第126話一条玲奈の日常その7
「一条さん、ちょっといい?」
「……なんですか?」
帰り支度をしていたらクラスメイトの……誰でしょう? 話しかけられましたが名前が思い出せませんね、まぁその程度の相手という事でしょうがこの場合覚えていないのは『普通』ではありませんから適当に合わせておきましょう。
「一条さんってKSOってゲームをしてるって言ってたよね」
「はい、そうですね」
ゲームについての話題ですか……そういうのはこのクラスだと結城さんか舞さんの方が詳しいと思いますがなぜ私にその話題を振ってきたのでしょう? わかりませんね。
「どんな事をして遊んでるの?」
「特にこれといって……その時したい事をしている感じですかね」
別に何か目的とかルーチンワークがある訳でもなく、その時一番したいことをする感じですかね? なのでこう……何かを誰かと一緒にするなんてことが難しいですね、完全にソロプレイです。
「そっか……ジェノサイダーみたいなのには気を付けてね?」
「……」
……確か弥彦さんが言っていましたね、困った時は微笑んでおけば良いと……とりあえず自然な動きで名前の解らない彼女に対して微笑み、話を有耶無耶にして誤魔化します。
「っ?! じ、じゃあ私はこれで!」
「はい、また明日」
「……は、破壊力やばい(ボソッ」
ふぅ、やっと去って行きましたね……いつボロが出るのか解らないので『普通』を自然とこなせる方と話すのは少し疲れますね、良い誤魔化し方を教えてくれた弥彦さんには感謝しないといけませんね。
「玲奈さん、良かったら一緒に帰りませんか?」
「舞さんですか、良いですよ」
花が咲く様な満面の笑みの舞さんに一緒に帰宅する事を誘われましたね、その後ろに頬を掻きながら結城さんも居ますし三人で帰るのでしょうか? ……こういう『普通』っぽい事は慣れませんが、少し楽しいですね。
「今回は正樹さん達も一緒みたいですよ」
「校門で待ってるらしいです」
今日は大人数で連れ立って帰るのですか……初めての経験に少し戸惑いながらも靴箱まで三人で歩いて行きます。
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「『……』」
めっちゃ気まずいんですけど、なんなのだろうこの重い空気は……僕は確か舞と玲奈さんと一緒に帰ろうとしてて、今日は須郷さん達もそれに便乗する形で、本当だったら楽しく下校していたはず。
「玲奈さん、甘い物は好きですか? クレープ買いません?」
「別に嫌いではないです」
「ジェノサイダーとか言われてても甘い物は好きなのね」
そう、目の前にいる女子組みたく和気あいあいとしていなければならないはず……なぜこうも空気が重いのか? ……やっぱり僕が『そ、そういえば須郷さんってまだ玲奈さんのこと好きなんですか?』って聞いちゃったからだろうなぁ……これだからコミュ障陰キャオタクはダメなんだ、話題選びが致命的過ぎた……!
「私イチゴチョコ」
「私はカスタードプリンが良いです」
「そうね……私はキャラメルホイップにしようかしら?」
「うーん、じゃあ私は玲奈さんと同じにします! 玲奈さんは何が良いですか?」
い、いいなぁ女子組は楽しそうで……こっちは楽しそうなのは忍び笑いしている小田原さんと真面目な顔して口の端が緩んでる九重さんくらいだよ……僕と須郷さんとの間の空気だけ違うし、笑うくらいなら助けて欲しい。
「……食べた事ないのでわかりません」
「っ! ……じゃあオススメにしますね! 店員さーん!」
……本人に自覚は無いんだろうけど偶に玲奈さんは闇が深そうというか、不憫というか……こちらが心配するような事を心配するようなトーンで話すから周りの胸が締め付けられる……今の時代に買い食いで甘い物を食べたことのない女子高生なんているんだろうか? とりあえず男子組も一応クレープを頼む。
「……なぁ」
「ぅえっ?! は、はい!」
「「ぶふっ!」」
ビックリした……いきなり須郷さんに話しかけられるとは思わなかったから変な声が出てしまった……しかも笑われたし辛い。
「……アイツ、いつもあんな感じなのか?」
「そ、そうですね……野良猫にどう触れていいのか分からなかったり、小学生に挨拶されて固まったりしてますね……」
「そうか……」
こちらを怪訝な顔で見ながらも玲奈さんについて聞いてくる須郷さんに答える……玲奈さんは舞が『猫ちゃんだー! 玲奈さんも一緒に撫でましょうよ!』なんて一人だけはしゃいでいた時もまるでその様な接し方があるとは思わなかったと言わんばかりに戸惑っていたり、小学生から挨拶されてビックリしてたりと……やっぱり箱入りお嬢様なのかなって思う時がある。
「これは……」
「玲奈さん、これはこうやって食べるんですよ」
「驚いた、まさかクレープの食べ方も知らないなんて」
「お、お嬢様だから……ですかね?」
渡されたクレープにどう食べて良いのかわからず持て余す玲奈さんに舞が目の前で実演して見せるのを目撃して思わず『あっ! この場面アニメで見たやつだ!』って某ゼミのパロディをする直前で思い留まる……ここには非オタも居るんだから気を付けないといけない。
「はむ……甘いですね」
「美味しいですよね!」
「……なにこの子、本当にジェノサイダーなの? 可愛いんだけど」
玲奈さんまったく表情が動かないし、視線にも温度がないのに仕草が本当に素敵で……やっぱり育ちが良いからからな? 口を大きくは開けず、小さく齧りついてから一言だけ漏らすその動作に、何故か胸が締め付けられて『もっと食べて良いんだよ』って頭を撫でながら甘やかしたくなってしまう……。
「うわっ! ビックリした……運営からだ」
KSO運営からのお知らせメールを知らせるアニソンの着信音に恥ずかしさが込み上げて必要以上に驚いてしまう……今日だけアニソンじゃなくて普通のJ-POPにすれば良かった、本当に。
「……なんだって?」
「……第二回公式イベントだそうです」
「へぇ……?」
まだ大分先で準備期間はあるけれどもう既に須郷さんは玲奈さんに視線を向けて獰猛に笑う……それはもうまるで獲物を見つけた捕食者みたいで、その視線に気付いた玲奈さんもこちらに振り向き首を傾げる。
「おい一条、今度の公式イベント覚悟しとけ」
「……あぁなるほど、別に構いませんよ?」
いや別にお互いに張り合っているのは構わないんだけどさ……玲奈さんは口の端に、須郷さんは鼻の頭に生クリーム付けているから全然怖くないんだよね……もう皆笑いを堪えるのに必死で間に割り込めない。
「まぁ、それはともかく──」
「あとお前──」
お、落ち着くんだ僕……! ここで笑ってはいけない! こんなシリアスな場面で笑うなんて……玲奈さんと須郷さん以外のメンバーとお互いに目配せを送り合って共通認識を得たところで──
「「──生クリーム付けて(るぞ)ますよ」」
──全員の笑いのダムが決壊した。
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