第174話第二回公式イベント・collapsing kingdomその6
「……なんでお互いの頬を抓ってるか、聞いても?」
「
「
レーナとハンネスがお互いにお互いの攻撃でボロボロになりながら要人NPCを拉致し、帰り着いた先でエレンに聞かれ、答える……が、半ば無視してハンネスは『さっさとこの手を離しやがれ!』とばかりにレーナを睨む……どうやら彼女は崩落した天井の瓦礫が自身の頭に当たったのがそれほど嫌だったらしい。
「まぁ、いい……ついでだから数少ないこの国を選んでくれた渡り人同士、挨拶してくれ」
「? 他に誰か居るんですか?」
「あぁ君達を入れて三組ほどだけど、この国を選んでくれたよ」
たったの三組か、三組も居たと言うべきか……マッチング待機中はもっと居たとハンネスが首を捻るが仕方がない……『2〜99人がこの国を選んでいます』という表記の仕方では勘違いをしてしまっても仕方がないからだ。……事実、間違いでもない。
「ほら、来てくれ」
「うっわ……」
「へぇ〜」
レーナが呑気な声を出す横でハンネスは、一人の背中にデカデカと書かれた〝ヒンヌー教祖〟の文字に口を引き攣らせる……本当にコイツと組むのかと言いたげだ。
「この諸々を諦めた目をしている彼女が蘭花くん」
「解脱したい……しかしこの欲求こそが煩悩」
「キッツ」
ハンネス、思わず本音を漏らすッ!! ……しかしそれも仕方がない事、この小声でブツブツと念仏を唱える少女を見れば誰も彼を責める事は出来ないだろう。……どうやら既に精神的な許容値を超える何かに遭遇したらしい。
「彼がヒンヌー教祖」
「あぁジェノサイダーちゃん! はじめまして! ……ヒンヌー教義、その七ッ!! ──脂肪を憎んで、巨乳を憎まず」
「キッツ」
ハンネス、思わず本音を漏らすッ!! ……しかしそれも仕方がない事、普通は初対面で人の胸に言及しないからだ……彼がレーナの耳を塞がなかったら恐らくヒンヌー教祖の首は宙を舞っていた。……しかし悲しいかな、レーナは迷惑そうにハンネスを見上げ、変態は濁り切った目を向ける。
「こっちがタピオカマン」
「はじめまして、僕はタピオカマンと言うプレイヤーネームでプレイしている」
「……よろしく」
いきなり『普通』の人の登場にハンネスの調子狂う……普通に甘い飲み物とか好きそうな好青年、または新入りサラリーマンといった風貌のタピオカマンが握手を求めてくるのに対して、素直に応じるようだ。……彼は同じ秩序陣営の仲間がやっと現れたと、内心嬉しさが込み上げたらしい。
「そして彼女が……ん? 出てこないな?」
「あぁエレンさん、彼女は人見知りなので僕から紹介しますよ」
「そうか? じゃあ俺はもう戻る……仕事、仕事が溜まってるんだ……」
ハンネスが『そうか、人見知りの奴もそりゃあ居るよな……』等と考えている横で、エレンが最後にレーナを睨んで行き、それに対してレーナは……素直に手を振り返してしまう。……傍から見たらただの煽りにしかなっていない。出会い頭に首を狙ってくる、人見知りとは無縁な彼女には良く理解出来なかったようだ……。
「ほら、出てきなよ」
「……(ぺこり」
「……お、おう?」
タピオカマンの背後からおずおずと出てきたのは……小柄な銀髪に青目で褐色肌の狼獣人の美少女である……どうやら割とキャラメイク拘るタイプのようで、ハンネスのような、リアルの外見を適当に使っている人達にはあまり理解はされない……だが様子を見る限り、案外まともそうな女の子にハンネスは嬉しさが──
「彼女はリリィ、女の子の──アバターを使っているけど中身はリアル成人男性。僕とはリア友で、度々リアルでのストレスを〝不幸な神様の手違いで異世界にTS転生させられてしまった、家庭的だが男らしさに憧れる男子高校生〟という設定のネカマを演じて発散させてるんだよ。ちなみに僕はその親友役でいつも巻き込まれているんだ」
「俺は男だぞッ!!」
「──なんて?」
ハンネス、思わず聞き返してしまうッ!! ……それも仕方がない事、一息で物凄い内容を捲し立てられればそうもなるだろう……彼はそのまま頭痛に頭を抱えてしまう。……レーナはレーナで『へぇ〜、普通の方はこういう遊び方なんですね』と変な勘違いし始め、いったい誰が収拾つけるんだよこれ状態である……タピオカマンが唯一まともそうなのが救い──
「ちなみに僕は〝TSしたリリィの唯一の理解者にして幼少期からの親友、同時期に同じ異世界に勇者として召喚され、成功を収めている僕に窮地を助け出される形で再会。その後も何だかんだと一緒に暮らすようになり……〟っていう設定なんだ。」
「──なんて?」
「…………アイツ元男だろうが、今は女の子だっていう自覚がないんだ……今朝だって無防備な格好で……」
──なんていう事は無かったッ!! 無かったのだッ!! ……この〝事実〟にハンネスは『え? 嘘だろ? タピオカマンさんまで〝そっち側〟なのか……?』 と、この時点で自身の許容値を超え始める。……一縷の望みを賭けて、少しおかしかったが、割とまともそうな印象だった蘭花に助けを求めて──
「──
──残念! 逃げられてしまった! 彼女は自身の許容値を超えると般若心経を唱える癖があるようだ! 涙まで流して唱えている! ハンネス、唐突の裏切りと逃亡に呆然とする……。
「り、リリィちゃんはヒンヌーだね? そうだね?」
「お、俺は男だぞッ!!」
「
ダメだ、この場の混沌が強過ぎる……今も混沌係数がグングン上昇していく。……ハンネス、今だけはラインやケリン……パーティーメンバーの皆が恋しいらしく、フレンドのコール画面を連打し始める──
「よろしく、レーナさん」
「よろしくお願いします、タピオカマンさん」
「いやー、ごめんね? でも仲良くしてくれると嬉しいな」
「? そうですね、同じ国に所属しているとはいえ『遊べ』ますもんね」
「? そうだね、一緒に頑張ろうね」
「
──が! ダメ! フレンド同士の八百長を防ぐためなのか、イベント中はコール画面は使えないようだ……それを察したハンネス、遂に膝をつく。彼はまだ男子高校生でしかないのだ、仕方がない……仕方がないのだ。
「へ、へぇ〜? リリィちゃんってヒンヌーでロリ、それに年上なんだぁ〜? へぇ〜?」
「俺は男だぞッ!! ガルルッ!!」
「
膝をついたハンネスがこの場を眺め、その目が死んでいく……だって仕方がないだろう、〝男子中学生〟が〝成人男性〟ににじり寄り、その横で般若心経を唱える女の子という図など……正気では見られるはずもない。……ただ一つだけ言える事があるならば──
「まーた何か起きてんべ」
「えぇ〜? またか? 渡り人が来てから話題に事欠かねぇな〜」
「どうでも良いから、早く領主さんに報告しなさいよ!」
──エレンの仕事がまた一つ、増えたという事だ。
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