第181話第二回公式イベント・collapsing kingdomその13

「なぁ、あれどう思う?」


「? あれってなんだよ?」


『エルマーニュ王国・王都』……街の中と外を隔てる巨大な外壁の上で二人の歩哨がピリピリとした雰囲気で歩いていた。……しかしそれも仕方ないだろう、この国は今現在、戦争の最中にあるのだから。


「だから、渡り人達の事だよ……第二王子​──じゃくて、王様は正気なのかね?」


「さぁな? 正気かどうかは分からんが、あの顰蹙持ちの事だ……誰かに聞かれたら処罰されるぞ」


「でもよ……戦争中だからって、厄介事しか持ってこない渡り人達を内に大量に招き入れるなんて……どうかしてるよ」


不満を漏らす兵士の同僚が窘めるも、その口は止まらない……どうやらこの兵士は渡り人に対して思う事があるらしい。……事実として、この国は渡り人から度重なる理不尽を味合わされている。……辺境に赴いた故王太子の襲撃、前王の殺害と王女の誘拐、王都襲撃とそれに合わせて有力貴族の多数暗殺、さらには次いでとばかりに毒までばら撒かれた……これで恨みを持つなという方が無理であろう。……まぁこれらは全て、単独犯である訳だが。


「でもよ、ぶっちゃけ戦力が増えるのは良い事だろ?」


「ハッ! 戦力じゃなくて内憂の間違いだろ?」


「……それ以上は止めとけ、俺がお前を連行しなくてはならなくなる」


「……すまなかったな」


徐々にヒートアップしていく同僚兵士に冷水をぶっかけるようにして、片方の兵士が強引にその口を閉ざさせる……不満を漏らしていた兵士は、冷静になって直ぐに謝罪をする。


「いや、いいさ……気持ちは分かる」


「妻の分の解毒薬が高くてな……気が立っていた」


「……この前の渡り人によるテロと、あの裏切り者のバーレンス家に内海が抑えられてて、外から薬とその材料が手に入りづらくなったもんな」


どうやらレーナの行動の結果は確実に、それも影響の大きい範囲でこの国を蝕んでいるようだ……海が使えない為に大量に生産した農産物を早く、多く輸出出来ないために獲得外貨がガクンと減り、自国では手に入らない資源の輸入もできない……それどころか、海路を通じて交流のあった国々と連絡も取れないと来たものだ。……この国は今、大国とは名ばかりで、その実際の国力は大きく減退している。


「あぁ……厄介な毒なのか娘も完治したとは​──あれはなんだ?」


「ん? ……渡り鳥の群れ、か?」


神妙な顔で話していた兵士が突然に上空を見上げ、唖然とした間抜けな顔で固まる……その様子に同僚は首を傾げながらその視線を追い、自身の目に入ったあまりの光景に現実逃避をする。


▼▼▼▼▼▼▼


「マジか? マジですんのか? なぁ?」


「マジマジのマジですよ、ハンネスさん」


「ふえぇ……!!」


王都さえまだ見えないほど離れた距離の内から、影山さんの影を『物質化』と『硬質化』を掛けながら上空へと伸ばし、嬉々としたヒンヌー教祖さんに《流砂》をその表面に流して貰う事で、実質的に陽の光が当たらず、わざわざ上空に火薬玉を投げなくとも影を維持できるようになりました。……口で言ってもここには居ないマリアさんに語りかけるばかりで無視していたのですが、ビンタをしたらむしろ積極的に協力してくれましたね。


「じゃあ、あなた達の準備も良いですね?」


「『……』」


「良いと受け取りました、では行きますよ!」


瞳からハイライトを消失させた総勢八百四十名の兵士達の足下の影を車輪にして・・・・・、腰に束ねた糸を巻き付けてから​──思いっ切りポン子さんのアクセルを踏み、さらに《加速》と《噴射》を重ね掛けします。


「この​──」


それによって後ろに個別に巻き付けた糸とは別に、集団を束ねる為の糸で四列に並ばせた兵士達を列車の様に引き連れ、猛スピードでドンドン上空へと駆け上がって行きます。


「​──バカ女ァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」


「お母さァァァァァあんンンン!!!!!!」


「マリア様バンザァァァァァァァァアイィィィイイイイイ!!!!!!!」


三者三様の叫びを上げる彼らを無視してさらにスピードを上げます。……まったく、冷静さを保ち、落ち着いているタピオカマンさんを見習って欲しいものですね? ……生暖かい視線を寄越されるのは謎ですし、釈然としませんが。


「おや、もう王都が見えて来ましたね? では皆さん行きますよ!」


「一旦止まれやァァァァ!!!!」


基礎レベルやスキルレベルが上がり、思っていたよりも速度が出ていたようですね……もう既に見えたと思った王都が間近に迫っています。


「それでは一番隊の皆さん! 行ってらっしゃいませっ!」


「馬鹿野郎ォォォオオ!!!!」


王都の西門を超える少し前に、集団として束ねていた糸の一つをポン子さんから外し、井上さんのパワーアシストと山田さん達の各種強化、それと薬によるドーピングで一時的に人外と化した膂力でもって二百十名の兵士達をそのまま投げ飛ばします。


「死んだ! 死んだぞアイツら!」


「あぁ、御仏よ……彼らの魂が正しく輪廻の輪に還るようお導きください……」


投げ飛ばされ、思いっ切り降下していく彼らが地面や建物に激突する前に、今度は逆にこちら側へと引っ張り上げる事で勢いを強引に殺し、糸を離します……訓練や練度が足りないと言っても兵士です。……あれくらいの高さと勢いなら、自分達で対処出来るでしょう……それに、この降下自体で二割程度の損害までなら許容範囲内です。


「さぁ、次行きますよ!」


「この頭イカレポンチがッ……!!」


西から逆時計回りに南、東、北と王都の上空を駆け回り、それぞれに兵士達を強引に空挺降下させた後、王都の中心に位置する貴族街の真上へと走ります。……どうやら、さすがに上空を見上げる歩哨等も居るようですね?


「さぁ四人共、準備は良いですか? 降りますよ!」


「クソっ! もうどうにでもなりやがれっ!」


「​──仏説ぶっせつ摩訶般若まかはんにゃ波羅蜜多心経はらみったしんぎょう


「あぁ! この私が描く垂直降下の軌跡こそが、愛すべきマリア様の平野部だと思ってッ!!」


「……アイツの身内、ろくなのが居ねぇな(ボソッ」


さてさて、全員​──リリイさんが居ませんが​──の準備が整ったところで、盛大に登場と行きましょうかね? 全員で一斉に飛び降りながら、『遊び』で作ったは良いものの、これまで全く使い道の無かった球体・・を取り出します。


「……おいクソ女、一応聞くがそれはなんだ?」


「見れば分かりますよ」


空中で球体・・を取り出した私にハンネスさんが顔を引き攣らせながら尋ねますが……これは見た方が早いでしょう。


「​──ッセイ!!」


光属性と闇属性を混ぜる事で生まれる複合属性である〝null〟……それに私のカルマ値を幾つか消費する《神気冒涜》スキルを使用する事で生み出す混沌属性・・・・……それを、『調薬』、『解体』、『実験』等の上位スキルを一定のレベル以上にする事で取得できる『科学・下』スキルによって生成した|水素と酸素の混合物に、これまた複合スキルである『合成錬金』で​──混ぜっちゃった・・・・・・・物になりますね!


「さーて、どんな効果が​──」


あるのでしょうか? ……そう言い終わるよりも先に強烈な衝撃と、音とすら認識できない爆音と共に身体をめちゃくちゃに振り回され、気が付いたら太陽がすぐ目の前にありました。……下を見ればさらに遠のいた王都の中心地​──らしき物が見えますね。……というか、いつの間にやらハンネスさんに庇われていたようですね? 下を振り返る時に気付いたのですが、どうやら咄嗟に抱き留めてくれていたようです。とりあえず自作のポーションを掛けておきましょう、念の為に。


「……やり過ぎたみたいですね」


「絶対許さん」


頭のすぐ上から聞こえるハンネスさんの恨み言を聞きながら、そのまま二人で自由落下を開始します。……ふむ、どうやら他の三人も無事に落下しているみたいでなによりです。


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