第150話モグラ叩きその5

「シッ!」


大振りで隙だらけの大剣使いに肉薄し、その首を刀で斬り落とす……後ろはブロッサムさんがカバーしてくれるから心配しなくても良い、というか心配する方が失礼だろう。


「……ブロッサムって基本的にソロじゃなかったか?」


「知るかよ、たまたま取り巻きが居たんだ──ぶふぅ?!」


「──取り巻きじゃないわよ!」


大鎌の柄から鎖に繋がれた寸銅を飛ばしてプレイヤーの鼻っ柱をへし折りながら吹き飛ばず……ブロッサムさんに取り巻きではないと言われる事は……その、なんだか嬉しい。俺も頑張らないと……義姉上と相対する前に出来るだけ、ブロッサムさんを狙ってくるプレイヤー達でレベルとスキルを上げなければ……それがたとえ雀の涙程度しか差を埋められないとしても。


「……このガキ、剣術を習ってる動きだぞ」


「道理で……ほぼ初心者装備なのにPSが高い訳だ」


そうだよ。俺は幼い頃から忙しいはずの父から直接、剣術や馬術などその他色んな事を習わされた……思えば義姉上のあの異常性に気付いていたのかなと思う。ボタン一つで、引き金一つで人を殺せる世の中で剣術なんてと思っていたけれど……逃げるにせよ、立ち向かうにせよ、決断を下す時間を稼ぐことは出来るからだろう。……まぁ何が言いたいのかと言うと──


「──あの義姉上に対抗するための技術だぞ」


「ッ?!」


鍔迫り合いをする長剣使いを睨み付けながら一時的に刀を持つ手に力を込めて真っ直ぐ押し込み、相手が負けじと反発したところですり足によって後ろに身体を引き、たたらを踏み前のめりになった相手の頭部を手首の振りのみで半ばまで断ち切る。


「ぶふぅ?!」


「カハッ?!」


そのまま長剣使いの死体の腹部を膝で打ち、前方から突き込まれる槍へ対する盾としながらしゃがみ込み、死体の懐へと隠れながら振り向き横から迫る投擲されたナイフを弾き返し、投げた本人に着弾したのを横目で確認しながら死体の胸から突き出た槍を掴んで引っ張り、その死体ごと槍使いの胸を刀で貫く。


「調子に乗るな──ガァッ?!」


「カヒュッ?!」


大剣にスキルのエフェクトを纏わせ、大技であたり一帯を巻き込むつもりでこちらに振りかぶるプレイヤーの頭と、静かに忍び寄っていた短剣使いの喉はが遠くから飛来する矢によって貫かれる。


「おい! まだスナイパーは見つからないのか?!」


「一発放つ毎に場所を移動してて分かんねぇよ!」


マリーがそんな初歩的なヘマをするはずがないだろう……まぁ、俺なら今マリーがどこら辺に居るのか、なんとなく把握できるからそれに合わせた位置取りが出来るから問題はないけど……彼らからしたら何処から矢が飛んでくるか分からないから気が散るだろうね。


「……やっぱパーティーメンバーも含めてランキング上位陣を狩るのは難しいな」


「変態紳士が無理だからこっち来たけど……キツイな」


……変態紳士? それは名前なのか? そんな名前にするプレイヤーが居るとは「それ以上考えるのはやめておきなさい」……ブロッサムさんに釘を刺されてしまったな。まぁなんにせよ、まずはここに居るプレイヤーを全て経験値に変えよう。……一応は正当防衛だけど、この場合もカルマ値は下がるのだろうか?


「まぁ、それはこの戦闘が終わったら分かるか……シッ!」


後衛の魔術師が放った《紅蓮爆轟》を『刀術』スキルと『水魔術』の複合である《水陣刀》で上下に寸断しながら態と狙いを甘くし、その場で爆発させる。


「馬鹿が! ざまぁみ──ぶぇっ?!」


その爆発を目くらましとして活用し、一気に前衛を抜けて後衛の一人の顎から上を断ち切る。これでマリーを脅かす存在を殲滅できる……『水魔術』を取得していて良かったな。まさに肉を切らせて骨を断つ作戦がただの自爆になるところだった。そして──


「──『身体強化・起死回生』」


レベル四十と特定の条件を満たす事でなれる二次職の特殊スキルを発動する。

少し前までは上級クラスだと考えられていたらしいけれど、それでも強化に変わりはない。……というより想定よりも早く義姉上が重要NPCと戦ったから、その時に使われた印象が凄かったのだろう。それに実際にレベル以外の条件がキツイというのもあるし、上級クラスという認識で間違いではない……でもそれ以上が発見されたから便宜上二次職と呼ばれてるだけだ。なによりも強化率が凄い。


「お前ら全員……姉弟喧嘩のための糧となれ!」


理由はよく分からないけれど、ブロッサムさんを多人数で執拗に襲うのも気に入らない……華子に似ている彼女を寄って集って狙うコイツらはマリーのわがままを叶えるための踏み台がお似合いだ!


▼▼▼▼▼▼▼


「……」


矢を放つ……マサとブロッサムちゃんが動きやすいように死角から忍び寄る暗殺者や包囲の一部を狙撃していく。一発から三発放ったら即座にその場から離れ、また別の場所で矢を放つ。


『戦うのです! ──クレブスクルムの様に荒く!』


──ウオォォォオオォォォオオオ!!!!!!!


矢を放ちながら先ほど響いたお義姉様の扇動を反芻する……何を考えての事なのかさっぱり分からないし、あんなに私たちに憎悪を向けた後でこんな事ができるなんて……やはりお義姉様はどこか人として壊れてるのかな。


「……私には無理かな」


あれだけ嫌う人──まぁ私の事なんだけど──が目の前に現れて、内心ぐちゃぐちゃになっていたと思うのにその後すぐに区切りや整理をつけてなにかを始める事なんて……私にはできそうにはない。


「……そんな人に言葉を届けられるのかな」


場所を変え、矢を放ちながら思い悩む。ジェノサイダーと呼ばれるお義姉様の異常な行動、激しい負の感情を燃やしながらすぐに関係ない事を始められる異常な心理……そんな人に普通の私が、普通の言葉で、普通の家族としてその心に何かを……。


「……いや、絶対に届ける」


たとえ無駄だとしてもお義姉様に、彼女に、普通の妹として、それが喧嘩でも良い……誰か一人だけでも『対話』をしなくちゃならない。


「玲子さん以外にも『家族』は居るんだから」


ブロッサムちゃんの背後から忍び寄るプレイヤーの額を狙撃しながら、唇を噛む。


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