第128話一条小鞠のチュートリアル

「あぁ居た、小鞠!」


「正義こっちこっち!」


設定とキャラメイクを終わらせて『始まりの街』の噴水広場にて正義と落ち合う……変に弄るよりはと背中に掛かる程度の長さの髪をポニーテールにしてから白に染め、瞳を金にしたのだけれど問題ないかしら? 正義はそのまま金髪碧眼という割とメジャーな色彩だったけど、小さく髪をうなじのところで結っているわね。


「ちなみにゲームでの私の名前はマリーだからよろしくね?」


「……あぁ、俺はマサで良い」


「……捻りがないわね」


「正義から良いのが思いつかなかったんだから、仕方ないだろ」


まぁ私もそこまで捻った訳じゃないから良いのだけれど……そんな事よりも華子ちゃんが言っていた協力してくれる知り合いって誰なのかしら? 特徴とか教えて貰ってないのよね……華子ちゃん張り切ってて多分伝えるの忘れているよね。


「それにしても華子ちゃんの言ってた人って──」


「──あなた達が華子の知り合いね?」


「……どちら様ですか?」


大きめの三つ編みを肩から流している派手な衣装の女の人が突然声を掛けてきたために、正義……マサが警戒してしまう……まぁとても巨大な大鎌を持っているし仕方がないかな?


「……華子の知り合いよ、今日はあなた達に色々指導してあげる」


「そうでしたか、すみませんがお世話になります」


「よろしくお願いします!」


丁寧に頭を下げるマサに続いて私も元気良く挨拶する。でもそうか、華子ちゃんの知り合いかぁ……こんな女性と知り合っていたなんて知らなかったなぁ?


「私はマリーって名前です」


「俺はマサです」


「そう……私はブロッサムよ、それよりもさっさとこの街を出るわよ」


自己紹介もそこそこに、スタスタと先を行く彼女を慌ててマサと一緒に追い掛ける……でも私たち始めたばかりなのにもう『始まりの街』から出て行くの? 普通チュートリアルクエストとか無いの?


「大方予想がつくから先に答えておくわね……チュートリアルNPCは殺されたから居ないわ」


「「え」」


「だからさっさと領主の館も無いこの街を出て諸々の準備をするわよ」


いや、まさか……『始まりの街』が一人のプレイヤーの手に落ちたとは聞いていたけれどチュートリアルNPCまで殺されているとは思わなかったわ……。


「それとステータスを出して見なさい」


「「『ステータス』」」


言われた通りに出して見れば目の前に半透明のディスプレイというありがちな物が現れる……多分これを操作して装備をしたり、インベントリから物を取り出したりするのだろう。


「それがデフォルトよ」


「デフォルト?」


「そう、人によってはスマホだったりガラケーだっり……世界観を壊したくない人は、本や羊皮紙として出るように設定できるわ。こんな風に……『ブック』」


ブロッサムさんの目の前に革表紙の雰囲気がある本が現れ、その場で宙に浮いたままパラパラとページか捲られていく……すごい、なんかこう……とにかくカッコイイ!


「へぇ、結構種類があるんだな……俺は巻物にするか」


「二百年前のガラケーやスマホがあるくらいだしね、私はブロッサムさんと同じ本で良いかな」


マサと二人でポチポチとディスプレイを弄り回して設定を本と巻物にする……ステータスを出す時もブロッサムさんの『ブック』みたく自由に変えられるようだからそれも変更する。


「それと二人のメイン武器とか魔術の属性は?」


「俺は刀と水です」


「私は弓と風です」


「ふーん、とりあえずバランスは良いわね。パーティー申請を送ったわ」


目の前にステータスの時よりも小さな半透明のディスプレイが現れ、それを操作してパーティー申請を受諾して加入する……これも手紙だとか色々細かく設定出来るみたいだから後で変更しよう。


「ふふ、次のイベントまでたくさん時間があるからみっちり鍛えてあげるわ」


「お、お手柔らかにお願いします……」


「……なんか楽しそうだな」


なんで華子ちゃん本人でもないのにこの女性が張り切っているのかは分からないけれど、お義姉様と仲良くなるためだもん、頑張らないと……マサはもう順応してるし。


「最初は適当なプレイヤーでもNPCでも不意打ちして殺すわよ」


「「え」」


「ある程度まではそれで良いけれど、レベルが三十五を超えた辺りからは普通にモンスターを狩った方が効率が良いわ」


どうやら最初の頃は人間を殺したりした方が『始まりの街』周辺のモンスターよりも圧倒的にレベルが高いため、経験値が多く貰えるそう……不意打ちで急所を突けば格上殺しも出来るこのゲームならではなのだとか。でも高レベルプレイヤーが態と初心者に殺されて、簡単に高レベルを量産されないように一度に貰える経験値や上がるレベルなどに制限がかかっているし、NPCは限りがあるから普通にモンスターを狩った方が効率は良いと……いきなりビックリしたけれど、そんな理由があるなら良いかな?


「……あと変態紳士とジェノサイダーっていうプレイヤーには近付いちゃダメよ」


「? どうしてですか?」


「変態紳士はそのまま変態だし、後者は本物の狂人だし──」


まぁ変態紳士って名前からしてアレというか……嫌な予感しかしないからね、仕方ないのかも知れない。ジェノサイダーって人は確か危ない人だってこのゲームを調べる時に出た気がするけれど……。


「──私の獲物だからよ」


「「……」」


そう言って獰猛に笑うブロッサムさんはとても楽しそうだけれど、どこか嫉妬や怒りなどの負の感情を滲ませた複雑な表情をしていた。


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