第147話モグラ叩きその2

「もう! なんなのよコイツらぁ!」


ゲームにログインするなりレーナさんから『遊びますので、用が無かったらベルゼンストック市に集合して下さい』というフレンドメールを貰い、マリアと一緒に来たは良いものの……なんか変なプレイヤーの集団に襲われててそれどころじゃない。


「イェア! 合法ロリ!」


「私はまだピッチピチのJKよ! 違法ロリよ! ……………………ロリでもないわよ?!」


「アツゥイ?!」


今も香ばしいプレイヤーがマリアに飛びかかり……うっかり失言してしまったために消し炭にされたところだ。まったく、確かにマリアはチョコンとした背にツルツルペったんスっとんとんという擬音が聞こえて来そうな体型で、凡そ女子高生とは思えず……下手したら小学生よりもロリに見え──


「──ドゥワッヒャア?! マリア敵はあっち! あっちだから!」


「……おかしいわね、ユウが失礼なこと考えたかと思ったんだけど?」


「……くっ! 敵の数がキリがないな!」


「…………ふーん?」


咄嗟に誤魔化すがマリアからジト目で見つめられ冷や汗が止まらない……うごご、やはり幼馴染みは騙せないというのか?! ぶっちゃけこのどこから湧いてくるのか分からないプレイヤーとマリアを一緒に相手は出来ないんだけど?!


「……か、仮に思ってても口には出してないから!」


自分でも(震え声)って現実でも付くんだと……ある種の感動すら覚える動揺っぷりに益々マリアの目に剣呑な光が灯る。襲ってくるプレイヤーの装備ごと焼却しながら睨み付けられると、動悸と息切れがヤバい事になる。


「ふーん? 思ってはいたんだぁ?」


「け、憲法に思想の自由は保障されているから……」


段々と声が尻すぼみになりながら襲って来るプレイヤー達に対処していく……モーニングスターを持った敵が柄から鎖を延ばし、投げるように振りかぶってきたことで迫り来る鎖の先に付いた鉄球を《世間との壁》で弾きながら、プレイヤーの足下に『公共魔術』の《マンホール》にて穴を空けて落とし、『ぎゃあくっせぇぇえええ!!』という叫びに蓋をして無視する……下水に繋がってたか。


「ふむ、判決を言い渡す……」


「裁判長! どうかお慈悲を……!」


どこから取り出したのか、マリアがよく有るカール髭のジョークグッズを鼻の下に付けて神妙な顔を作る……それを待つ僕はまさに、判決を神妙な表情で見守る罪人の如き心境のまま、『マジック魔術』という頭痛が痛いみたいな魔術の《スワッピング》で左右と前方から襲いくる斧使い、槍使い、短剣使いの武器をそれぞれ入れ替え、バランスを崩したところで乱れた攻撃を躱しつつ『幕府魔術』の《徳政令》によって戦闘が終わるまでお互いに武器を譲渡し合った状態へと持っていく。


「判決──ギルティ!」


「そんな?! これは陰謀だ! 不当判決だ!」


「連れて行け」


「嫌だァァ!!」


いつの間に付けたのか、丸メガネをクイッとずり上げながらマリアが淡々と判決を告げながら周囲を囲むプレイヤー達の視界を白炎を顔の高さで発火させることで奪ってから青白い炎を足下から燃え上がらせてそのHPを一気に削り取り、僕はそれに対して猛然と抗議の声を上げながら『火傷』のデバフが付いた生き残りに『公害魔術』の《酸性雨》を浴びせて追撃する。


「イチャつきながら戦ってんじゃねぇぞ?!」


「そうだそうだー!」


「ふざけんな……いや、マジでふざけんな……」


誰かが発したその大変不名誉な一言により、周囲を取り囲むプレイヤーや、水路やマンホールから湧いて出てくるプレイヤー達が一斉にブーイングをしだす……い、イチャつき?! 馬鹿野郎! マリアの前でそんなこと言うんじゃないよ!!


「カップルがイチャつきやがって、絶対に──」


「「──イチャついてない!!」」


青筋を浮かべたマリアと、それに怯えまくって動揺した僕の叫びがハモる……《圧倒的成長力》をマリアに掛け、それを受けてマリアが《オーバーヒート》という次の火炎系スキルの威力を二倍にしながらダメージ制限を取り払うスキルを発動し、それが終わる前に『諺魔術』の《火に油を注ぐ》という文字通りの補助魔術を掛ければ、マリアが《攻撃全体化》を使用してから『赫灼魔術』の《完全燃焼》を発動して周囲のプレイヤーを全員融かし尽くす……その時、青白い火柱が上空まで噴き上がるが……この間僅か数秒にも満たない時間だったと思う。


「……やりすぎた」


「はいはい、冷却冷却」


僕とマリアの周囲の石畳はもうグズグズのデロンデロンで、足を踏み入れればそれはもう新雪を駆けるが如く足跡が刻めるだろう……いや、その前に靴がくっ付いて離れなくなりながら高温で火が点くかな? そんな状態で渡れる訳もなく、とにかく冷やしていく。


「ていうか、そんなに嫌ならキャラクリで身長高くすれば良かったのに」


「……慣れない目線に酔った」


「あっ……」


あんまりにもあんまりな理由に思わず涙が零れてくる……そうか、マリアも人知れず努力しているんだよね。巨乳体操とか色々してるし、身長に関してだけ妥協する筈がないよね。


「悪い?!」


「いや、何も言ってないけど……」


「別にいいーじゃん! 織田だってロリキャラ好きでしょ?! 本棚の後ろに魔法少女の薄い本があるの知ってるんだからね?!」


「おまっ?! なぜそれを?!」


嘘だろ?! あの秘蔵本は誰にもバレないようにカバーまで偽装しておいた筈なのに! 畜生め……お互いの部屋に勝手に上がり込む相手には隠し事は出来ないということか!!


「やっぱりイチャついてんじゃねーか……ごふっ?!」


何がそうさせるのか、あの攻撃を受けてもなお執念深く生き残っていたプレイヤーの一人……額に『ヒンヌー教徒』と書かれた男性はこちらを漆黒の闇を内包した目で見つめ、それにマリアが無言でとどめを刺す。


「……ロリコンとヒンヌー教徒は死ね!」


「……」


なにやら恨みの篭った叫びに、多分他の場面でも迷惑掛けられてたんだろうなぁ……と少しばかり同情しながら目を逸らす。あぁ、レーナさんどこかな……早くこの混沌とした状況をなんとか──


「……あの人自体が混沌みたいなもんだし、やっぱりいいや」


「? なにが?」


「なんでもない」


──その本人が向かって来てる事など知る由もない僕は、怪訝な表情を浮かべるマリアを誤魔化しながらそろそろ冷えただろう石畳の上を歩き、マリアを促す。


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