第152話姉・弟妹喧嘩その2

お義姉様に先制攻撃として矢を放つけれど投擲された毒針によって簡単に弾かれてしまう……解ってはいたけれど、見て避けるどころか見て相殺なんて真似をされると驚いてしまう。


「フッ!」


「シッ!」


最初のマサによる首を狙った一撃も防がれてしまった。お義姉様の行動が読めないから先制を取ってある程度は戦況をコントロールしたいけれど、そもそもの技術もレベルも向こうが上……リーチの差を活かして防御よりも積極的に急所を狙って攻めるマサと、相手の視線や足を狙った私の狙撃……それとお義姉様がまだ全然全力を出していないがためになんとか数秒生き残れている。


「知っていますか? 今中学校ではラブレターが流行っているんですよ」


「? ……はい?」


怪訝な表情を浮かべるお義姉様の眉間に矢を放つ……首を反らして躱そうとするお義姉様のうなじ側からマサが刀を振るうけれど、右脚を軸にした半回転で避けられてしまう。マサの一時離脱を助けるために《矢雨》を放って時間を稼ぐ……これでリキャストタイムが終わるまで使えないし全弾回避されてしまうだろうけれど、さらに数秒は稼げる。


「一つ上の先輩に引っ込み思案な方が居るんですけど、その人にどうしても好きな方が居て……でも、たとえVR空間でも直接話すのも無理。そんな状態だから連絡先も当然知らず、メールもチャットも出来なかったんですよ」


「……なんの話ですか?」


マサが『水魔術』でお義姉様の足下を濡らし、私が『風魔術』で強風を吹き付ける事でバランスを崩し、《矢雨》を全弾回避する邪魔をするけれど……効果があるのか微妙ね。さらにランダムで二回〜八回当てる《乱れ撃ち》を使用する。


「でもどうしても、その好きな人に想いを伝えたくて二百年も前に廃れた恋文……ラブレターを書いて送ったんですって」


「そうそう、その先輩って国語の成績が良かったみたいで……あまりにも情熱的で詩的なラブレターに見事お付き合いしだしたんだよな」


「……なにを伝えたいのか、さっぱりわかりませんね」


全弾回避をしたお義姉様が一息つく暇もなく眉間、つま先、短刀に向けて《重激》というノックバックやスタンを狙ったスキルを放つと同時にマサが《鏡水》でその見える数を増やす。


「それで女子は手書きの素敵なラブレターが来ないかソワソワしてるし」


「男子は男子で慣れない作文を練習するという」


「それで国語のテストだけみんな点数が良かったんですよ」


「……この会話の目的が分かりませんね」


やはり『看破』系統のスキルを持っているのか虚像には目もくれずに本物の矢だけを弾いてみせる。そのままマサの心臓狙って突きを放つお義姉様のふくらはぎを背後から飛来する矢が貫く。


「っ! ……なるほど」


「お義姉様の学校ではなにが流行ってますか?」


この十数秒の間にお義姉様に弾かれ、躱された矢を『風魔術』によって奇襲させる……初めてPKした時に思い付きで試した技術だけれど、通用するようで少し嬉しい。……お義姉様は直ぐに大体は察したみたいだけれど……あと何本残ってるか、最初から数えていないでしょ? これからさらに増えるしね。


「……知りませんよ、なにが流行っているかなんて」


「では先ほどの友達とは普段なにして過ごしてます? 私の友達に華子ちゃんって子がいるんですけど、その子も凄く引っ込み思案なんですよ」


お義姉様に《乱れ撃ち》を放ちながら《不可視の矢》を同時に放つ……これで今から私が放った矢を数えても実数は合わないし、最初のがまだ残ってる。たとえ数が合わない事に気付いて『看破』を使用したとしても、それはそれで構わない……お義姉様の処理能力にドンドン負荷を掛けられるから。


「華子ちゃんって顔は可愛いのにいつも大きい眼鏡と前髪で顔を隠してて、自信無さげに本読んでるから気になって話しかけたのが始まりなんです」


「……」


「あんまりグイグイ行くと迷惑だぞって言ってもコイツ聞かないんですよ……本当にいつもこんな感じで言い出したら聞かないし、調整するこっちの身にもなれって感じで……」


「……」


たまに襲撃してくるプレイヤー達も良いデコイになる。見た目ほぼ新人の私たち二人とお義姉様が戦ってるのを見ると確実に手助けしてくれるし、その方には悪いけど背後からプレイヤーごと攻撃すればごく稀に掠る。……こちらを悲しい目で見詰められた時は流石に罪悪感があったけれど。


「でもそのお陰で素敵な友達が出来たじゃない! 華子ちゃんってばいつも本読んでるお陰で色んな事を知ってるし、いつも受け身なのに困ってる時は積極的に、静かに手助けしてくれるし」


「……」


「まぁ確かに……たまにコイツ実は我が強いんじゃないかって思う時はあるな」


他のプレイヤーは先ほど三人が乱入したくらいで後はもう来なさそうね? まぁ良いデコイになるけれど、大体一瞬で退場するからそれだけだし構わないけれど。マサの《五月雨斬り》に合わせてリキャストタイムの終了した《矢雨》を放つ。


「たまに出る頑固なところも可愛いんですよ? 本当にこれ以上の友達は居ないんじゃないかってくらい──」


「──ユウさんとマリアさんの方が素敵な友人ですよ」


「ぐおっ?!」


私の《矢雨》は突然に展開された糸によって全て弾かれ、マサの《五月雨斬り》もお義姉様の足下から突き出る複数の影の柱に遮られ、身体のリズムが崩れたところで顎に掌底を打ち込まれてしまう。


「……私の友人の方が素敵です、あなた達と違って。……そもそもこの会話はなんですか?」


「ゲホッゴホッ……へぇ、素敵な友達を義姉上も持っているんですね」


「ついつい張り合ってしまうくらいだもんね」


「……」


鏃をポーション瓶にした物をマサに放ちながら、眉を顰めるという先ほど初めて貰った『返答』と合わせて、やっとお義姉様と『会話』のキャッチボールが出来た事実に場違いな笑顔を浮かべる。


「……この茶番の目的はなんですか?」


お義姉様ってば意外と負けず嫌いで子どもっぽいところがあって可愛らしいのね。私達みたいな嫌いな相手が自分の友達を差し置いてこれ以上無いとか面と向かって言われると無意識の内にムキになるみたい。


「目的なんてありませんよ……これはただの談笑です」


さぁ、ここからが本番よ……多分だけれどお義姉様はブロッサムちゃんが何かしてくるとでも思って様子を見ていたから温い対応をしていたと思う。……けれど、ここにきてそれが無いと判断したのなら躊躇する理由はない。


「「まずはお互いに」」


別に今までの会話に大して意味はない……私達が学校でどう過ごしているとか、どんな事が流行ってるとかを聞いてもお義姉様の心になにか変化が生まれる訳では無い。……ただ何気ない日常を過ごす私達を知って欲しかっただけ、夕食を囲みながら今日あったことをお互いに報告し合う『普通』の『家族』の様に……ただ、取り留めのない会話をしたかっだけ。

たとえお義姉様に『家族』として認めて貰えなくても、自分達を知って欲しい……何も努力できないままにお義姉様の『敵』で終わるのなんて許せない。だから──


「「近況報告知り合いからしませんか始めませんか?」」


──知り合いから、『家族』として遠回りだけれどそこから始めようと思う。


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