第145話それでも

「私はもう一度行くの!」


私の道を遮るマサを振り切って、再度お義姉様の下へと向かうべく進む。確かにビックリしたけどたかが一回拒絶されただけ……私はまだ諦めない。


「だからマリー、やめろって!」


「……嫌だ」


…………私の腕を掴んで止めるマサを拒否する。マサだってお義姉様と仲良くなりたかったくせに、一度拒絶されたくらいで何を恐れてるの? 新年に花束送ったくせに!


「二人とも、何をしているの?」


「っ! ……ブロッサムさん、実はマリーが──」


「──お義姉様と話すの!」


ブロッサムちゃんが追い付いたみたいだけど、関係ない! さっきはビックリしちゃって何も話せなかったけど……お義姉様と仲良くするチャンスを逃すべきじゃない!


「さ、さっきは少し驚いただけで……まだ言いたい事も言えてない!」


「でもさっきの対応見ただろ?! 義姉上は俺たちの事も憎いんだよ!」


「っ!」


瞳に涙を溜め、俯き、握り締めた拳を震わせながら虚勢を張る。マサの言うことは正しい……でも、家ではまったく相手をしてくれないお義姉様がこっちに意識を向けてくれた……それが憎しみから来てたとしても関係ない!


「で、でも……でも! 私は浮気をしたお父様でも、浮気相手のお母様でもないもん!!」


「っ! ……それ、でも……仕方がないだろ……」


涙を流すまいと堪えながら叫べばマサが声を震わせながら俯いてしまう……違う、マサを困らせたい訳でも、傷付けたい訳でもない。でも悪いのは私でもマサでも無い!


「義姉上にとっては俺たちも同じ──」


「──同じなんかじゃない!!」


「……」


それまで瞳に溜めていた涙さえ忘れて私は怒鳴る……マサが少しだけ驚いてしまうけど、これは感じなくても良い罪の意識で勝手に落ち込むマサが悪い。私たちはただ……仲良くなりたいだけだもん。


「私達まで一緒に扱うお義姉様が悪いんじゃない! 私とマサは何も悪いことしてないでしょ?!」


「でも人には割り切れないものがあるんだよ、マリーみたいに区別ができる人ばかりじゃない!」


「意味がわからないわよ! バカ!」


意味が分からない事を言うマサに怒鳴る……普通に考えてわかるでしょ? 私たちは何も悪いことをしていないって……犯罪者の子は犯罪者なの? 違うでしょ!


「私はお義姉様と仲良くなる事を諦めない、諦める理由がない」


「そんなの、向こうに嫌われてるだけで十分だろ?」


確かに現時点ではお義姉様には嫌われているかも知れない……けど、これから関係を修復していけば良いじゃない。何も嫌われているから永遠に分かり合えない訳じゃないんだから。たとえ何度拒絶されようと、それでも──


「──それでも、何度だってぶつかってみせる。今度は惚けたりしない」


「……」


お義姉様だってこのゲームでプレイヤー、NPC問わず滅茶苦茶に迷惑掛けまくってるんでしょ? だったら私だって一時的に迷惑だろうが、お義姉様に何度だってアタックしてやるわ! それで最終的に仲良くなれたら私たちの勝ちよ。


「……マリーは本気なんだな」


「当たり前よ、マサは違うの? 仲良くなりたくないの?」


いつまで悲観的になってるのよ、そろそろ復活してよね? 一人だけじゃ流石に厳しいんだから、協力してくれないと困る。


「そうか……俺ももう一度、もう一度だけ頑張るよ……」


「ならよし!」


マサも気持ちを切り替えられたみたいでなにより! これで後はお義姉様にぶつかって行くだけだけれど……。


「……その為には強くならないと……ブロッサムちゃ……さんは何か良い案ある?」


「……存在を忘れられてるのかと思ってた」


「それは……ごめんなさい」


た、確かにせっかく声を掛けてくれたのに無視して喧嘩してたわね……反省しなきゃ。心做しかブロッサムちゃん拗ねてる気がするし。


「はぁ〜……丁度今アホな経験値たちが湧いてるわよ?」


「? 経験値が、湧く?」


「えぇ、お馬鹿なプレイヤー達が私を狙ってるからそれをPKすれば良いわ」


ふーん、どうやらプレイヤー達が自主的に催しを開いて特定のプレイヤーを狙っているのね……そしてブロッサムちゃんもターゲットに含まれていると。


「あなたのお姉さんも狙われているから、ある程度レベルが上がったら狙って見たら?」


「……それでも、追い付けるレベルじゃないでしょう?」


マサの懸念は私も思うところで、いくらレベルを上げても最初期からプレイしてるお義姉様に届くかというと……まったく自信が無い。


「大丈夫よ、確かにレベルなんかの影響は大きい……けれどこのゲームはジャイアントキリングを狙えるのよ」


「どういう事ですか?」


「要は油断してる奴の寝首を搔くのよ」


たとえレベル差が大きくて相手の防御力を抜けなくても、急所なら攻撃が通るし即死させる事もできる……むしろ大物を狙うようにゲームバランスは設計されている、らしい?


「それにね、最初のPKで《ジャイアントキリング》は手に入れているはずよ」


「そうか、追い付かなくても……いやむしろ半端に追い付くよりも良いのか」


あー、なるほど……最初に先輩プレイヤーをPKさせたのはこういう格上殺しに役立つスキルや称号を得るためだったのね、抜け目ないわ。


「それに私も付いてるし、気にせず兄弟喧嘩して来なさい」


「はい! ありがとう、ブロッサムちゃん!」


「ブロッサムさん、ありがとうございます」


…………ていうか、ブロッサムちゃんって絶対に華子ちゃんだよね? マサは気付いていないっぽいし、ブロッサムちゃんも気付かれていないと思ってるみたいだけど。


「……とにかく、私はお義姉様よ」


頬を思いっ切り叩いて気合いを入れる……人の話やネットの情報ばかりで本当にお義姉様がどのくらい強いのか実感はないけれど、容易い相手ではない事は確実……しかも絶対にこちらを殺そうとしてくるだろうし。


「……絶対に殺されずに文句言ってやる」


仲良くなる前に蹴られた文句くらいは……言っても良いよね?


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