第137話邂逅その2
「はい、ちゃんと計画通りにお願いしますね」
「……あぁ」
翌日の早朝……微妙に何かを悟った様な顔をしたエレンさんに見送られながらバイクを模倣して貰ったポン子さんに跨って久しぶりに『ベルゼンストック市』を目指し走らせます。
「現実のより速度は出ませんが便利ですね」
一応は現実で二輪免許各種を取得していますし、リアルなVRゲームですから操作に困る事もありません。
ただやはり何処までいっても『模倣』であり二輪車そのものではありませんので速度も体感として時速四十……五十kmいけば良い方ですかね? まぁ山田さんたちの魔術など併用すれば問題ありませんか。
『……!』
「それ見た事か? ……調子に乗っていると
ポン子さんから物凄くウザイ……人間で言うならドヤ顔で鼻息が荒い、そんな感じの思念が送られて来ましたので井上さんのパワーアシストと併せて握りの部分を握力でひしゃげさせながら人間で言う横腹を蹴り込みます。
『……! …………! …………! …………!!』
「痛い、ごめんなさい、許して下さい、ご主人様好き好き? …………まぁ良いでしょう」
調子の良い方ですね……本当にゴーレムなのでしょうか? なんと言いますか私よりも人間臭いですし、どことなく小物ですね。
山田さん達も「こいつマジか……」みたいな思念を送りあって新人従魔を歓迎しているようですね。……多分。
「さぁ、もう良いのでキリキリ走りなさい」
『……!』
調子良く張り切るポン子を急かしながら《噴射》を使いながら急加速を行って内海を目指します。
今回は北の地下通路は通らずそのまま海面を走りましょう。
「フッ! ……影山さん!」
黒煙を発生させる煙玉を上空へと投擲し爆発させ日光を遮ると共に生まれた影を影山さんの『影操作』と井上さんの『物質化』を併用して内海に細長い橋を架けます。
「……シッ! ……フッ!」
前方斜め上へと一定間隔で煙玉を投擲して影を作り出します……外海程ではないとはいえ海の上は風がそれなりに強く、上空ともなれば直ぐに吹き散らされますがこちらはバイクなので数秒さえあれば走り抜けられます。
煙玉が炸裂した時のまるで運動会の早朝に打ち上げる花火のような音と海面から聞こえてくる水の音……吹き付ける潮風にリアルなVRならではの景色に気分がどんどん上昇していくのが解ります。
あぁ……『
「〜♪」
自然と幼少期に母が唄ってくれていた子守唄を鼻で唄います。
炸裂する煙玉がリズムを取り、駆け抜ける風圧で上がる水飛沫が、その音が、それらを彩る……ふとした時に海中から躍り出るモンスターを両断すればそれが退屈を殺し、彼らの断末魔と死体の着水音が変わらぬ曲調にアクセントを齎す。
「……『遊び』が無くとも気分が良いですね」
『『……』』
まぁ、これからその『遊ぶ』ための準備をしに行くんですけどね……偶には別の楽しみに気が逸れても良いでしょう。
煙玉によって程よく直射日光が遮られつつも完全に妨げている訳ではなく、上がる水飛沫も相まって涼しく気持ちが良いです……本当にここまでリアルに電脳世界は進歩したのですね。
「〜♪ 〜〜♪ ──おっと、危ないですね」
人がせっかく気分良くツーリングしていたと云うのに……いきなり私の周囲全てを覆うようにして海面がせり上がりますね? 幸いな事に海水によって日光が遮られ影が生まれているので煙玉を追加しなくとも海に落ちることはありませんが……大物モンスターですかね?
『汝、混沌の使徒よ──』
「……あー、またこのパターンですか」
そういえばこの内海には秩序神の一角である『海神クレブスクルム』という方が居たんでしたね……まぁ前兆も無くいきなり現れて消えた『純朴神ファニィ』よりは関連があっただけマシですかね? ……それでも突然な事には変わりありませんが。
『我が使徒を害し者よ──』
「? ……??」
クレブスクルムさんの使徒を害した? ……そもそも私は他の神々の使徒とすら会ってもいないはずですが?
うーん…………あ、もしかしてロノウェさんの事ですかね? 確かに使徒と言える、のでしょうか? まぁ次期最高司祭であったらしいですし間違いではないのでしょう。
「……多分ロノウェさんの事だと思いますが、今さら出てきてなんの用ですか?」
『この世界に混沌撒き散らす者よ──』
「あ、秩序神も会話をしないのですね」
この調子ですと中立神も会話をしてくれそうにありませんね……まぁその方が私も気楽で良いですけれど、現状手も足を出ない事が判っていますからこの様な首根っこを掴まれたような状態は酷く、吐き気がして居心地が悪いですね? 無理だと判っているのに殺したくなります。
『秩序が成ってこそ海は凪ぐと識れ──』
それだけ言い残して海中に消えていきましたね……なにやら意味深なポエムを言うだけ言って帰っていきましたけれど、生憎と私には意味がさっぱりです──
《カルマ値が下降しました》
《新しく神敵布告スキルを獲得しました》
《新しく神気冒涜スキルを獲得しました》
《新しく称号:海神の呪いを獲得しました》
《新しく称号:七色の貴神の注目を獲得しました》
「……」
…………楽しい気分に水を差されたようで最悪ですね、これは思う存分『遊ばないと』いけませんね。
といいますか、また香ばしいスキルや称号が手に入りましたね? なんだかいつも有り合わせのスキルやたまたま手に入った物でなんとかしているのが多く、自分から特定のスキルを求めて行動した事が少ない気がしますね。
「……まぁ、正直『遊ぶ』のであれば最低限のスキルで充分ですからね」
ですがまぁ、くれると言うのなら有難くいただきましょう。有用なのには違いありませんし、いずれ自身が与えたスキルで痛い目を見せてあげましょう。
「とりあえず、ロン老子は元気ですかね?」
あの時は看破してもまったくステータスが見えなかった老人を思い出しながら海上を駆け抜けます。
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