第133話一条小鞠のPK

「……あれよ」


「あの人たちですね」


私たちは現在ブロッサムさんに連れられて高台にある藪の中に身を潜めて下の街道を通るプレイヤーのパーティーを窺っている……初めての実戦だし緊張しちゃって手が震えてしまう。


「……なぁ、本当にするのか?」


「? 何言ってるのよマサ、これが効率的だって言ってたじゃない」


「そうだけどさ……」


わざわざ知り合いの友達ってだけでブロッサムさんが教えてくれているんだから、ちゃんとアドバイスは聞いておかないとダメじゃない……私は早くお義姉様と仲良くするために頑張るんだから、マサもそうでしょ?


「まぁ、VRゲームでのPKは現実の殺人と変わらないって忌避する人は多いのは確かね」


「……あぁなるほど」


なんだ、マサはそれで不安がっていたのね? 確かに現実の人殺しと変わらないように感じるくらいにはリアルだし、プレイヤーだったら中にちゃんと人が居るから尚更よね……だったらお姉ちゃんの私が代わりに殺ってあげないと。


「じゃあ私が最初に仕掛けるわね? マサはそこで見てて」


「……あぁ」


やっぱり私がちゃんと出来るのか不安なのか、まだ何かを言いたげにするマサに大丈夫だと笑顔を見せてから街道を通るプレイヤーに照準を合わせて弓に矢を番える……彼らは剣士二人に大きな盾を持った恐らくタンクって呼ばれる役割の人と短剣使いに魔術師っぽい格好と神官っぽい格好の人たちが一人ずつ……短剣使いは斥候か何かかしら? でもこの距離で気付いていないのなら後回しにして、先にタンクさんを狙った方が効率的ね。


「なぁマリー、本当に──」


「──殺るわ」


マサの言葉を遮るかたちになっちゃったけれどそのまま『弓術』スキルの《貫矢》という素のステータスのVITまでは無理だけれど装備による防御力補正を無視する武技スキルを使用してタンクだと思われるプレイヤーの唯一の隙間……兜と鎧の間の首を狙って放つ。


「がッ?!」


「おい? ……おい?!」


「どうした?!」


今度は『風魔術』の《追い風》をいくつも使用して風の道を作り、そこに矢を添えてヒーラーと思われる神官プレイヤーに向かって放つ……狙い通りに複雑な軌道を見せながら彼らを迂回して遠回りする様にして先ほどとは真逆から飛んできた矢に頭を貫かれて絶命する。


「ど、どこから?!」


周りを見渡して混乱する彼らを一瞥してから今度は真上に向けて矢を放つ……《追い風》を使って真上に飛ばした後に《向かい風》を使う事で勢いを付けて斥候と思われる短剣使いの脳天を貫く。


「……もうちょっと狩れそうね」


「「……」」


今度はストレートに《突風》と《回転》を使用して単純に威力と速さを高めた矢を放てば魔術師の人の頭を貫通して後ろの剣士の人のお腹に突き刺さる。


「さすがに気付かれちゃったみたい、マサ出番よ」


「……わかったよ」


こちらに怒りの形相で突撃してくる剣士二人を見てやっと覚悟が決まったのかマサも刀を抜いて構える……もしもの時はブロッサムさんが助太刀してくれるみたいだしそんなに気負わなくても良いと思うのだけれど。


「いきなり何すんだよこの野郎! ……ってまだ子どもじゃねぇか」


「はぁ……ダメだよ? いきなり人をPKなんかしちゃ」


「……」


相手が突撃してきたと思ったらこちらがまだ子どもだと見て取って途端に優しく諭すように窘めてくる……その『やれやれ』とでも言いたげな彼らに刀を抜いたままのマサはどうしたら良いのか判らなくなったのか困った顔でこちらを見る……仕方ないわね。


「良いか坊主、初心者なんだろうが混沌陣営だけはやめといたほうが──がッ?!」


「おい?! てめぇ小娘なにしやがべぇっ?!」


完全に油断仕切っていた一人の額を射抜いてから驚きの表情でこちらに慌てて振り返る最後の一人のみっともなくも大きく開けた口に矢を放ち、後頭部から貫通するのを見て取って『終わったわ』と溜め息をつく。


《レベルが上がりました》

《スキルポイントを獲得しました》

《カルマ値が下降しました》

《既存のスキルのレベルが上がりました》


丁度ログも流れたしこれで本当に戦闘が終わったと判定されたみたいね。


「もうマサ! しっかりしないとダメじゃない」


「いや、でも……あの人たち良い人そうだったじゃないか」


「それが演技かも知れないでしょ? 一度相手を攻撃したんだから仲良くなれる訳ないじゃない」


こちらから殴っておいてやっぱり相手が親切だからって無防備になるのはおかしいと思うのよね……行動に一貫性がないし『じゃあなんで殴ったんだ』って相手にも失礼じゃないかしら?


「こちらから仕掛けたんだから、なんの落とし所もなく仲良くできるわけないでしょ?」


「まぁ、うん……そうか」


刀を納めながら渋々といった表情で頷くマサの様子はまだ納得していなさそうね……まぁ仕方がないけれど。


「……別にそんなに嫌ならPKしなくても良いのよ? 効率的だってだけだし」


「! そ、そうだよな!」


「ゲームは楽しむものだしね!」


なんだぁ、やっぱりマサはPKが嫌だっただけなのね? まぁ中の人が居るしますます現実の人殺しとあんまり区別がつかなく感じるのが問題なのかも知れない。


「そういう訳でせっかく教えて貰ったのにブロッサムさんには悪いんだけれど……」


「……いいわよ、別にこれが一番ってだけで他にも効率的なレベリング方法はあるしね」


「本当ですか?!」


「えぇ」


やったわ! さすがこのゲームのベテランさんね! これならマサも安心してゲームを楽しみながらレベル上げが出来るでしょう!


「頑張ってお義姉様に追い付きましょうね、マサ!」


「……そうだな、頑張ろう」


特にマサは先ほどの戦闘に参加していないから未だにレベルが一のまま……私以上に頑張って貰わないと、ダメなんだからね?


「よーし、次の公式イベントまでに頑張るわよ!」


「元気が良いのね」


「……姉がすいません」


私は決意も新たにこれからどんな戦闘スタイルを磨いていくのか、どのようなスキルを新たに取得するのか考えながら拳を握りしめる。


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