第179話第二回公式イベント・collapsing kingdomその11
「……所詮はゴム玉、そこまでのダメージじゃない」
「ほう?」
殺傷能力の高いスキルを乗せたゴム玉だけを弾き、それに紛れるただのゴム玉はあえて無視してスメラギは冷静にそう分析する。……事実として、数多の
「《リジェネ・エクスヒール》……そしてその微々たるダメージもこれで解決だ」
「……ふん」
そう言ってスメラギが継続回復の魔術を行使する……効果は直ぐに現れ、それによりただのゴム玉によるダメージは完治してしまう……それを見てエレンが詰まらなそうに鼻を鳴らす。
「《ヘヴィ・ジャグリング》」
「育ちが悪いと同じ事しかできないのかな? 《ローリング・スラッシュ》!」
重量を異常な程に上げ、スキルのエフェクトを纏わせながら放たれたゴム玉をスメラギが回転しながら切り落としていく……察知系スキルに導かれるままにつま先を軸に回転し、上から降ってくるのを叩き落とし、左右から迫るものを切り払ってから背後から飛んでくるものを弾く……そして何もスキルを乗せられていないただのゴム玉は仕方ないとばかりに無視しようとして──
(これはただのゴム玉、無視して──ッ?!)
──直前に反応したパッシブスキルである『超直感』に従い身体を横に逸らせば……自分が今まで居た床を、濁った紫色のエフェクトで出来た兎を纏ったゴム玉が貫いていく……それを見たスメラギは背中に冷や汗を流す。
「お? 勘が良いな、坊ちゃん」
「偽装スキル、か?」
「さぁてね? ……《夜の群れ》!」
「ッ! 《朝日の一刺し》ッ!!」
今までだって戦闘中に『看破』スキルは常時発動していたはずのスメラギは困惑するしかない……そんな彼に構うことなくエレンがスキルを発動し、ゴム玉が飛来したところからまるで舞台の幕のように闇が拡がり、それに対抗するようにスメラギとスキルエフェクトを纏わせながら突きを放ち、その幕を引き裂いていく。
「上ばっか見てんなよ! 《宵闇兎》!」
「クソッ! 《聖光破断》ッ!!」
上から降り注ぐ攻撃に対応していたスメラギの、目線の下から駆け抜けてくる小汚い兎をスキルを発動しながら斬り裂いていくが──
「──ただのゴム玉?!」
「おら! 目立つ物ばかり見てんじゃねぇぞ!」
「──ガハッ?!」
殺傷能力の高いゴム玉を優先的に斬ったはずだと……そう驚愕するスメラギの認識外から飛来するただのゴム玉──否、本当のスキル攻撃が彼の腹部を強打する。
「ぐぅっ!! ……《エクスヒール》!!」
「ぼさっとしてんじゃねぇぞ! 《流星群》!!」
「クソッ! 《ピアース・ロザリオ》ッ!!」
息付く暇もなくエレンがスキルを発動し、一つ一つのゴム玉が光芒を曳きながら幾重にも分裂してスメラギに殺到していく……それを数多の突きを刹那の内に重ねるスキルで丁寧に迎撃する。
(
『看破』と知覚速度を引き延ばす《ゾーン》を発動しながら一つ一つ丁寧に迎撃するも、どうしても数発の
「ハッハッハッ! どれが本物でどれが偽物かぁ!! そもそも見つけられてんのかぁ?! あぁ?!」
偽装系スキルで視覚情報だけでなく察知系スキルすらも誤魔化してスキル攻撃とただのゴム玉を入れ替えるだけでなく、隠蔽系スキルを織り交ぜそれらの一部すらも隠してしまう。……突如として現れる攻撃を斬り裂いてもただの幻覚、向かってくる攻撃を迎撃してもほぼ無害のゴム玉、本物と偽物の全てに対応しようとしても数が多過ぎて打ち漏らしがある……相手は剣一本で戦っているわけではないのだから。……そして察知系スキルの優先順位が低いはずのただのゴム玉だった物が、数多のスキル攻撃に紛れてスメラギを強打する。
「……すぅ〜、はぁ〜」
「なんだ、気合いを入れ直したのか?」
「……ここは狭い通路、そうだね?」
「あぁそうだ、俺に有利なフィールドだ。……お前も現在進行形でその身で味わってんだろ?」
「あぁ、悔しい事に事実だ。……でもね──」
エレンの勢いに呑まれまいとスメラギ自分の頬を叩き、深呼吸をして気合いを入れ直す……余裕ぶった──いや、事実として余裕があるエレンが煙草を取り出すのを苦笑して見ながら長剣を顔の横に水平に構え、そのまま──
「──僕が殺すつもりなら君に逃げ場は無いって事さッ!! 《課金アイテム・明日から本気出す》ッ!! 《
「な、おまっ──」
特定のスキルや魔術、アイテム等を発動するのに必要な手順の一切を省略する課金アイテムをスメラギが発動し、詠唱を省略した《神託》スキルを狭い通路に挟まれた敵へと放つ……直前でエレンがスキルで発動した防御や攻撃ごと、その《神託》スキルによる破壊光の奔流は領主館の壁や天井の一部ごと消滅させる。
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「……君は強過ぎた、だから仕方がないんだ」
一人になった空間でスメラギは、天井が吹き飛ばされてなお止まらない破壊光が蒼穹の空を真っ白に染め上げ、周囲の雲を散らしたのを眺めながら懺悔する……彼とて、出来ればNPCを殺したくは無かったが、あのままでは拉致があかなかったし、《宣誓》スキルのデメリットも馬鹿にならない。
「はぁ……はぁ……」
長剣を床に突き刺し、それを支えとしてスメラギは先程の戦闘を振り返る……レーナに良いように殺されているイメージしか無かったNPCだったが、蓋を開けてみればまさかの大苦戦だった……反省する事は多い。
「次からは気を付けないと──」
「──いいや、お前に次はない」
「──ごふッ」
特殊強化等を解いたスメラギの
「……参ったね、君は本当に凄い」
「そりゃどーも」
「……最後に聞いても良いかい?」
「……なんだ?」
「……どうして君は生きている?」
リスポーンするほんの少しの時間の間に片眉を上げるエレンに問えば……彼は鼻で笑い、それこそ人を小馬鹿にしたような表情をした後で詰まらなそうに無表情へとその顔を戻す。
「ガキが、玉遊びに夢中になり過ぎなんだよ」
「……なるほど」
その一言で全てを理解したスメラギが燃えるようにして消えていく……その刹那の間で彼は、いったいどの時にエレンが
「兄貴、終わりましたか?」
「あぁ終わった、そっちはどうだ?」
「一人だけ生け捕りにしましたが……どうしやす?」
通路の廊下のフローリングを押し上げて、最初に逃げたはずのエレンの部下が顔を出す……その手には手首から先のない男性の襟首が掴まれていた。
「背後関係は洗ったんだろうな?」
「勿論でさぁ」
「よし」
部下が床に転がした男性は先程まで戦闘をしていたスメラギと同じ鎧を装備しており、そのプレイヤーは恐怖の眼差しでエレンを見上げている。
「それで? この男はどうしやすか?」
「た、助けてくれ……降参! 降参するから戦闘状態を解除してくれ! ログアウトできない!」
エレン達には理解できない単語を叫ぶ男性をゴミを見るような目で眺めながら、壁や天井からも出てきた部下達に指示を出す。
「──吊るせ」
「了解しやした」
「や、やめっ! 助けてくれぇ!」
自分達の
「嫌だぁぁぁぁあ!!!」
見通しの良くなった天井の一部から覗く大空を見上げ、哀れな渡り人の悲鳴を聴きながらエレンは愛用の煙管を取り出してそれに火を着け、口をつける。
「──アウトローに手を出すからそうなる」
吐き出した紫煙を纏わせながらその場を離れ、彼がクソ女と言って憚らない渡り人がこれから起こす惨事を思い、胃の辺りを抑えながらボヤく。
「……誰か代わってくれねぇかな」
久しぶりに『遊んで』ハイになったテンションが急降下するのを自覚しながら……今は戦闘後の余韻を一服しながら楽しむ。
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