第127話一条小鞠の悩み

「はぁ……」


「まだ悩んでんのかよ?」


お家のリビングで椅子に座ったままテーブルに突っ伏して溜め息を吐けば双子の弟である正義が呆れたような声で話し掛けてくる……だってお義姉様と未だに仲良くなれないんだもの、仕方ないじゃない。


「だって……ずっとお義姉様は私たちを避けるんだもの」


「そんなの……親が浮気して出来た弟妹なんだから仕方ないだろ」


「うっ……それは、そう……なんだけども……」


私たちはお義姉様が三歳くらいの時に浮気によって出来た子どもらしい……少し前にお義姉様の血の繋がった母親が亡くなったから引き取られて正式に一条家の子どもとなったけれど、やっぱり恨まれてるのかなぁ?


「でもあんな綺麗な姉が欲しかったし、仲良くしたいわ……」


「……俺よりも先に生まれた罰だ」


「ちょっと意味がわからない……」


ま、まぁ確かに? 兄も姉もいなくて一番上の子だったから憧れてたけど、それとお義姉様と仲良くなれない因果関係がわからないわ……先に産まれただけでお姉ちゃん面するなって事かしら?


「……それよりも正義は仲良くなりたくないの?」


「俺は……できたら仲良くしたいとは思うけど、本人が嫌がってるなら仕方ないだろ?」


「うっ……正論なんて嫌いよ」


「なんだよ、そっちが聞いた癖に……」


そうなんだけども……本人が嫌がってるのが分からなくてどうしようって言ってるんじゃない、私だって無理に仲良くしようとしても迷惑かも知れないとは思うけれどせっかく姉妹になったし、半分は血が繋がっているのだから仲良くしたいじゃない。


「好きな食べ物をご馳走するなんてどうかしら?」


「……義姉上が好きな料理は玲子さんの手料理だったはずだけど?」


「あうぅ……レシピとか残ってないかしら?」


故人の手料理なんて振る舞える訳ないじゃないのよ……それに自分で言っておいてアレだけれど、玲子さんの『味』が好きなのか作ってくれたという『事実』が好きなのかでも変わってくるし……関わり合いになっていない浮気相手の子どもから亡くなった自分の母親と同じ料理出されたら逆に嫌われないかしら?


「ここは女の子らしくお洒落の話題とか」


「……義姉上はそういうの頓着しないらしいけど?」


「あうぅ……元が良いと何着ても似合うから狡いわよね」


お義姉様はお綺麗だし、スタイルも抜群で私と違って胸も……ま、まだ十三歳だもん! 今度十四歳になるしこれからだもん! ってそうじゃなくて! こんな女の子の共通の話題もダメなんじゃ、どうしたら良いのよ……。


「おや、こんな所に……正義お坊ちゃま、小鞠お嬢様、宿題は済みましたか?」


「もちろん終わらせたよ」


「私も……ってそうだわ! 山本さん丁度良いところに!」


「……なんでございましょう?」


とても良いタイミングよ山本さん! お義姉様が産まれて来る前からこの一条家に仕えてお傍で見守ってきた山本さんなら何か良いアイディアかそれに繋がるヒントを知っているはず。


「そ、その……玲奈お義姉様と仲良くなりたいのだけれど……」


「玲奈お嬢様と、ですか……」


そう言って考え込んでしまう山本さんにハラハラドキドキしながら固唾を呑んで見守る。あれだけ斜に構えていた正義まで半ば身を乗り出す形で山本さんの様子を窺っていて……やっぱり仲良くなりたかったんじゃない、素直じゃないわね。


「そうですね……最近の玲奈お嬢様はゲームを楽しんでおられるようです」


「ゲーム、ですか?」


「へぇ、意外だな……」


なんていうか、お義姉様は窓際で常に読書しているというか、絵に書いたような深窓の令嬢ってイメージを持っていたから意外な趣味に少しだけ親近感を持ってしまう。


「えぇ『カルマ・ストーリー・オンライン』……略してKSOというゲームをご学友と一緒に楽しまれているようですよ」


「友人が居たのか……?」


「……正義さすがに失礼よ?」


確かにお義姉様は少し……いや結構取っ付きづらいというか無表情でなにを考えているのか分からないし、何を言われても反応が鈍く良く理解していない感じだけれども……。


「玲奈お嬢様が普段どのようにご学友と遊んでいるかはわかりませんが、同じゲームをしてみては如何でしょう?」


「……確かにそれが良いかも知れないわ」


同じゲームをする事でどんなものが好きなのかが判るし、上手くいけばゲーム内で話したり一緒に遊ぶ事も出来るだろうし……最終的に仲良くなれたりしない……かな?


「よし! 正義、早速注文するわよ!」


「俺もやる前提かよ」


「……やらないの?」


「……やるけど」


本当に素直じゃないのねこの子は……とにかく今から注文しても直ぐに届く訳でもないし、公式ホームページでも見てみようかしら? 明日には届くといいな。


▼▼▼▼▼▼▼


「でね、私もそのKSOをする事になったの!」


「へ、へぇ〜小鞠ちゃんがKSOを……」


ゲームを注文してから翌日の今日。友達の華子ちゃんと一緒に下校しながらKSOについて話す……一緒にゲームをプレイしようと誘うために一生懸命に良さをアピールするが反応はあまり芳しくない。


「……小鞠、梅宮が困ってるだろ」


「えー、でも私は華子ちゃんともゲームしたいよ……」


「ご、ごめんね?」


むむむ、お義姉様とは仲良くなりたいけど華子ちゃんとももっと仲良くなりたいんだけどなぁ……正義にも窘められたし、本当になんかいつも以上にオロオロしているし無理にしても楽しくないし仕方ないかな……。


「で、でも話を聞いてるとそのゲーム結構殺伐としてそうだけど……初心者二人だけで大丈夫?」


「大丈夫……だと思う」


「いや、無理だろ」


む、むぅ……確かになぜか『始まりの街』がとあるプレイヤーの手に落ちて、さらには抗争があって領主の屋敷が爆発したとか、そもそも神殿が焼け落ちてるとか、意味がわからない事になっているみたいだけど……あ、ダメねこれ。


「ゲームそんなに詳しくない私たちには少し難しい……かも?」


「うーん、俺も昔のゲームを少し触ったくらいだしなぁ……」


す、少しゲーム初心者が手を出すにはハードルが高かったかな? でもお義姉様はこのゲームで楽しく遊んでいるらしいし……。


「わ、私の知り合いにその……」


「華子ちゃん、どうしたの?」


なにやら突然華子ちゃんが何かを決意した表情で話し出す……いつもは教室の隅で読書ばかりして目立たないようにしている様子からは想像が出来ないくらいに燃えているように見える。


「私の知り合いにそのゲームを初期からプレイしている人が居るから、二人のこと頼んでみるよ」


「でも悪いわ、その人の都合だって──」


「──大丈夫だから! 絶対!」


「そ、そう……?」


なんだか申し訳ないと遠慮しようとしたら肩を掴まれて凄まれる……この子本当に華子ちゃん? ま、まぁ本人というか知り合いである華子ちゃんが大丈夫だって言うのなら信じようと思う……うん。


「そ、その私その人に連絡取るからもう先に帰るね!」


「あ、うん……バイバイ?」


「……なんだ、アイツ」


なんでか私たちよりもやる気を出していた華子ちゃんをそのまま見送って正義と二人で帰る……ゲームはしたくないけど手伝う事は問題ないの……かな?


「……とりあえずその人にはお礼を言わないといけないね」


「うん、まぁそうだな……」


華子ちゃんあんなに走れたんだとか思いながら家に帰ればちゃんと二人分のVR機器が揃っていて今日からゲームが始められそうだった。


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