺る気をさらに滾らせるように、挑発しておきますか。


「​──それも二度も」


「​──死んで詫びるが良い」


いつの間にかこめかみの直ぐそこにまで振るわれた薙刀を、咄嗟に鞘から抜き取っ勢いのまま短刀の柄で下から殴り付けながら、姿勢を低くする事で凌ぎます。……思った以上のスピードで素直に驚きましたね。


「……ふふっ、久しぶりに楽しめそうです」


「貴様の死体を辱めてやろう」


====================


重要NPC

名前:アードルフ・M・サウスクラウド Lv.121

カルマ値:0《忠道》

クラス:黒龍武将 セカンドクラス:白豹騎兵 サードクラス:緑梟軍師

状態:仇討ち《仇を討つ時攻撃力上昇:大》

備考

サウスクラウド宮中伯・前当主

エルマーニュ王国・近衛師団長

エルマーニュ王国・総大将

エルマーニュ王国・最高戦力

ファンキー爺さん


====================


ロノウェさん以来のNPCの方との真剣勝負ですね……腕が鳴りますね? どう『遊び』ましょうか? レベル差等が大きいですから、創意工夫が必要ですね。


「楽しみましょうね?」


「主君の仇討ちとなれば、心躍るのは否定せんがな……」


ファンキー爺さんですものね、心躍るのは仕方ありませんよね。


▼▼▼▼▼▼▼


「「……」」


喧嘩をしたまま、二人で所属国である『エルマーニュ王国』へと帰還する……背中には他国の『借り者』を背負っているのを差し引いても、凄く静かに歩いている。


「「……」」


うぅ、沈黙が辛い……そろそろユウと仲直りしたんだけど……あんなにキツく言った手前、素直になれない。

本当はあそこまで喧嘩するつもりは無かったはずなのに……いや、でも私と一緒には飽きた的な事を言ったユウが悪い​──じゃなくて! 違う違う、こんな思考じゃ仲直りできないじゃない!


「「あのさ」」


「「あっ、いや……その……」」


「「……」」


まさか被るとは……いや、分かってるよ? ユウも仲直りしたいんだよね? さっきからこっちの事をチラチラと見てるし……でもなぁ、なんだかさっきのやり取りでなけなしの勇気が消えちゃったんだよね……。


「「ハァ……」」


本当にいつもこうだよね……喧嘩の原因はしょうもない事なのに、仲直りに変に時間が掛かっちゃって、馬鹿らしい……いや、ここは私からいつものスパイラルを断ち切ろうじゃないか! 駅前のケーキを奢る事になるのは癪だけど、なんだか嫌だしさ……よし!


「あ、あの! 織田、じゃない! ユウ!」


「うぇっ?! あ、はい! なんでしょう?!」


大声で隣のユウに話し掛ければ、挙動不審にワタワタとしながら気をつけの姿勢でこちらへと振り返る……もう、もう少しシャキッとしてよね! ……私も人の事はあんまり言えないけれど……。


「あ、あの……さっきは言い過ぎたっていうか……その……ご、ごめ​──」


「​──お迎えに上がりました、マリア様ッ!!」


「​──あぇ?」


聞き覚えのない誰かの声が突然耳元で聞こえたと思ったら、何故かユウがあんなに遠くに居て……ポカンと間抜けな表情を浮かべて​──


「​​──って、いやいやいや! え?! 誰?! なんで私知らない人に担がれてるの?!」


「おお! マリア様! 麗しき清らかな御身に、この現世に穢れた私めが触れる事をお許しください!」


「いや、だから……え? なに?」


さっぱり意味が分からない……人違いではないの? 私はなぜこんなにも敬われて……いるんだよね? 身に覚えがないし、なんで担がれて空を飛んでるのかも分からない……てかこのゲーム、空って飛べるんだ……。


「じゃなくて! アンタ誰よ?! セクハラよ! 降ろしなさい!」


「何を言っておられるのですか! このゲームではプレイヤーも『借り者』になるのですよ?」


「え? ……あ、本当だ」


ユウとの喧嘩と仲直りに夢中になってて気付かなかっけれど、期間中ランキングで上位五〇〇名ずつが要人として発表されてる……なるほど、それで狙われてしまっ​──


「​──つまり合法的に我が聖母をお救いできる」


「​──ヒッ!」


一瞬にして全身に鳥肌が立ち、悪寒が駆け抜ける……わ、私はただ要人枠として借りられただけのはず……な、なのになんで苦手なヒンヌー教徒達と相対した時のような悪寒が……?


「あぁ、このヒンヌー教祖……間近どころか直にマリア様に触れる事が出来て、感無量でございます……ナーイチチ!」


十字を切りながら『アーメン』と同じリズムで失礼な単語を唱えやがったコイツはどうやら敵らしい……それも不遇戴天の敵らしい。


「このっ! 離しなさい! 《聖火》ッ!!」


「うおおおお!!! 今私は聖なる炎に焼かれておる! ここ炎が消え去った時、私の身体には聖痕たる火傷跡が刻まれているであろうッ!! なんたる光栄ッ!!」


「嘘でしょ?! 効いてないの?!」


なんで?! 割と本気で燃やした筈なのに?! コイツには炎系統は効かないとでも言うの?! 冗談じゃないわ! こんな奴、早くぶっ殺して​──


「​​──あぁ、マリア様の愛に焼かれている」


なんで私は変態にしか好かれないのか……昔からそうだった気がする……そういう時に限っていつもユウが助けてくれてて​──


「​​──ユウぅ!! 謝るから助けてぇ!! 今すぐ助けてぇ!!」


涙目になりながら叫びながら、この私を捕まえる変態野郎の後頭部を殴打する……なんで喜んでるのよ?!


「大丈夫でございます、安心なされよ……危害を加えたい訳ではございません」


「……そうなの?」


ま、まぁ『借り者』になっただけだし……ちょっと変態過ぎてビビったけど、ただイベントのルールに従ってるだけか……なら何も問題は​──


「​──ヒンヌー教義、その十八ッ!! ​​​──彼女達は臆病であるが故に隠れる、故に眺めて愛でよ」


「ユウッ!! 早く助けてッ!!」


多分、今の私は顔面蒼白だと思う……状況がさらに悪化しても、周囲のNPCに被害が出ちゃっても構わないから、レーナさんが助けてくれないかな……そしたら確実なのに……。


「ヒンヌー教義、その​──」


……この変態うるせぇ。


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