第175話第二回公式イベント・collapsing kingdomその7

「んー? リリィちゃんのヒンヌーは七十五点ってところかな? ヒンヌーではあるけど、歳の割に大きい設定にしたでしょ?」


「お、大きくねぇし!」


自分も人の事を言えないが、人の胸の造形や大きさを見ただけで思惑を見破る変態を適当に受け流しながら……横目で彼女、新しく義妹になる玲奈ちゃんを盗み見る。……まさか同じ国を選択しているとは……今のところは普通の可愛い女の子だけどね。


「ひ、ヒデ!」


「おっと、リリィどうした?」


「リリィじゃねぇ! ナオだ!」


変態から逃げおおせる為に、botで組んだ泣き顔と困り顔、そして焦り顔と強がり顔を同時にONにして〝本当は怖いけれど、元男としてそんな弱みは見せられねぇとばかりに強がるが、目尻に涙が浮かび、傍から見たら彼氏に助けを求める少女にしか見えないTS娘〟を演じながらタピオカマンの背後へと隠れる。……ついでに今の名前ではなく、TS前の男だった時の名前を強調する事も忘れない。


「……タピオカマンさんのリアルネームっすか?」


「ん? あぁ、違う違う。……ヒデというのは〝二人が中学生自体に始めたオンラインゲーム、それのキャラクターネームだったんだけど、不意に学校でもナオが間違えて呼んでしまった事を発端にして、リアルでもその時のキャラクターネームで呼び合う関係が続いている〟っていう設定なんだ」


「……そうっすか」


彼は確か……ハンネス君だったね? 玲奈ちゃんと同じペアだし、そうでなくとも普通に知り合いみたいだね……どうやら二人共トッププレイヤーみたいだけど、僕ってばロールプレイに夢中でゲームの攻略にはまったく興味ないからなぁ。


「……おい、誰と話してんだよ」


「ん? 同じ冒険者仲間だよ」


「……けっ! そうかよ!」


隠れた背後からタピオカマンの服の裾を掴んで引っ張りながら、面白くないという顔を作りながら見上げるように質問を投げ掛ける事で〝自分の嫉妬という感情に薄々気付きながらも蓋をして無視し、されど親友が楽しそうに話す様子が気になって仕方がなくて混ざろうとするも、たった一言で終わってしまい不貞腐れながら、内気で陰キャな俺とは違って親友は社交的でクラスでも人気者だった事を思い出し、男の時はなんでも無かったどころか自慢でもあったそれが、不意に自分の胸を痛めるのに首を傾げながらも服の裾は離さず、身体で構えと訴えるTS娘〟を演じる。


「そうだ! これから作戦会議するんだけど、リリィも良かったら来るかい!」


「っ! ま、まぁお前がどうしてもって言うならついて行ってやっても良いけどよ……」


「ちなみに今のは〝どうせ俺なんてお荷物だし、昔とは性別も違うししょうがねぇよな……と半ば諦めながら涙を流しかけたところで、当の親友からの前と変わらない対応と誘いに内心とても嬉しいけれど、本人もそれには気付かず、また素直に認めるのも面白くないためにぶっきらぼうな態度を取ってしまうTS娘〟だよ。ほらこれ見て、botを組んで顔は仏頂面ながらも耳と尻尾だけを動かす事で喜びを表現しているんだ……芸が細かいでしょ?」


「…………そうっすか」


ただ動かすだけじゃない……あらかじめある程度に分けておく事で、『耳』、『尻尾』、『揺らす』、『強』、『速く』という五つのコマンドを思考操作で押すだけで『ピクピクッ』という動きが再現できるのだよ! アドリブで!


「とりあえずこの『バーレンス王国』には全部で三組しかプレイヤーが居ないんだ、作戦会議でもしないかい?」


「そうですね、私は構いませんよ」


タピオカマンがその場に居る皆に声を掛けると玲奈ちゃんが興味無さげに反応を示す……彼女的にはさっさと他の国を襲いたいんだろうね。……これだから異常者はいやだ、協調性がない。


「とりあえず、あそこのテーブルに座ろうじゃないか」


憩いの場である広場に、ズラッと連なる屋台のご飯なんかを食べるために並べられた、屋外カフェのようなテーブル……真ん中からパラソルが立てられ、日差し避けも充分なそこへ人数分の椅子を用意して各々座る。


「じゃあ、これからどう動くか──」


「──はい! 私はマリア様をお救いせねばなりません!」


「……マリアさんはアンタに救われて欲しい事なんてないと思うわよ」


「そ、そんな事はない! ……ないはず」


マリア……マリア? 誰だよ、ちょっと検索してみるか? 『KSO プレイヤー マリア』っと……ほほぅ? 〝聖母〟ねぇ……ふーん? ……この娘は〝TS百合〟に使える人材では?! TS娘は果たして百合なのかという永遠の議題に対する問いにはスルーでお願いします。


「……マリアさんヒンヌー教徒が嫌いって噂あるけど?」


「そ、そんな……俺は嫌われ──」


「──お前、男だろ!」


「? リリィちゃんどうしたの?」


丁度いいから、この変態を利用しようかな? どうやらマリアっていう娘に惚れてるみたいだし。……こう、キャラを崩さずに素の人と話す時は神経使うんだけれど……もう慣れたものさ! もう僕は本物のTS娘と言っても過言じゃないね! 手術しなくても妊娠できそう。


「男なら……惚れた女を攫うくらいの度胸を見せろよな!」


「ッ!! そ、そうか……俺は……」


「混沌のくせに何を遠慮してんだよ、情けねぇ奴だな!」


「ありがとうリリィちゃん! 目が覚めたよ!」


クククッ……変態とバカは扱いやすくて良いぜ、それがただの中坊となれば尚さらだね。……マリアちゃんは彼に任せて良いとして、せっかくだからこのイベントを最大限に楽しみたいしなぁ……こういう時にTS娘ならどんな騒動を起こすかな?


「マリアちゃんならどうせプレイヤーの要人枠になるしね!」


「あぁ御仏よ……か弱い女の子を攫う悪行に加担する私を見守り下さい」


とりあえず蘭花ちゃは〝TS娘がほっとけなくて色々と世話を焼きたがるも、当のTS娘に嫌がられて落ち込んでしまうし、読者からもウザかられる女性サブキャラ〟の素養は高いけれど……仏教系女子だし、パスで。


「レーナさんはどうかな?」


「私は好きにするので、そちらもお好きなように」


玲奈ちゃん冷めてるなぁ……蘭花ちゃんが微かに怯えて警戒しちゃってるじゃないか、ビクビクしてて可哀想。他人事だけど。


「あぁマリア様! 貴女はなぜマリア様?!」


「じゃあ、とりあえず要人NPCを攫いつつ、この国を襲う可能性のあるプレイヤーも攫うって事で良いかな?」


うーん、たったの六人でやるにはハードだけども、まぁこのメンツならそこそこ出来るかな? そうなると、僕はどう動こうか……〝勇者として最前線に出撃する親友の帰りを待つために留守番係になっちゃうけれど、嫌な予感がして結局追いかけちゃうTS娘〟という設定で、時間差攻撃でもしようかな?


「じゃあそれで決まり──」


──ダァンッ!!


タピオカマンが決を採ろうとしたところで目の前のテーブルを斧が叩き壊したね……ちょっとビックリしちゃった! こういう時TS娘は尻尾を膨らませながら無意識に、親友の袖を掴むよね!


「……お前ら好き勝手にほざいてんじゃねぇよ」


「……ハンネスさん?」


うん? 第一印象は玲奈ちゃんと一緒に居るただの高校生っていいイメージだったんだけどなぁ……もしかしてストレスに耐えきれなくて怒っちゃった? だとしたら期待外れ──


「──王国だ、全員で『エルマーニュ王国』を襲うぞ」


へぇ、大きく出たじゃないか……ニヒルに笑ってみせる彼に少しだけ……本当に少しだけだけど、もうちょっと期待してみようかな?


「待ってください、『エルマーニュ王国』は大国でプレイヤーの数も多いですよ?!」


「だからなんだ、この国の最大の仮想敵国は『エルマーニュ王国』と『ブルフォワー二帝国』だろうが……どっかのクソ女のせいでなぁ?」


「? ……誰でしょう?」


「『……』」


皆の反応を見る限り、玲奈ちゃんが色々やらかしたみたいだね! 本人に自覚がないのが本当に異常者って感じがして鳥肌が立つね! ……僕は普通でいたいのに。


「んん! とにかくだ、全員でまず『エルマーニュ王国』を落とす! そうすれば大分防衛も楽になるし、ポイントもガッポリだ」


「でも賭けの要素が大きいと私は思います! 特にこの変態も勝手に動くと思います!」


「あー、蘭花だったか? そんなもん今さら気にすんな……もれなく全員異常者だからよ、統率なんて取れねぇよ」


ちょっと待ってくれないかな? 僕は趣味が少し特殊なだけで普通の人だからね? この趣味も超ストレス社会が悪いのさ……まぁ『エルマーニュ王国』を全員を襲うのには賛成だね。


「まぁ、とにかくだ! ……ゲーマーならよ──」


その場で立ち上がり、玲奈ちゃんの傍まで歩く彼に注目が集まる……この時ばかりは玲奈ちゃんも興味深げに首を傾げて見上げているね。


「──ジャイアントキリングしようや……なぁ? クソ女」


「……ふふ、そうですね? 狙うなら大物の首ですよね」


ハンネス君から伸ばされた手を掴み、立ち上がる玲奈ちゃんは本物の令嬢のように様になってるね……というか本物のお嬢様だったわ、危ない危ない。……最後に〝TS娘と敵対する役〟だけど、ね。


▼▼▼▼▼▼▼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る