第155話姉・弟妹喧嘩その3
「「
近況報告……そんなものをしてなんになるというのでしょう? 私には理解が出来ませんね。彼ら二人が最近、何処で、何をしていたのかなんて毛ほどの興味もなく、今はどうでもいい事柄でしかありません。……自分が何をしているのかについても知ってどうするというのですか? その行動に私はまったく共感は出来ません。……それでもあえて……あえて、教えてあげるとするならば──
「──羽虫が二匹、ウザイですね」
「むぐっ?!」
左斜め上から少年が刀が振り下ろす……それを短刀を親指で挟んだままの左の掌で峰から腹にかけてを押し出すことで右斜め下に流します。さらには胸の前で両腕が交差するような形で右手を伸ばして憎い女……彼の実母の面影が残るその顔、下半分を掴み顔を近付ける。
「近況報告その一。
「ごがぁ?!」
そのまま地面に顔を叩き付け、飛んでくる矢を全て短刀で弾き、憎い男……お互いの実父の面影が残る少女の足元へと伸ばした糸を展開し、彼女の足首に括りつけて捉えてからすぐに引っ張るようにして横の壁に投げ飛ばす。
「近況報告その二。あの男に愛情を注がれるあなた達が
さらに糸を束ねて力の伝導率を上げてから引き寄せるようにして、ヤスリに見立てた少女で壁を削っていく。……頭から流れ出た血で片目を開けられないままに刀を掴もうと伸ばす少年の手を柄ごと上から踏み潰す。
「近況報告その三。こちらが頑張って避けているのにわざわざ追い掛けてくる、その蒙昧さが
足を退け、物質化させた影を勢い良く下から突き出すようにして少年を上空へと跳ね飛ばし、壁を削りながら引き寄せた少女の足首を掴んで背中から地面に強かに打ち付ける。
「近況報告その四。
背中から落ちてくる少年が自身の胸の高さまで来たところで肘を腹に打ち付けながら膝で腰を穿ち、首を掴んで壁に投げ飛ばし、震えながら弓に矢を番えようとする少女の胸を勢いを付けて踏み付ける。
「──カハッ!」
「近況報告その五…………
彼らの求める近況報告とやらでその行いを全否定します。歩み寄って仲良くなど……そんなものは私には無理です、出来ません。……二人が何かした訳でもない事は理解していますが許せません。感情が、心情が納得しないのです……彼らの顔を見る度に寂しそうな母の顔が脳裏に浮かんで、自分でもどうしようもなくなってしまいます。……たとえ、大元の原因が私自身だったとしても。
「どうです? 私の思いは分かったでしょう? このまま諦め──」
「──近況報告その一。初めて会えた時嬉しかった、無視されて悲しかった」
「……」
弓に番えず、そのまま握り締めた矢で直接的に私の肩を刺しながら私の真似をして近況報告をする彼女の顔は血と涙でぐしゃぐしゃに薄汚れていて……正直に申し上げるのであれば、見れたものじゃありません。
「近、ブゥッ?! 況……報告ガッ?! …………その二。欲しかった……義姉ができ、て……舞い上がったのッ!!」
「……」
なんだか無性に苛立ってしまいます……尚も言い募る彼女の顔面を淡々と殴打して、殴打しますが……最後に叫びながら再度、私の肩を矢で貫く。肩から噴き出す私の血でさらに彼女の顔が汚れる。
「ゲホッ……近況報告その三。押し掛けて申し訳なく思ってはいる……けれど、それ以外に言葉を交わす方法は思いつかなかった」
「……」
壁から這いずり出てくる少年が刀の代わりに投げた瓦礫が眉間に当たって血が流れ出る。……それ以外に方法は無いのは当たり前です。避けて、無視して、関係を絶っているのですから。
「近況グゥッ……ほう、こく……その四。ギキッ……おかしいかな、いき、なり……激し、い拒絶を……され、てショックだった……けれ、ど……初めてこっちを向いてくれて嬉しかったんだッ!!」
「……」
糸を伸ばして少年の首を締め上げますが……彼は左手を巻き込む事で完全に締められる事を阻止し、気道を確保しながら瓦礫を投げる。麻布さんが弾いてくれたので避けるまでも、ありません……でしたね。
「近況報告、そ、の五……正直に言えば、仕事してるお父様みたいで怖かった……」
「でも……仲良くなりたかった、誰も悪くないのなら……尚さらに……」
「……」
そうですか、あの男に挑むような気概でしたか……私だったらどうしてたでしょうね? まぁ関係ありませんし、理解できませんが……私は私の気持ちしか把握できません。予想はできてもそれだけなんですよ、あなた達がどのような気持ちや覚悟で私にぶつかって来ようとも……どれだけ想像してみても……分からないんですよッ!!
「……何を言われようと理解できませんね、黙って玩具にでもなってください」
少年に括りつけた糸を引っ張って反対側の壁へと叩き付ける……気絶の状態異常のアイコンが浮き出たのを尻目に少女の髪を掴んでその後頭部を地面へと打ち付け、このまま彼女の頭を──
「──だって、玲子さんは受け入れてくれたんだもん」
「──」
少女の頭を掴んだまま動きが止まる、少年を縛る糸が緩む……頭が脈打つほどに血が上り、視界が赤く染まり狭まる。唇が震え、呼吸が浅くなり、鼓動が早くなる。
「お、ねぇさ……ま、とも……仲良、くなり……たく、て……」
『WARNING:心拍数が急激に上昇しています。ログアウト推奨』
視界の端に警告文が出ているのにさえ気付かず、警告文を淡々と読み上げる〝ニコちゃんさん〟の声すら遠くの……誰かの話し声のように現実味がなく……ただ彼女の口元を注視する。
「も、もとも……と……自分は長く、はない、からって……せめ、て友達になって……あげ、てって……」
苛立つ、理解できない、分からない、許せない……数多の「なぜ」「なんで」「どうして」が頭を駆け回る。頭の隅で『母ならそうしそうだな』、と冷静に分析しているそのすぐ横で駄々っ子のように『そんな筈はない』と小さい私が泣き叫ぶ。
「だか、ら……どうし……て、も私は……おねえ、さまと仲良く、なり……たくて……」
「……もういいです、死んでください」
気絶したままの少年の額に鉄片を投擲して貫き、少女の顔を井上さんのパワーアシストによって握り潰しながら地面へと叩き付けて殺す……そのまま燃えるようにして消える二人を見送って、私もログアウトを──
「──おんや? そこにいらっしゃるのはジェノサイダー殿ではありませんか?! 吾輩、歓喜のマッスルポーズ!!」
背後から聞いた事がある男性の声が降りかかり、思わずゆっくりと振り返る……そこにはいつもと変わらず、目に毒な……母が見たなら赤面して卒倒しそうな格好のプレイヤーが一人、己の大胸筋を強調しながら立って居ました。
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