第138話ベルゼンストック市その3
「ここは?」
ブロッサムさんに連れられてマリーと一緒に新しい街に辿り着いた。
『始まりの街』の北にある地下通路を通り抜けた先にあるこの街はまるで
「ここは『ベルゼンストック市』よ、暫くはここと『始まりの街』周辺をハムハムするわ」
「「ハムハム?」」
ハムハムってなんだ? いきなりツンケンしてるブロッサムさんから可愛い単語が聞こえてきてビックリする……マリーは驚いてはいないみたいだけど、やはり単語の意味はわからないのか一緒になって疑問を呈する。
移動しながらだから少し躓きそうになった、危ない気を付けないと。
「……行ったり来たりするわ」
……なるほど、ぐるぐる回る事をハムハムって言うのか。なんていうかブロッサムさんが言うとギャップがあってなんとも言えない気持ちを抱く。
「この街では主にパワーレベリングの弊害で伸び悩むスキルレベルを上げていくわ」
「『始まりの街』ではダメなんですか?」
確かにPKや効率的な狩りによって基礎レベルは結構上がったし、スキルレベルも上げないといけないのは判るけどわざわざ場所を移動する必要があるのだろうか?
「スキルレベルは自分が所属する陣営と敵対する者を倒せばボーナスが付くのよ」
「へぇ〜」
当然の疑問に対してブロッサムさんが答え、マリーが納得する……どうやらこの『ベルゼンストック市』では秩序陣営に属する者が人とモンスター問わず多いため『始まりの街』でPKなどをしてカルマ値が下がった今は丁度良いのだとか。
「あとこのゲームはどっかの誰かさんのせいでPVPが当初よりも多いから対人戦にも慣れた方が良いんだけどね」
「? そうなんですか?」
「えぇ、それにこの街ではまだ革命の混乱が収まってるとは言い難いから狙い目よ」
つまりこの外から見ても道が入り組んでるとわかるこの街で強そうなNPCやプレイヤーを襲うのが当初の目的だったらしい……まぁモンスターでも構わないらしいけど、対人戦には慣れないだろうな。
とりあえず革命とか物騒な単語は聞こえなかったふりをしよう。
「まぁでも、無理にとは……」
「……せめて生き返るプレイヤー限定にして下さい」
うん、まぁプレイヤー限定なら大丈夫かな……義姉上がどのくらい強いのか分からないけれど、山本さんが言うに時期的にサービス開始初日辺りから遊んでる筈だし、せめて追いつくまでは……。
「……良いの?」
「えぇ、そもそもそういうゲームなんですよね?」
そうだ、カルマ・ストーリー・オンライン……略してKSOはそもそもプレイヤー同士殺伐としたゲームで不意打ち、略奪、裏切り上等(秩序陣営以外)みたいだし……それが誰かのせいでさらに機会が増えたみたいだけど。
それに剣道の実戦訓練だと思えばむしろ身が入るというもの、精一杯スキルレベルを上げるのを頑張ろう……マリーが心配というのもあるけど。
「それにもうこんな路地裏に……路地裏かな? に入ってますし」
水路が横にあって舟も行き交っているしその分幅があって日差しが入るために暗くはない……けれど場所的に大通りから外れて道も入り組んではいるし路地裏だとは思うけど……詳しくはないから自信がないな。
「だってあの子がずんずん先に行くんだもの……」
「……」
はぁ……まったく、なんでマリーはそんなに躊躇いが無いんだ? 転んで怪我した時に流れる血にすら怯えていたはずなのにどうして? ゲームだから?
そんな事を考えながらマリーを追いかけていると急に立ち止まって動かなくなってしまう……なんなんだアイツは。
「おい、マリー? 先に行ったと思ったら急に立ち止まってどうしたんだよ?」
「……」
「おい?」
いきなりどうしたんだコイツは……呼びかけても反応がないし、まさかどこからか攻撃を受けたか?
ブロッサムさんが効率的だと言うぐらいならば他にもPK目的のプレイヤーが居ても不思議じゃない。不意打ちを警戒するべきだったか……!
その可能性に思い当たると同時にまず人間にとって一番の死角である上空を確認するが人影は見当たらないな。
「……マサ、あそこに」
「っ! 敵か?!」
今まで呆然としていたマリーが緩々と腕を上げ指し示した方角を見やる……腰の刀に手を当ていつでも抜刀できるように整えながら確認した先には──
「──義姉上?」
誰かとチャットでもしているのか独り言を呟きながら歩く義姉上が居た。
もちろん別人の可能性もあるが髪を短くして白のメッシュを入れているだけで後はまったく同じ人……俺らだって髪と瞳の色を変えているし、ほぼ義姉上で間違いないだろう。なぜブロッサムさんが凄い嫌な顔をしているのかは知らないが。
「お義姉様!」
「あ、おい?!」
「ちょっとあなた達?!」
居ても立ってもいられなくなったマリーが駆け出す。それを見て反射的に仕方なく追いかける……ブロッサムさんが制止の声を投げ掛けているが気にしていられない……何故か知らないが嫌な予感がする。
「寄りによってなんであんな危険人物に……?!」
おかしいな……二人とも義姉上に会って一緒に遊び、仲良くなるためにこのゲームを始めた筈なのに今マリーを止めないと取り返しのつかない傷を負ってしまうような……そんな予感がして止まらない。
腹違いとはいえ姉妹であるはずなのに、なんで……こんなにも鳥肌が立つんだ。
「マリー、待てって!」
さすがにこれだけ騒げばこちらに気付いたのか、いつもの何を考えているのか分からない綺麗な顔が振り向く……瞳の色も紅く変わっているが間違いない、義姉上だ。
そう、義姉上のはずなのに……刀に添えた手は震えて止まらない。それを振り払うようにして反対の手をマリーへと伸ばす──
「お義姉さ──がぶぅっ?!」
──が、目の前でマリーは他ならぬ義姉上によって顎に回し蹴りを喰らって壁に激突してしまう……。
自分でも何が起きたのか、何をされたのか理解が追い付かず手を伸ばした体勢のまま固まってしまう……顔に血液が集まり、勝手に耳元で太鼓を叩かれているかのような鼓動音までもが聞こえる……VRの筈なのにおかしいな、まるで時が止まったかのような錯覚に陥る。
「ご主人様、いきなり何をしているの? ですか? ……いえ、ムカつく顔が迫ってきたもので」
「ぁ、え……?」
相手もこちらが義弟、義妹だと認識しているはずなのにまるで……『虫』でも見るかのような、これから殺虫剤を撒いて殺す時の何か別の事を考えながらでも持つ自然体の殺意を発しながら彼女は──
「……ここはゲームですし、問題はありませんよね?」
──短刀を抜き去りながら俺へとその視線を向ける。
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