第162話一条正義の反省
「……ふっ! ……ふっ!」
持ち手がすり減り、薄く色が変わった木刀を振る。丁寧に、ただただ丁寧に……上から目の前まで振り下ろすという本当に単純な動作を、単純な動作だからこそ間違えないように丁寧に。
「……ふっ! ……ふっ!」
……この前の義姉上に思い切ってぶつかってみたけれど、本当に行き当たりばったりで計画性というものが皆無だった……まぁあのチャンスを逃せば、今度いつ義姉上とまともに話し合えるのかは分からないからだったからだけど、見方によっては…………雑だったように思う。
「……ふっ! ……ふっ!」
だからこそ今度は、今度こそは……次があるのなら今度こそは! ……この日課の素振りのように丁寧に、丁寧に……義姉上の全てを見て、観察し、考察して、理解に努め、攻略しなければならない。……この剣術の様に。
「……ふっ! ……ふっ!」
向こう見ずなところがある小鞠を上手く制御するのが双子の片割れである俺の役割だろう……いつもはあの底抜けの明るさと諦めの悪さ、裏表のない純粋さによって半ば強引に人と仲良くなる小鞠の人間的魅力が……今回は裏目に出てしまった。今回の失敗は、いつもの様に上手くいくと思い込んだ……いや、思い込みたかった俺の弱さのせいでもある。
「……ふっ! ……ふっ!」
…………なぜ、玲子さんは俺達に義姉上を頼んだのだろう。彼女にはちゃんと友達が出来ていた、俺達が何か特別な事をしなくても良かったのではないか? 義姉上の事を一番理解していた玲子さんなら、俺達が拒絶されるだろう事も理解していたはず。
「……ふっ! ……ふっ!」
…………いや、そんな雑念は振り払え。そもそも俺達は玲子さんに頼まれたから義姉上と仲良くなりたいのか? 違うだろ。俺達が仲良くなりたいんだろ……確かに玲子さんから頼まれたという使命感が全く無いと言えば嘘になる。……だが、大半を占めてはいない。
「……ふっ! ……ふっ!」
ではそもそもなぜ俺は、俺達は義姉上と仲良くなりたいと思ったのだろう……なぜ、あそこまで頑なに拒絶されていても尚、小鞠も俺も諦められないのか……なぜ、ここまで拘るのか。
「……ふっ! ……ふっ!」
…………そんなの、義姉上が寂しそうだったからだろう? 初めて顔を合わせた時の義姉上はどんな顔だった? あのいつもの無表情か? ……いや、違う。確かに無表情ではあったが小さかった、小さく見えた……本当に小さく、寂しそうだった。
「……ふっ! ……ふっ!」
それは友達が二人も居る今も変わらない……何がそんなに寂しいのか、いつも別邸に引き篭っているからか、玲子さんが死んだからなのか、それとも……父上と仲が悪いからか。
「……ふっ! ……ふっ!」
…………なるほど、義姉上は『普通の家族』が欲しいのかも知れない。義姉上にとって『家族』とは、『普通』の象徴であった玲子さんなのかも知れない……義姉上は『普通』が分からないようで、『普通』を常に求めているのではないか。
「……ふっ! ……ふっ!」
…………考えていてこんがらがってきたな。なんなんだ、『普通』って……そんなもの『普通』は分からないだろ。なんなんだよ、なにが『普通』でなにが『異常』なんだ……。
「……ふっ! ……ふっ!」
いくら考察してみても分からない……『
「……ふっ! ……ふっ!」
…………分からない、いくら考えてみても分からない。今までの情報から考察してみても、義姉上を攻略する糸口が掴めない。彼女と仲良くなる事なんて、本当に……できるのだろうか?
「……ふっ! ……………………ハァ」
丁度よく素振り百回の三セット目が終わったところで木刀を脇に置き、タオルで汗を拭いながら考える。……少なくとも、今のこの思考も、素振りも、剣術の練習も無駄ではない。
「……」
あの、義姉上と唯一言葉を交わせるVR空間であれば……俺の剣術は十分に通用する。あの場において力や技術とは、そっくりそのまま義姉上に言葉を届ける道になる。
「……はぁ」
まぁ、それも未だに道にすらなりそうにないが……なんなんだよ義姉上のあの動きは? 本当に意味が分からない、なぜあそこまで……なにも武術を習っていないのに動ける? 義姉上が小さい頃から働いている使用人が言うには、義姉上は小さい頃から壊し方を
「──姉弟、仲良くなれないじゃないか」
玲子さんとの〝約束〟もあるし、なによりも……義姉上の寂しさを払拭したい。
「……まぁ本当に寂しいのかは知らないが」
あの義姉上の事だ……俺達の勘違いで、別に寂しくともなんとも無く、ただ単に目の前をうろちょろする羽虫二匹が目障りなだけかもな? ……なんだかそちらの可能性の方が高く思えてきて落ち込んでしまう。
「……とりあえず、山本さん辺りに玲子さんについて聞いてみるかな」
本当は父上に聞ければ良いのだけど……父上は玲子さんと義姉上の事になると酷く
「……本当に、なにがあったんだろうな」
本当に俺には分からない、なにも……そのまま朝のシャワーを浴びてから朝食を摂るべく、俺は屋敷へと足を向ける。……朝の日差しが酷く眩しい。
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