第178話第二回公式イベント・collapsing kingdomその10
「《天翔飛斬》!!」
「っとぉ! 《紫闇流動壁》!」
曲がりくねった狭い廊下を二人の男……『バーレンス王国』の国王でありムーンライト・ファミリーの幹部であるエレンと『皇国神聖騎士団』のギルドマスターのスメラギが駆け抜ける。
この狭い通路では外しようが無いためか、スメラギが遠距離用の物理攻撃スキルを放つがエレンはそれを絶えず流動する闇属性の壁で逸らし、斜め上の天井を傷付けるだけに留める。
「おらぁ! 《キラー・ジャグリング》ッ!!」
「チィッ! 《とぐろ龍》ッ!!」
さらに袖の下からゴム玉を取り出したエレンがデタラメにそれを投擲し、狭い通路内を縦横無尽に跳ね回るそれが多少の時間差をつけて一斉にスメラギに殺到する……それに視認するや否やスメラギは手に持つ長剣を龍の顎に見立て、流れるように予測できない動きでもって回転しながらその一切合切を斬り捨てる。
「ヒュッー! やるねぇ、坊ちゃん!」
「……いったい何処まで続いてる?」
口笛を吹きながら囃し立てるエレンをサラッと無視しながらスメラギは思案する……先ほどからずっと同じ廊下が続いているこの状況がよく分からないからだ。曲がりくねったり、階段を登ったり降ったりとはしてはいるが……一向に他の部屋が見当たらない。
「この建物はどうなっている?」
「どうって……そりゃマフィアの拠点の一つだからな、隠し事の一つや二つはあるのさ」
「……まともに答える気はないようだね」
我慢できずにスメラギがエレンに問うが……鼻で笑いながら指を顔の前で振り、小馬鹿にする表情で答えをはぐらかす彼を見て眉間に皺を寄せる。
「……あの女が領主館を爆破しやがったからな……クソっ」
「……その、すまない」
小馬鹿にする表情から一転して暗い影を背負い、露骨に落ち込むエレンを見て、レーナが領主館を爆破した原因の一人でもあるスメラギは反射的に謝ってしまう。……彼は普通に善人なのだ、どこぞの狂った女性プレイヤーと違って罪悪感くらいは感じるらしい。
「なんてな! 今はここが領主館だよ! 《宵闇兎》ッ!!」
「このっ?! 《Z飛斬》ッ!!」
エレンが投擲する複数のゴム玉に濁った紫色のエフェクトで出来た兎が纏わりつくようにして現れ、ゴム玉の跳弾に生物的な不規則さが加わってさらに段着予測が困難になる……それを受けてスメラギが長剣に蒼紫のスキルエフェクトを纏わせ、手首の振りと身体の回転のみで不規則に、円ではなく多角形を描くような斬撃でもって迎撃しながら、その斬撃自体もエレンへ向けて放つ。
「おぅ?! ……遠近両用かよ、おっかねぇな」
「そっちこそ、変なスキルを──ごふっ?!」
飛翔してくる斬撃を紙一重で躱しながら文句を言うエレンに返事を返そうとしたスメラギの後頭部にゴム玉が直撃する……どうやら殺傷性の高いスキルを纏わせた物に紛らわせる事で、感知スキル等が捕捉する優先度を下げ、相手の虚を突く形で飛来したらしい。
「ぷぷっ、見事に引っかかってやんの!」
「……」
自分が考えた策に引っかかったのを見て、エレンがスメラギを煽る煽る……しかしながら当のスメラギは黙って俯き、身体を震わせるのみである。
「お? 怒っちまった──」
「──この、バァッーカ!」
さすがに煽り過ぎたかと、エレンがスメラギに声を掛けようとすると突如として顔を上げた彼が大声で稚拙な罵倒を叫ぶ。
「お前なんか、お前なんか……もう怒ったからなぁ?!」
「…………えぇ?」
「覚悟しろッ!!」
そのあまりの罵倒の語彙力の無さにエレンが素で呆れる……彼は、スメラギは育ちが良すぎてマトモに人の悪口を言った事がないのだから、仕方がない……ついでに言えば「お坊ちゃん」と言われるのもコンプレックスだったりする。……どうか優しくしてあげて欲しい。
「お前、罵倒のボキャブラリー少な過ぎねぇか?」
「五月蝿いッ!! 『身体超過・神聖騎士』ッ!!」
「あ〜……こりゃ本気で煽り過ぎたか?」
エレンがゴム玉に混ぜてレーナから預かっていた毒煙玉も投擲するが……身体強化を施したスメラギに全て弾かれ、毒煙は風で散らされる。
「はぁ、仕方ないな……『身体透過・宵闇隠し』」
「このっ?! 『身体超過・嵐雷騎士』ッ!!」
「『身体昇華・嗤う道化』」
「『魂魄超過・神聖なる導べ』ッ!!」
「『魂魄昇華・喜怒哀楽』」
後ろ向きに狭い廊下を駆け抜けながらエレンは吹かしていた葉巻を放り投げ、特殊強化を施す……そんな彼をスメラギは追い掛けながら負けじとさらに特殊強化を発動する。
「《エクスエンチャント・フィジカルパワー》、《エクスエンチャント・フィジカルバリア》、《エクスエンチャント・アクセラレータ》、《エクスエンチャント・セイクリッドネスブリリアンス》、《エクスエンチャント・リジェネレーションストーム》」
「《エクスエンチャント・フィジカルパワー》、《エクスエンチャント・アクセラレータ》、《エクスエンチャント・デクステリティ》、《エクスエンチャント・イビルスピリット》、《エクスエンチャント・カンカラーフレイム》」
エレンとスメラギの両名が自身に強化を施していく度に攻撃は激しさを増していく……ゴム玉が跳弾する度に壁は抉れ、それを迎撃する度に床は寸断される。……未だに建物が倒壊しないのは、両者が絶妙な力のコントロールをしているからに他ならない。
「『──神前宣告・僕は皇国の剣』ッ!!」
「『──神前宣告・闇夜に嗤う』」
「『──神前宣告・僕は皇国の盾』ッ!!」
「『──神前宣告・俺は道化師』」
====================
種族:聖人
名前:スメラギ Lv.92《+30》
カルマ値:277《極善》
クラス:神命騎士 セカンドクラス:嵐雷騎士 サードクラス:神聖導師
状態:
神聖なる導べ《INT上昇:特大・DEX上昇:特大・攻撃時ランダムで武技発動・武技の与ダメージ上昇:極大》
神前宣告:聖伐《STR上昇:極大・VIT上昇:極大・混沌に属する者に対する与ダメージ上昇:極大・混沌に属する者と戦う時全ステータス上昇:極大・常時HP減少:3%/1s》
====================
====================
重要NPC
名前:エレン・クラウディア・バーレンス Lv.101《+30》
カルマ値:-512《邪悪》
クラス:夜闇 セカンドクラス:嗤う道化師 サードクラス:情緒不安定
状態:お遊び《人を揶揄う時攻撃力上昇:大》
宵宮隠し《INT上昇:特大・AGI上昇:特大・攻撃に暗黒属性:極大・回避率上昇:極大》
嗤う
喜怒哀楽《STR上昇:大・INT上昇:大・AGI上昇:大・DEX上昇:大・攻撃時ランダムで武技発動・武技の与ダメージ上昇:極大》
神前宣告:踊る道化《STR上昇:極大・DEX上昇:極大・秩序に属する者に対する与ダメージ上昇:極大・秩序に属する者と戦う時全ステータス上昇:極大・常時HP減少:3%/1s》
備考
ムーンライト・ファミリー 若頭
バーレンス辺境伯(偽)
バーレンス王国・国王
傀儡の王
神の道化
混沌の使徒
====================
「君はいったい……」
「じゃ、準備はいいか? 俺はこの後も仕事が溜まってんだ──」
お互いにそれぞれ武器を油断ならない相手に向けて鋭く構える……特に《看破》でエレンのステータスを覗き見たスメラギは一瞬で冷静に戻り、驕りや隙の一切を排除する。
「──いっぺん死んどけ」
「……絶対に倒すッ!!」
二人が駆け出すと同時に、『始まりの街』に異音が鳴り響く。
▼▼▼▼▼▼▼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます