第153話キャットファイト

「それで? ここまで連れて来てなんの用よ?」


混沌二位……レーナさんを抜いたら一位のブロッサムっていう女の子にマリアと一緒に連れられてレーナさん達三人が見える場所である高台……地下水を汲み上げ、それを大河と内海へと繋げる事で意図的に中洲や水路を作り出している施設まで移動してきた矢先にマリアが喧嘩腰に用件を尋ねるのを見て、僕は胃を抑える。……両端に流れる水路も相まって肌寒い。


「……別に? ちょっと邪魔だったから、退いてもらっただけよ」


「ふーん?」


おっかしいな〜? 見た目ちっさい女の子同士が対面しているだけなのに、なぜこんなにも空気が重いのだろう? ……これ僕がいる必要ある? 一応『ぼっち魔術』の《便所飯》でここはある程度は隔離された空間になっているから《看破》とかを意識的に使われない限りは他のプレイヤーが襲って来ることはないと思うけど……せっかく襲撃が途切れて発動できたんだから、変な事はしないで欲しい……切実に。


「何を企んでいるのか知らないけどさ……レーナさんを悲しませないでくれる?」


「……」


「あの人って凄い寂しがり屋だけどさ、臆病でもあるんだよ?」


凄いなマリアは……伊達に長いことストー……ンガーディアンをしている訳じゃない。僕よりもレーナさんと直接関わった時間が短いのに、ほんのちょっとの雰囲気でレーナさんの感情の機微がある程度は察せられるらしい……同じ女の子っていうのもあるのかな?


「別に何か企んでいる訳ではないわよ? ……ただあの女が友人を悲しませてたからよ」


「……」


「あの子達って凄く強引だけれど、真摯で誠実なのよ?」


う、うーん? 話が見えてこない……え? もしかして僕だけ置いてかれてる? なに? なんなの? あの二人ってレーナさんとブロッサムさんのリアルの知り合い? え、じゃあ僕も何処かで会ったことある? ……ゲームで知り合っただけでレーナさんがあそこまで感情動かすことも無いだろうし、レーナさんと対峙する人もなんか、こう……覚悟完了している感じだし?


「ふーん? それなのにレーナさんにあんなに嫌われちゃってるんだぁ〜」


「あの子達がなにかした訳じゃない……いえ、なにもさせて貰えてないわ」


「理由が分からなかったり、どうしようもない理由で嫌われているんなら諦めちゃったら?」


「そんな単純で呑気な性格してるなら、苦労していないわよ」


これは口を挟めない感じだ……いや、下手に口を挟めば僕が死ぬ。断言できる。……なんで女子の口喧嘩の現場に居合わせなきゃならないのさ! えぇ? くそう……『ぼっち魔術』の《寝たフリ》でここは一時離脱を──


「「──アンタはどう思う?」」


「ひゃい?!」


ダメだったか〜、魔術で空気の一部と化す作戦は始まる前から失敗したらしい……。ていうかどう思うかなんて、僕が知るわけないだろぉ! 良いか? 女子の口喧嘩で意見を求められる=死だぞ! どっちの味方をしても角が立つし、中途半端な事を言えば両方が敵になり、いつの間にか二対一の構図が出来上がる……恐ろしい。


「え、えっと……?」


「……要は超個人的な事情でレーナさんが嫌いな相手が自ら殴り込んで来たのよ」


「……要は超理不尽な理由であの女が排他的だから自ら歩み寄りに行ったのよ」


「「ちょっと?」」


やめて、こちらに説明しながらお互いにガンを飛ばし合わないで欲しい。……要はあの二人に非はないけれど、レーナさんの感情的に何か許せない出来事があって意図的に避けて来た……でもそれは悲しいから、なんとかレーナさんと仲良くなりたくて歩み寄ろうとした……のがレーナさんの神経をさらに逆撫でする事態になっていると……う、うわぁ……なんだこれ。


「レーナさんには無邪気な笑顔を浮かべて欲しいから、それを曇らせる二人には遠慮して欲しいかな」


「あの二人には健やかに過ごして欲しいから、門前払いする理不尽な彼女にも挑戦して貰いたいわね」


「……周囲や人の迷惑を考えない利己的な混沌派自分勝手な人のそういうところが嫌い」


「……少数に我慢や犠牲を強いる傲慢な秩序派良い子ちゃんのそういうところが嫌い」


人に意見を求めておいて口喧嘩を再開するのはやめて欲しい……聞いてきたのはそっちじゃないか……うぅ、胃が痛い。別に人の感情だし、レーナさんが誰かを嫌うのも、嫌われている人と仲良くする努力するのも別に大して問題ではないと思う……そこは二人も分かってるんじゃないかな? 要はどっちが納得できるかでしかないし、どう折り合いをつけるかだ。


「仲良くしなくても良いじゃない、レーナさん以外にも代わりは居るんだから」


「仲良くしても良いじゃない、あの女以外に家族代わりは居ないんだから」


お互いに睨み合いながらマリアは錫杖を、ブロッサムさんは大鎌を取り出す……え、嘘でしょ? ここでやり合うつもりなの? あの〜? 近くに僕が居ること忘れてませんか〜? ねぇ〜? 僕ってば紙装甲なんだけど……。


「……まぁ、レーナさんのストー、ンガーディアンだった私が仲良くするなって言うのも可笑しいし、あなたの友達想いの行動を否定するつもりはないよ?」


「……そうね、私もあなたの言ってる事は正しいと思うわ」


あっれ〜? おかしいなぁ〜? 右は熱いのに左は寒いぞ〜? 原因はなにかな〜? あれかな、右前方に立つマリアが青白い炎を噴き出させているからかな? それとも左前方に立つブロッサムさんが赤黒い氷を凍てつかせているからかな?


「「でも──」」


うっわぁ……両端の水路の水が蒸発したり凍ったり……あ、そっかぁ! この異常な環境は両方共のせいだったんだね! ……なんてふざけてる場合じゃない! ヤバイヤバイヤバイ!! お互いに認め合ってはいるのなら、まずは武器を下げて欲しい! お願いします!


「「──私は友人の肩を持つあなたが折れて」」


「ちぇいあ! 《ニートの入れるものなら部屋入ってみろ》!」


急ぎ《世間との壁》の上位魔術である《ニートの入れるものなら部屋入ってみろ》を発動する……あぁ、僕ってば女運無いのかも知れない。……レーナさんといい、彼女達といい、振り回されてばっかりだぜ──


《新しく称号:不憫属性を獲得しました》


──五月蝿いよ!


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