第139話エイプリルフール外伝.魔法少女マジカル☆レーナ!

『君が魔法少女になるんだプル!』


「……」


高校からの帰宅途中におかしな小動物……いえ、デフォルメされたユウさんに意味不明な絡まれ方をされてしまいます。うーむ、この前ユウさんにおすすめされたアニメ『魔法少女マジカル☆マジカ』を一気見したせいで幻覚や幻聴の類が……?


『無視しないで欲しいんだプル!』


「……」


無視して迂回しながら帰宅を目指しますが……その都度に目の前に回り込まれ、如何に私が魔法少女とやらの適正が高く、この町が怪人の恐怖に脅かされているのかを解説してきますね。……というよりもしつこいです。


『君が魔法少女になって怪人たちぶょっ?!』


「黙りなさい、今の私は寝不足なのです」


小動物の頭を鷲掴みにして握る事で無理やりに黙らせます。……昨日は珍しくアニメを見て夜更かししましたからね、辛いのですよ。


『でも君が魔法少女にならない──痛い痛い!』


ぬいぐるみの様な触り心地の小動物……その耐久性も容易に想像できるというもの、人差し指と中指を立てて頭頂部へとめり込ませればいとも簡単に音を上げます。


「はぁ……仮に私が魔法少女だったとして、詰まらない『遊び』に付き合う暇は──」


『──イィー! 怪人黒パンスキー、イィー!』


「……」


おかしいですね、本格的に寝不足の様です。この23世紀日本の首都である東京において全身黒タイツ……いえ、分かりづらいですが黒い女性用下着も着用していますね……まぁ、とりあえず変態的な格好をした自分を怪人だと言い張る不審者が現れるとは……春ですね。


『ほら! 怪人が現れてしまったプル! 君がグダグダしているからプル!』


『その通〜〜〜り! イィー!』


「……」


なんですか、これ……私が悪いんですか? どうしましょう……母から教わったある程度の『普通』や『異常』にも、このようなケースはありません。

うーん、ユウさんやマリアさんと『KSO』をやっていて新たに学んだ『常識』や私の『倫理』も通用しなさそうですね……しかもここはリアル、下手に私自身を出せません。どう、しましょうか……。


『お前も黒パンを穿くんだ──ぶえっ?!』


『プルェッ?!』


とりあえずうだうだと考え込んでいるところに変態……怪人さんが両手を広げて襲って来ましたので手に持っていた小動物さんで顔面を殴打します。


『がぶぅっ?!』


そのまま顎を掌底でかち上げ、怪人さんの右手首を掴み足と背中で背負い込むようにして投げ飛ばしますが……普通に起き上がってきましたね。


『だ、ダメだプル! 怪人は魔法少女に変身しないと倒せないプル!』


「…………怪人さん鼻血が出てますが?」


『…………とにかく魔法少女に変身しないと不死身なんだプル!』


そういう事らしいですね、怪人さんも『へっへっへ、魔法少女が居ないんじゃあ仕方ないよな〜』と態とらしく煽ってくる割には中々襲って来ませんね……どうやら私が変身するのを待ってくれている? ようです。意外と親切な方なのでしょうか。


「その前に警察──」


『──電波妨害!』


「……………………小動物ではなく害獣ですね」


そこまでして、私に変身して貰いたいようですが……というか警察を呼ばれたら不味いということは魔法少女でなくても良いんじゃないですかね?


『クックック、いいんプルかぁ?』


「……なにがです?」


いきなり悪どい顔をし、とんでもなく下品な喋り方をし始めた害獣さんに少し驚き片眉を上げます。


『魔法少女に変身しない限り、ずっとこのまま付かず離れずの距離であの変t……怪人は付き纏って来るプルよ?』


「……」


正体、現しましたね。これはもう限りなく漆黒に近い黒でしょう……この害獣と変態は何が目的かは知りませんが結託していますね、間違いなく。


「……とりあえず変身とやらをすれば、解決するんですね?」


『ん〜? 魔法少女に変身するのは嫌なんj──痛い痛い! ごめんなさい!』


調子に乗り始めたので顔面を潰す勢いで握り締めればすぐさま音を上げます。はじめから従順であれば良いものを……。


『そ、その通りだプル……やる気になってくれて僕は嬉しいプルよ!』


「今さらキャラ作りはいいです」


『……とりあえず、このマジカル☆ステッキを持って僕の言う通りに呪文を唱えるだプル!』


とりあえず渡されたマジカル☆ステッキ……長さはゲームでもよく使う短刀と同じ程度の先端に羽のような飾りが付いている……とりあえず棒を渡されましたので受け取ります。


『いいプルか? ちゃんと振り付けと表情もバッチリ決めるプルよ!』


「……しないとダメですか?」


『ダメプル、でないと怪人の数が増えるプル』


はぁ……仕方ないようですね。ここまで来たら相手方に余計な揚げ足取りをされないように完璧にこなそうではありませんか。


「マジカル☆ジェノサイドパワー!」


マジカル☆ステッキ? を上空へと掲げ、それを身体の外で円を描くように回した後に前方へと伸ばす。そして逆の手でピースを作り、それを爪が見えないようにこちら側へひっくり返した状態で、片目を挟むようにしてポーズをとりながらウィンクします。


「メイク☆アップ!」


少しの羞恥を我慢していると、マジカル☆ステッキから光の帯が伸びてきて全身を包み込みます……あぁ本当に変身するんですね。などと諦観に浸っていると、光の帯が身体の部分をグルグルと覆っていき、それが晴れる頃には変身が終わっていました。


「魔法少女マジカル☆レーナ!」


恐らく私は満面の笑みでありながら目は死んでいるでしょう……鏡を見ずとも自分で確信が持てます。

どのような原理かは知りませんが高校の制服姿からピッチリと張り付き、身体のラインがハッキリと分かるドレスのビスチェ部分にフリルやレースで飾り付けした上半身に、短過ぎて思わず股を擦り合わせるくらいのミニスカート……太ももが丸見えでありながらフワッと広がっている下半身。全体的に薄紫色ですね。

後は適当に二の腕までの乳白色の手袋にガーターベルトで吊り上げられた白と黒のしましま模様のハイサイソックスですね。そして実用性無視のハイヒール。


『『──か、完璧だ』』


「……」


変身が終わり、改めて見下ろした自身の格好に今まで感じた事の無い、不思議な感情が湧き上がりますが……なるほど、これが…………敵意。

生まれてこの方、肩や膝上などゲーム以外の外で露出した事などなく、異様なまでの羞恥と母が見たら卒倒するだろうなという冷静な部分がせめぎあいます。


『ハッ! そうだプル! 変身してしまえばこっちのものだプル! 必殺技のマジカル☆ビームと叫んで、怪人をやっつけるんだプル──』


「──マジカル☆ビーム!」


『ぶへらっ?!』


御要望にお応えして技名を叫びながらマジカル☆ステッキで怪人の顎を打ち抜き、柄で喉を殴りつけ、先端の羽飾りで鳩尾を殴打してからハイヒールのつま先で股間を蹴り上げます。


「マジカル☆人中、マジカル☆脇腹、マジカル☆丹中、マジカル☆眉間、マジカル☆脇下、マジカル☆天倒──」


魔法少女マジカル☆レーナ! ですからね、必殺技で敵をなぎ倒していきます。

手袋の上からされていた指輪で変態さんの人中を殴りつけ、マジカル☆ステッキの先端を脇腹にめり込ませた後は、柄で丹中を穿ち、脇下を殴打して、頭頂部へと思いっ切りマジカル☆ステッキを叩き付ければとうとう相手は地面に倒れ込みます。


『ぐ、ぐふっ……これ絶対魔法少女じゃ……あ、黒パン──』


「──マジカル☆天誅!」


『ぎゃああああ!!!!』


…………そういえば今日の下着は黒色でしたね、変態さんがずっと言っていた黒パンとやらを穿いていたのを忘れていました。この丈が短いスカートでは倒れ込んだ相手から丸見えではないですか……ここまでの屈辱は初めてですよ。

その怒りをぶつけるようにしてハイヒールのヒールの部分で目玉を踏みつけ潰します。


「マジカル☆天誅、マジカル☆天誅、マジカル☆天誅、マジカル☆天誅、マジカル☆天誅──」


ハイヒールの方がマジカル☆ステッキよりも武器になりますね、最高です。実用性ありまくりじゃないですか。

最高の獲物となったヒールの部分で両の目玉を潰し、喉を穿ち、歯を割って、ただひたすらに必殺技のマジカル☆天誅を放ちます。


『も、もうその辺でいいプル……』


「……」


『……』


害獣さんに止められて、我に返ればもはや虫の息の変態さんが居ました。もはやこれでは身じろぎすら怪しいですね……まぁ、良いです。そこら辺の路地裏にでも棄てておきましょう。


「さて……」


『……』


変態さんを路地裏に投げ飛ばした後、なぜか震えている害獣さんに向き直ります。……もう理解はしているようですね。


「次は──あなたですよ」


『や、やめてプル?!』


▼▼▼▼▼▼▼


「……………………夢ですか」


とんでもなく悪趣味な夢を見せられてしまいましたね、これもユウさんに勧められて見たアニメ『マジカル☆マジカ』を夜更かしして一気見したせいですかね。


「……」


私ではなく母だったら……ロボットアニメと同じくらい魔法少女アニメが大好きだった母様に頼めば良かったですのに……。そうすれば私も母に会えて皆さん幸せに終われたと思います。


「……とりあえず、学校の準備でもしますかね」


寝不足の頭で『もし帰宅途中に現れたら燃やそう』と考えながら朝の支度を終わらせます。


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