第173話第二回公式イベント・collapsing kingdomその5
「オラァ! 待てやクソ女ァ!」
「ふふ、こちらですよ」
官吏NPCの方足首に糸を巻き付け、それを武器として振り回すクソ女を追い掛ける……確かに死なねぇ程度には手加減をしてやがるが、普通に可哀想だろうが?! クソッタレ! AGIは向こうが上、だったら──
「──《大地蠢動》!」
「おっと! ……やりますね」
すばしっこく、壁や天井まで使ってちょこまかと走り回るのなら! ……その足場ごとぶっ壊してやんよぉ! そのままバランスを崩すクソ女に向かって手斧を投擲し、糸を切り離す。
「オラッ! 国王とその側近しか用はねぇんだよ! 関係ねぇ奴らはすっこんでろ!」
「そ、そんな無茶が通るか!」
「あぁん? ……じゃあ寝とけ」
「ごふっ?!」
ったく! 素直に引っ込んでれば良いのによ……でねぇと、死んだ方がマシな目に遭っちまうぞ? 後頭部を殴打して気絶させた衛兵を壁に寝かせながら……普通に天井から垂らした糸に捕まり、難を逃れているクソ女を見て、『曲芸士かよ』と吐き捨てたくなる。
「殴ってしまってもいいんですか? ハンネスさん、暴力ですよ?」
「けっ! 救助活動の一環だからセーフだよ! ……つーかよ、お前にだけは暴力云々とか言われたくないわ」
「それは残念です」
笑顔で言いやがって、どこが残念なんだよ……せめて演技でも傷付いた振りくらいしてから言えや! 笑顔でまた新たな衛兵の鼻を削ぎ落としやがって……グロいんだよ!
「ふふ、追い付けますかね?」
「この野郎ォ……!」
速さではアイツには勝てない……俺を引き離す奴の進路上の床を斧で叩き壊し、壁を蹴ってジグザグに移動するのならば壁を粉砕する……それでも天井に糸を伸ばして飛び進むのなら、魔術スキルや手斧の投擲で妨害する。
「……ハンネスさんって、割と起用なんですね?」
「……んだよ? いきなり」
「いえ、小賢しいなって──」
「──アァ?!」
悪戯っぽく笑ったって可愛くねぇんだよ! なにいきなり普通に悪口言ってやがんだ?! ぜってぇ許さねぇ……本気で『遊び』の妨害してやんよ!
「《大地蠢動》! 《砂塵大瀑布》! 《天地返し》!」
城内を駆け抜けながら《大地蠢動》で床を崩落させ、《砂塵大瀑布》で壁から砂粒の雪崩を発生さて奴が足を掛けた瞬間に滑らせ、《天地返し》で天井に糸を伸ばす奴を逆さまにしてやる。
「本当に小賢しいですねッ!!」
「言ってろッ!!」
奴が放つ毒針の投擲を手斧の投擲で弾き返し、俺を縛り付けようとする糸の群れを《大車輪》で全て散らし、飛来する炎と風の魔術を『大地魔術』の《城塞堅固》で産み出した壁で防ぐ……そのままその壁に向かって《爆散》を叩き込み、破片と衝撃を散弾のように一緒に飛ばし、奴の投擲を防ぎながらその歩みを妨害する。
「……《流星》、《写し影絵》」
「ッ! 《天地返し》!」
「……上下だけ、ではないのですね」
このスキルは名称通りに上下を入れ替える技ではなく、範囲内にある物体の指向性を反対へと向けさせるだけだ……だが、奴へと跳ね返したはずの増殖した毒針は普通に影に飲み込まれちまったな。
「お前こそビックリ人間だわ、そんなもん食うと腹壊すぞ」
「……人からのプレゼントを突き返す人には言われたくないですね」
「「──ふん!」」
全くもって、本当に可愛くねぇッ……!!
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「お前ヒンヌーかぁ〜?!」
走る走る、ヒンヌー教祖は走る……己の欲望を叫びながら走り続ける……突き込まれる衛兵の槍の穂先を手刀で切り飛ばし、振り下ろされる長剣を裏拳でひしゃげさせ、アッパーで衛兵三人を纏め天井に突き刺しながら。
「ヒンヌーじゃなぁ〜い!!」
「この意味わからん輩をこれ以上通すな!」
「『応!』」
衛兵達も負けじと狭い通路を横に並び、槍を構える事でその進撃を止めようとするが……無理! まったく止まらない! 槍の穂先がヒンヌー教祖の胸に当たると同時に『ヒンヌッ』という鳴き声なのだろうか? それを発すると同時に槍が弾け飛ぶ。
「な、なんだコイツ?!」
「我々が理解するのは人間だけで良い!」
「ん〜〜?? あなた方こそがヒンヌーを理解するのですッ!!」
唐突にヒンヌー教祖がその場で両手を広げ、精神を統一し始め、また突然に目を見開いたかと思ったら『ヒンヌー教義、その一ッ!!』などと叫び始める……『始まりの街』の悪夢再来か?
「我々が満たされ──」
「──仏罰御免!」
「──ヒンヌッ?!」
どうやら悪夢は去ったようだ……蘭花が背後からヒンヌー教祖の頭頂部を薙刀の石突きで殴りつけ、その目端をビクつかせる。
「石森くぅ〜ん? もうイベント始まってるの? 分かる? 『始まりの街』の広場の時みたいに時間はないの!」
「……はい」
その場で正座をさせられるヒンヌー教祖改め石森君……彼は普段から意味もなく包帯を腕に巻いて学校に登校するため、学級委員長である蘭花に度々お世話になっており……あんまり頭が上がらないのだ。
「良い? 仏の顔も三度まで……あなたこれで四度目でしょ?!」
「……はい」
「『始まりの街』の広場、『アーマン子爵領』での勝利の時、エレンさんに報告する時……そして今!」
「……はい」
目の前に居るのがいつもの彼であるためか、ここがゲームだという事も忘れて蘭花は怒る……その表情にはありありと恥をかかされたという憤りがある。
「毎回毎回、時間掛かりすぎ! ヒンヌーが何かの は知らないけどね?! いったいいくつ教義があるのよ!!」
「……ヒンヌー教義は全部で百八──」
「──多いのよ!!」
「──あべしっ?!」
石森君、またも頭頂部を殴られる……しかし悲しいかな……この場に居る誰もが彼の味方をしない。衛兵達は遠巻きに『仲間割れか?』などと囁き合い、それを聞いてヒンヌー教祖と同類と思われている事にさらに蘭花の怒りのボルテージが上がる。
「ほ、ほら! そんなに怒って、暴力を振るっちゃ仏様から罰が当たる──」
「──慈悲深い御仏は罰など当てません、あるのは因果応報のみ」
「……はい」
石森君、痛恨のミスッ!! 蘭花を前ににわか知識で仏様を縦に説教を回避しようとて失敗する……怒りではなく、〝スイッチが入って〟しまった蘭花は一転して穏やかな顔で、ヒンヌー教祖を見据える。
「良いですか? 石森君……御仏は──」
蘭花が説法を始める前ではヒンヌー教祖は真面目くさった顔をしながらほの脳内で──
(ヒンヌーじゃない委員長の説法は暇だな)
──とてつもなく最低な事を考えていた。
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