第135話眼鏡女子

「さてと、時間が出来ましたし調べますか」


『……?』


どうやら今日のエレンさんは調子が悪い様子でしたからね、空いた時間でテイム? 獲得? したオールマイティ・ゴーレムさんの何がオールマイティなのか調べていきましょう。庭に出れば大丈夫でしょうし。


「結果次第であなたの名前を決めましょう」


『……?』


『『……』』


名前を決めると言ったところで山田さん達から一斉になんとも言えない微妙な思念が送られてきましたが無視です無視……それよりも早速実験していきましょう。


「まずどこら辺が万能なんですか?」


『……、…………』


「色んな物の模倣ができる? ……それは便利そうですね」


なるほど、だからオールマイティなんですねぇ〜? でも便利過ぎてゲームバランスとか大丈夫なんでしょうか? まぁユウさんのネタスキルとかカルマ値システムとかここの運営がふざけるのが好きなのは今さらですけれども。


「ではまず武器……そうですね、剣になってみて下さい」


『……、……!』


「おぉ」


凄いですね、手のひらに乗る程度のサイズだったキューブが瞬く間に自身を組み換えていき普通のごくありふれた剣となりましたね……見た目金一色ですがそこに拘りはありません。


「では切れ味は……ふっ!」


長剣と化したゴーレムさんを適当な庭木に対して居合の要領で振り抜き斬り付けます……が、これはなんともまた……。


「……微妙ですね」


『……』


「そんな事はない? ……いや切断すら出来てないじゃないですか」


振り抜いた体勢のまま微妙な表情をすれば庭木に半ば埋まったまま長剣と化したゴーレムさんが抗議して来ますが……たかが庭木程度すら切断できないナマクラが何をほざいているんでしょう。


「まぁゴーレムですからね、元々相性が悪いのかも知れません」


『……!』


「その通り? ……調子が良いですね、では今度は鈍器……メイス辺りでお願いします」


思いっ切りハマった長剣と化したゴーレムさんを引っこ抜いてからお願いすれば調子が良い返事が返ってきます……宝物殿の方もそうでしたがゴーレムという割には意外と感情豊かなんですね? 一応はモンスターカテゴリーだからでしょうか?


「重さは……まぁそこそこですね」


『……、……?』


「ご主人様も割と重そ──せいっ!」


とんでもなく失礼な発言をしたゴーレムさんを力の限り、井上さんのパワーアシストも使ってこの場で一番硬くて耐久があるであろう地面へと叩き付けます……打撃武器としての性能を見る予定でしたし丁度いいですね。


『……!』


「痛い? ……そう差し向けたのですから当たり前です。それよりも打撃もダメですか」


見れば地面は陥没してはいますがその程度……メイスの球体部分とほぼ大きさも変わらない程ですし、なんなら私と井上さんの筋力の結果であってゴーレムさんの貢献は全くといって良いほど無いでしょう。


「うーん、では銃とかどうですか? 世界観的に微妙なラインですが出来ますか?」


『……!』


「バッチコイ? ……本当に人間臭いゴーレムですね」


そのままメイスから自身の身体を小さくコンパクトに、けれども中身の密度や精密さを増して変形したゴーレムさんは見た目完全に金色の拳銃ですね。


「……さすがに銃器は扱った事はありませんけれど、まぁ撃つだけなら大丈夫でしょう」


適当に形を整えた鉛玉を装填し、目の前の半ばまで断ち切られた庭木へと両手で構え腕を真っ直ぐと伸ばしながら首を右側へと少し傾け、肩へと髪が少しかかるのを感じながら照準を合わせます。


「……あれ?」


そのまま発砲……したと思うのですが、どこにも弾痕が見当たりませんね? やはり投擲と射撃では勝手が違ってあらぬ方向に飛んでいってしまったのでしょうか──


「──いや、これはないです」


『……』


一瞬心配し考え込みかけましたが……ふと下を見ると装填したはずの鉛玉が転がっていますね……まさかそもそも勢いが足らずに落ちてしまったなどとは考えたくはないですね、もう一回……今度はちゃんと銃口の方を観察しながら撃ちましょう。


『……』


「……何か弁明はありますか?」


『……』


「……無いようですね」


まさかと思いながらも発砲すれば『ぽすっ』と間抜けな音を立てながら銃口から飛び出た鉛玉はすぐ様私の足下へと落ちてしまいます……これは本当に模倣するだけみたいですね。


「……今からあなたの名前はポンコツのポン子さんです」


『……?!』


「ちなみに拒否権はありません、残念でしたね」


こんなポンコツな欠陥品がユニーク・クエストの報酬とはガッカリです、失望ものですよこれは……。


「……そうですね、もう戦闘関連は除外しましょう」


『……』


「今度は何をさせる気? ……うーん、では眼鏡にでもなってみてください」


これならそれほど問題は無いのではないでしょうか? 武器と違って切れ味や耐久力も必要ありませんからね……今度は拳銃から眼鏡となったポン子さんを掛けてみます。


「……おぉ、これはすごいですね」


普通に視界が開けただけでなく、まるで本物のロボットのコックピットに搭乗したかのような画面……風速や彼我の距離などの様々な情報も瞬時に見れますね、これは便利です。


「なるほど、模倣できると言っても得手不得手があるんですね」


『……! ……?』


「ドヤっ! それで名前の方は? ……いやあなたはポン子さんです」


『……?!』


「ダメです、ポン子で決定です」


一度決めたものは覆せませんよ、それに人は第一印象がほぼ全てですからね……私の中でもうポン子で決まりです……『あーあ』みたいな思念を送ってくる山田さんを短刀の柄を殴り付ける事で黙らせます。


「さて、これは他にどんな事が得意で苦手なのかの検証が必要ですね」


『……』


理不尽に嘆くような思念を送ってくるポン子さんを無視し、眼鏡と化した彼? 彼女? を押し上げながらこれからどうするのか思案します。


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