第170話第二回公式イベント・collapsing kingdomその2
「ヒィッ?! だ、誰かぁ! 助けてくれえッ!!」
「あとはあなただけですので、誰も居ませんよ?」
醜くも汚らしく、この場に居ない誰かに向かって助けを乞う哀れなおじ様を網のように組んだ糸で縛り付けます……が、この方は肥太って居ますのでタコ糸で縛られたハムにしか見えませんね、少し痩せた方がよろしいですよ?
「そっちは終わったか?」
「おやハンネスさん、こちらはハムさんを捕らえたところですよ」
「ハム……?」
開いてる扉からこの部屋に入って来たハンネスさんも三人ほど要人枠のNPCを抱えていますね、さすがです。これで元帝国の『ブルー男爵領』を元にした王国の要人は全てですかね? 男爵本人とその妻子だけですから、楽でしたね。……なぜこの様な貧弱な領地で独立なんてしようと思ったんでしょう?
「終わったんなら早く行くぞ、さっさっと雑魚共を片付けて王国行きだ」
「……なにやら急いでいますね?」
この『ブルー男爵領』に着いてすぐに車酔い? からか吐いていたというのに……一分も経たない内にハンネスさんから突撃しに行きますし、何かあるのでしょうか?
「はんっ! もうお前には関係ねぇ事だよ」
「……ふーん?」
なにやら含みのある言い方ですね? 私とっても気になるのですが……ですがまぁ、関係ないと言われてしまえばそれまでですから仕方ありません、諦めましょう。
「とりあえず、この方達を移送したら次ですよ」
「まだあんのかよ……」
「そうですよ? いっぱい『遊べます』ね?」
「……そうだな」
やはりここに来るまでに飛ばし過ぎたでしょうか? ハンネスさんがもう既に疲れている気がしますね、このままイベントを続けて大丈夫でしょうか?
▼▼▼▼▼▼▼
「「……」」
現在、僕とマリアは黙々と要人である官僚を縛っていく……便利な輸送手段なんて早々あるはずもないから全て手作業で捕縛し、一人一人担いで拠点とする国へと運ぶ。
「……ん!」
「……ん」
仏頂面のマリアが雑に渡して来たロープをぶっきらぼうに受け取り、要人枠である官僚NPCの手足を縛り、背負子の様に背中に括りつけて落ちないようにする。
「……はい」
「……ふん!」
その作業が終わった後にマリアの方には振り向かずにぶっきらぼうにロープを返せば、仏頂面のマリアがそれをひったくる様にして奪う……そんな受け取り方はないだろ?
「……乱暴だね?」
「っ! ……
「……別に他に人も居ないし、無理に苗字で呼ばなくてもいいんですよ?」
「ふん! 織田なんて苗字で十分よ!」
へぇ〜、ふーん? 僕にはこんな対応で十分なんだぁ? 他の人には物凄い母性や慈愛を振り撒いているくせに? 僕には乱暴にするんだ? それにここはオタクの僕と仲良くしてて揶揄ってくる人も居ないのにわざわざ苗字で呼ぶんだ? それで十分なんだ?
「……まぁ別に?
「っ! …………お、織田のバカ」
今現在、僕とマリアは冷戦中である……それも普段の半ばじゃれ合いのようなものではなく、ガチのやつである。……切っ掛けは本当に些細な事だったんだけどな。
『なんだ、舞か』
『なんだってなによ? なんだって?』
僕のペアは誰になるのかと待っていたら、そこに現れたマリアについついそんな反応をしてしまった……ここまではまだ何も問題はない。マリア自身も特に気にしてはいなかっただろう。
『いや〜、たまには別の人と組んだ方が楽しいんじゃないかなって?』
『っ!』
『舞もそう思わない? 毎回毎回、本当にどんな確率だよって話だよね〜』
こういう組み分けになると八割超えの確率で僕とマリアは組む事になるのが多く、今回も腐れ縁が余計な介入をしたのかマリアとペアを組むことになった……どんな確率だよと文句でも言いたいくらい。……それに、たまには別の人の方がマリアも楽しいんじゃないかなって発言だったんだけど──
『……どういうこと?』
『……いやだから、毎回同じ人だと飽きて来ない?』
『…………ユウのバァーカッ!!』
──なぜかマリアがめちゃくちゃ怒ってしまった。本当に意味がわからない……いきなり怒鳴られた僕も良い気分はしないし、ついムカッとなっちゃって……。
『なんでいきなり怒鳴られなきゃなんないのさ?!』
『良いじゃん? 毎回同じ人だと飽きるんでしょ? ならせめて対応を変えてあげようっていう私の慈悲よ!』
『はぁ?』
……言い返したらなんかよく分からない理屈で反論をされてしまって、そんな対応されちゃあ黙っておく訳にはいかなくて……。
『ふん! いつもはオタバレが怖くて学校ではあんまり関わろうとしない癖に!』
『公共の場で〝〇〇の水着回が〜〟とか言う方が悪い!』
『捏造はやめたまえ! さすがにそんな話はしていない!』
『してもしていなくても、それくらい傍から見える気持ち悪さは一緒って事よ!』
そこからはもう、なんていうか引っ込みが付かなくなっちゃって……お互いに売り言葉に買い言葉で言い争う事態に発展しちゃってというか、発展を超えたっていうか……でも僕は悪くないと思う!
『舞だってオタクの癖に!』
『私は分別あるもの!』
『まるで僕が分別がないみたいじゃないか!』
『知ってるのよ? タンスの裏に魔法少女物の薄い本を隠してること!』
『なぁーんで知ってるんだよ?!』
『そのくせ、一条さんに話し掛けられて鼻の下を伸ばしちゃって……これのどこが分別あるって言うのよ?!』
こんな事を言われたら誰だって怒るよね?! それに一条さんみたいな美少女に話しかけられたら、男なら誰だって吃っちゃうよ! それが陰キャオタクの僕なら尚さらだよ!
『まぁ? 舞と違って一条さんは大人の色気のある美少女だからね? そりゃ男ならみんな挙動不審になるってもんだよ』
『わ、私だって色気……』
『舞に色気を感じたら犯罪者だよ』
『ゆ、ユウのバカッーー!!』
『カヒュっ?! …………こ、股間はさすがにダメだろ……?』
『あっ……………………ゆ、ユウが悪い!』
た、確かに僕も彼女が気にしてるところを攻撃しちゃったけどさ……男の股間を蹴り上げないよね普通? しかも僕が悪いとか……。
「「……」」
そんな事があって今ではお互いに目も合わせずに移動している……本当に些細な原因だし、こんな事でいつまでも喧嘩しているのは傍から見たら下らないのかも知れない。……でも、人には譲れないものがある。
「……あーあ、せっかくのイベントなのにな〜?」
「なに? 嫌味?……だから僕以外と組んだ方が良かったんじゃないのって言ったじゃんか」
「っ! ……そうだもんね、織田さんは私みたいなちんちくりんと遊ぶのは飽きたんだもんね?」
「……別にそうは言ってないし? 萩原さんこそ、こんな陰キャオタクと一緒で迷惑だもんね?」
「「…………ふん!」」
そう、人には譲れないものがある……二人だけのルールでガチの喧嘩をした時、先に非を認めた方が〝一つ二千円もする駅前のケーキを相手に奢る〟という不文律があるのだ……この戦い、絶対に負けられない。
「……精々足を引っ張らないでよね、織田さん」
「……それはこっちのセリフだよ、萩原さん」
「「…………ばーか」」
舞の肩と十センチも離れていないのに、お互いにそっぽを向き合い、正反対の方向を見ながら進む……いつもは知らない人に凄い優しい笑顔を向けるのに、なんで僕にはいつも仏頂面しか見せてくれないんだよ……他の人と遊んだ方が楽しいんじゃないのかよ……舞のためを思って言ったのに……。
「「……ふん!」」
このイベント中に仲直りできるのか分からないまま、僕たち二人は無言で進む。……背負われたNPCが困った顔をしているのにも気付かずに。
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