第149話モグラ叩きその4
「死ねっぶぎゃ?!」
屋根のさらに上空から刀を振り下ろしてくるプレイヤーにこちらから接近し、驚く相手の表情を真っ直ぐ見据えながら下から刀の柄に右手の掌底を叩き込み、相手側からこちら側に鍔を引っ掛けるように左手で手刀を行い、そのまま武器を掴む手が緩んだのを見てとって、手首を下に回すように返して完全に相手の手から刀を抜き取り、右手で逆手に取って上から重ねたままの相手の手を貫いて拘束し、顎を持ち上げるように掴んで石造りの煙突へと叩き付けます。
「……今の見えた?」
「……気が付いたら刀を奪われて、頭から煙突にぶつけられてたって事しかわからないでござっガァ?!」
下から突き上げてくる短剣使いの喉を蹴り折りながら悠長にお喋りしていた二人のプレイヤーの開いていた口の中に鉄片を投擲し、飛来する矢の雨に対して火薬玉を数個ばら撒き、その爆風で幾らかを散らして空いた隙間に身を投じる事で回避します。
「クソッ! 全然当たらねぇ!」
「いや、ちゃんと効いてるぞ」
「最低限の正面部隊は必要だが、遠くから面攻撃を続ければその処理能力にも限界が来るみたいだなっと!」
魔術の弾幕を三田さんの《聖光絶壁》を多角的に展開する事で斜め後方に反射し、後ろから突き込まれる槍を脇で挟んで受け止めつつ短刀を持つ左手の裏拳で槍使いの顔面を殴打し、彼が怯んでいる隙に毒煙玉を建物の上から下にばら撒き、路地からこの建物を包囲している方々を牽制した後に振り返って槍使いの心臓を貫きます。
「っ! 逃げるぞ!」
「追え!」
リスポーンするまでの数秒の間に槍使いの死体を下から山なりに放ち、そのままこちら目掛けて降ってくる矢の雨に対する傘としながら駆け抜け、別の建物の屋根へと飛び移ってから用済みになった死体に火薬玉を仕込んで前方にぶん投げる事で先に待ち構えていたプレイヤーの方々を吹き飛ばします。
「っ!」
「よっしゃ! やっぱり効いてるぞ!」
「このまま続けろ!」
うーん、不味いですね。この『ベルゼンストック市』は路地が入り組んでおり、敵の数が増えても強化された速度を活かしづらいですね……いくら建物の屋根に飛び移りながらでもその分後衛と距離が出来てしまい、完全に物量差を覆せません。今も足に矢が刺さってしまいましたね。
「ふむ、数には数で対抗しますか……丁度あの二人を発見できましたし」
本当に叩いても叩いてもどこからか湧いて出てくるプレイヤー達の量には驚かされますね……楽しんで居るので良いですけど、あんまり多いとあの双子を見つけられないではないですか。
「「
いつもの如く面白い言い合いをしているユウさんとマリアさんを見つけましたので、そのまま襟首を掴んで拉致します。大きな声でしょうもない口喧嘩をしていますので、近くに寄ればわかり易くて助かります。
「「れ、れれれ、レーナさん?!」」
「はい、レーナです」
本当に仲が良いと言いますか、息が合っていると言いますか……少し羨ましいくらいには仲良しさんなお二人ですね。まぁ、それは置いておいてユウさんに頼み事ですね。
「突然で悪いですがユウさんに頼みがあります」
「……僕にですか?」
「もちろんマリアさんにもです」
「任せてください! なんでもやりますよ!」
まるで『えぇ……』とでも言いたげな、まるでこちらが面倒事を持ち込んだかのような顔のユウさんとは対照的にマリアさんはやる気に満ち溢れていますね? ユウさんは見習ってください。
「……なんか、理不尽なこと思われている気がする」
「頼みというのは私の声をこの街全体へと届けて欲しいのです」
「……いつかの演説の時みたいにですか?」
「そうです」
ユウさんの呟きをサクッと無視しながら用件を伝えれば直ぐに理解してくれます、さすがに話が早いですね。今こそユウさんのおもしろ──特殊な魔術の力が必要なのです。
「マリアさんは合図したら空高くに指定の色の花火をお願い出来ますか?」
「了解です! 温度やアイテムで何色にもできますよ!」
おや? ダメ元でお願いしてみたのですが……そうですか、温度を変えたり、素材アイテムを燃やす事で色を変える事ができるのですか。なんだか理科の実験みたいですね? 本当にこのゲームはよく作り込まれています。
「《騒音》《マイク》《放送》《選挙カー》……良いですよ」
「またなんか増えてる……」
『──あ、あー、皆さん聞こえますか?』
ユウさんの準備が終わり、なにやら呆れた目でユウさんを見るマリアさんに首を傾げながらマイクテストをしますが……大丈夫みたいですね。街のあちこちから反応がありますし、このまま続けましょう。
『私の名前はレーナです、皆さんと自由を求めて戦った仲間です』
「……なんのこと?」
「あれだよ、前に言った僕とレーナさんでクリアしたワールドクエスト」
「あぁ、なるほど」
走りながらですし、前とは違って演説台に登っている訳ではありませんので恥ずかしくはありませんが……民衆の反応がいまいち分かりづらいのが難点ですね。
『私の事を覚えていなくても構いません、ですがこれだけは伝えさせてください』
「レーナさんのことを忘れるなんて事あるかなぁ?」
「いや、無理でしょ」
ユウさんとマリアさんは懐疑的ですが、あれから何ヶ月も顔を見せていませんし本当に忘れている方も居るかも知れません……と言いますか、そんな事はどうでも良いんですよ。これはただ謙虚さをアピールしているだけですからね。
『今この街は攻撃を受けています、王太子を排除した野心ある王国の第二王子によって再び自治を奪われようとしています』
「……え? 王太子死んじゃったの?」
「僕に聞かれても……初耳なんですけど?」
襟首を掴まれながらユウさんとマリアさんの二人が驚いてこちらに振り向き、困惑した様子で話していますが今は忙しいので後回しです。
『皆さんもお気づきでしょう、今この街は第二王子に雇われた渡り人達が暴れています』
「あー、なるほど……」
「うわ、この人しれっと第二王子に罪を擦り付けた……」
どうせこの街には一緒に王国から独立して新しい国を建ちあげる話をしに来たのです……予定が狂ってしまいましたが、むしろ好都合ですね。
『彼ら王国はまたしても私たちの自由を、クレブスクルム様への信仰を奪いに来ています!』
「顔も見たことない第二王子に乾杯!」
「織田ぁ……いや、同情くらいしかできないけど」
民衆の王国への敵対意識を植え付けて煽り、解放運動の功労者でもある私が率先してこの事態の鎮圧に乗り出す様を見せつければ……『ベルゼンストック市』での私の立場と名声は磐石なものとなります。このままそれらを利用し、なし崩し的にこちらの陣営へと付いてもらいます。
『戦うのです! 我らの自由と信仰を脅かす、理性無き秩序を穢す獣から! 我々の海を守るため!』
「……この人独裁者になれるんじゃない?」
「……生まれる時代が違えば確実になれただろうね」
ロン老師あたりは独立からの建国の流れは分からなくとも、私がなにか企んでいる事を感づいているでしょう……しかしこの状況を利用し、先に大衆心理を掴んだ私の勝ちです。
『戦うのです! ──クレブスクルムの様に荒く!』
──ウオォォォオオォォォオオオ!!!!!!!
最後の言葉を最後に街中から歓声や雄叫びが響いてきます……やはり民衆の心理を掴むのに信仰を利用するのは役に立ちますね、これで文字通り彼らは荒れる
「あちゃー」
「レーナさんが何を企んでいるのか知らないけど、もうダメだこれ……」
ここまですればもう大丈夫でしょう。二人して顔を覆うユウさんとマリアさんを無視して、高揚する気分そのままに私は駆け抜けます。
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