第177話第二回公式イベント・collapsing kingdomその9

「すんませんっしたァ! 許してくださいッ!」


「……」


そう言って俺は真っ赤に晴れ上がらせた顔を隠すように土下座をし、スメラギとやらに謝罪する……チラリと横目で見る床には同じく顔をボコボコに晴れ上がらせた部下達が転がっている。


「はぁ……だから言ったのに」


「へへっ、この通りです!」


溜め息をつきながら、どうしよもない者を見る目で俺を見下す奴に卑下した笑みを浮かべながら両手を合わせ、必死に媚びて許しを乞う。それはもう、縄張り争いに負けた子犬さながらに。


「数発殴っただけて音を上げるなんて……まったく、ただのNPCがトッププレイヤーに勝てる訳ないだろ」


「? ……そうっすよね! ホントすいません! 自分がバカでした!」


NPCだとか、トッププレイヤーだとかは意味不明だが……まぁなんとなく馬鹿にされているのだろうと分かる。それを全力で肯定し、ヨイショする。


「でも仕方ないんすよぉ〜、レーナの奴に脅されてて……」


「……あぁ、ジェノサイダーか」


「まったく、あの女め……人様に迷惑しか掛けない!」


やっぱり、あの女は良くも悪くも有名人らしい……ここはこのネタで猛プッシュだ。……見れば目の前のスメラギを眉間に皺を寄せているし、何か因縁でもあるのだろう。


「あ! どうです? なんなら一緒にあの女を騙し討ちしませんか?!」


「……確かに彼女は色々とやらかし過ぎだし、チュートリアルおじさんを殺された恨みもある」


「なら話は早い! 俺と一緒なら疑われずに接近できますよ!」


チュートリアルおじさんが誰かは分からないが、どうやら知り合いを殺さられているらしいな……あの女はいったいどれだけの人に恨みを買っているのやら。


「……そうだね、自分の所属する国のトップに話しかけられて警戒する人も居ないか」


「話は決まりましたね! 行きましょう!」


土下座の体勢から顔だけを上げ、間抜け面を晒しながら奴を急かす……こちらを胡散臭そうに見られるが、まぁ仕方ないだろう。先ほどまでと百八十度も態度が違うのだから。


「あぁ……変な真似はしないでね?」


「もちろんっすよ!」


肩を竦め、執務机の前で座り込む俺に警戒しながら出入口の方へと奴が振り返る……横目でこちらを確認しながら、油断なく部屋を出て行こうとする奴の​──


「《紫闇一握》ッ!!」


「​──おぅっ?!」


​──股間をスキルで強化した手で握り潰す……脂汗を大量に流しながら、急に目の前に現れた俺に驚愕の眼差しを向けるスメラギを鼻で笑ってやる。恐らく今奴は突然の事態と股間のパニックで頭がパニックになっている事だろう。


「な、なぜ……」


「ん? 好きだろ? 玉遊びが」


「ち、違​​──おぅふ」


股間を握る手に力を込め、言い募ろうとする奴を黙らせながら目線と顎の動きで背後を確認するように促すジェスチャーをする。


「……なぁ?!」


「ようやく気付いたか、間抜けめ」


背後を振り返った奴の視線の先には土下座した俺ではなく、白目を剥きながら気絶している白と青を基調とした騎士鎧を装備した男……奴の部下が転がっていた。


「いつの間に……」


「お前が部屋に入って来た時から《偽装》スキルは発動してたさ」


周囲に転がるのも俺の部下ではなく、奴の部下……自分が最初から騙されていたと思ったのだろう、同士討ちをさせた俺をキツく睨み付ける。


「ほら、命までは取らねぇから誰の差し金か​​──」


「​──《風刃防球》!」


「おっと」


自身の周囲に蒼い風の刃を拡散させ、俺の拘束から逃れた奴が剣を構える……マジかよまだやるのかよ……普通、仲間が全員やられたら諦めないか?


「……一つ、聞いてもいいかい?」


「なんだ?」


「君の部下は何処に行った?」


こんな時に質問してくるから何かと思えばそんな事かよ……まぁ、目に見えない敵っていうのは警戒するのは当たり前か……でもなぁ、アイツらなぁ。


「アイツらなら逃げたよ……」


「……は?」


「最初に文官が退出しただろ? アレ、全員俺の部下」


「……人望ないんだね」


「非戦闘員だから仕方ない」


そもそも武官は完全に俺の部下じゃないからか、さっさと前バーレンス辺境伯の護衛に向かっちまったからなぁ……人望無いと言われれば、言い返せない。


「……で、まだやるか?」


「あぁやられっぱなしは癪に障るし、今度は常に《看破》を使用するしね」


「そうか」


出来れば諦めて帰って欲しいんだがなぁ……まぁ仕方ないか、この国はあのクソ女のせいで色んなところから恨みを買ってるしな……本当にどうしようもねぇ。


「……僕を怒らせたんだ、覚悟は良いね?」


「ハッ! お前こそ、また玉遊びし足りねぇだけじゃねぇか?」


「「……」」


こめかみに青筋を幾本も立て、目元と口元を引き攣らせて怒りを露わにする奴と向かい合い、俺は拳を、奴は剣を……お互いに構えて相手を見据える。そのまま呼吸を合わせて一気に​──


「​──あばよ!」


「なぁ?!」


​──背後の出入口へと失踪し、逃げる……奴の勝利条件は俺を攫う事、俺の勝利条件は捕まらない事……なら馬鹿正直に付き合う理由もない。そもそも暗殺者が騎士と正面から殺り合わねぇよ。


「待て! 卑怯者め!」


「ハッハッハ! 待つかよバァーカッ!」


「このっ!」


狭い廊下を失踪し、追い掛けて来る奴から逃げる……他にも五人ほど居た奴の部下を早期に排除出来たのは運が良かったな。完全にこちらを……NPCだったか? とかなんとか言って侮っていたのが原因だろうか。


「ほい!」


「そんな物が当たるわけ​──ガッ?!」


「間抜け! 後頭部にクリーンヒットしてらぁ!」


奴に背を向け逃げながら脇の下を通すようにして、特殊な指に挟める大きさのボールを投げ、避けられるものの斜め上の天井に当たり、勢いよく弾かれたそれが奴の後頭部に直撃する。


「……いったい何をした?」


「なに、ただの玩具さ」


一旦立ち止まり、警戒する奴に見せびらかすようにして両手の指の間に挟んだそれを見せる……見た目はただの小さい玉だ。


「大陸東南に幾つか島国があってな、そこに生える特殊な木の樹液を、これまた特殊な薬品と混ぜる事でできる素材を小さなボールに加工した物だ」


「……スーパーボールか」


「……なんだよ、似たようなのがもうあんのかよ」


てっきり俺が最初に発明したと思ったんだが……残念だ、一儲けしようと思ったのに。……まぁいいか、どの道まだそんなに流通していないみたいだし。


「それで? そんな玩具でいったいどうするつもり​だ?」


「​さぁ? これをこの狭い廊下で投げたらどうなると思う?」


「……まさか」


俺が何をするつもりなのかを察した奴が目を見開く様を嘲笑しながら《回転》、《跳弾》、《加重》、《加速》、《影分身》を手に持つゴム玉にどんどん重ね掛けをしてから​──


「​​──好きだろ? 玉遊びが」


「……本当に僕を怒らせるのが得意みたいだねぇ!!」


​──最後に《流星群》で威力と数をさらに増やし、正面の奴ではなく斜め前方の壁と床には叩き付ける。


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