第121話パワー・ゲームその7

背を反らして横薙ぎに振るわれ目の前をスレスレで通る大剣を見送り、隣の城壁を粉砕されるのを無視して腰を捻り、左手に持った大太刀でエルさんの首を狙って腰を折った低い姿勢のまま回転するように振るいつつ右手に持った大太刀で横から迫るハンネスさんの斧を下から切り上げて弾きます。


「ふんっ!」


「っらぁ!」


「シッ!」


そのまま回転して地面を切断しながら糸を射出してその場を飛び退き、左右から振り下ろされた強烈な大剣と斧による一撃を躱しつつ火薬玉を投擲して爆風によって彼らを吹き飛ばします。


「《雷炎極斬》!」


「《地震圧縮激》!」


「《聖魔抜刀》!」


大剣に雷炎を纏わせ極光を放つエルさんと、黒い重力場のような圧力のある鈍い光を発生させるハンネスさん達へと上空から糸をバネのようにして思いっ切り下降しながら即席の鞘を両腰に影で創り、鞘走りを発生させながら反発し合う属性を無理やり混沌属性で纏めて放ちます。


「「「……」」」


極光を放つ大剣の逆袈裟の振り上げでけたたましい音を立てて城が半壊し、鈍い光を発生させる斧の上段からの振り下ろしによってこちらの身を打つ鈍音と共に地面が陥没し、私の大太刀の抜刀術による二連撃の結果として刺すような摩擦音を発生させながら向かいの城壁ごと尖塔と地面が寸断されます。


「俺も人の事言えねぇが、お前ら壊し過ぎじゃね?」


「え、そうですかね?」


「お城だけあって、まだまだあるよ?」


「……あぁ、そうかよ」


会話もそこそこに再度切り結んでいきます、既に三人とも《宣誓》スキルの進化した《神前宣告》を使用していますからね、時間が全然ありませんしさっさと決着を付けなければなりません。


「まぁ、とにかく──」


「それよりも──」


「お前ら全員──」


既に十秒ほどは先ほどまでの攻防で経過していますし、この後王女様を取り返しに行かないとなりません。急ぎませんと本当に時間が無くなってしまいますからね。


「「「──さっさと死ね」」」


上段から振り下ろされる大剣を左手の順手に持った大太刀で受け止め、逆手に持ち替える動作で倒す事によって刃先を滑らせて凌ぎつつ、横からエルさんを斧で殴り付けるハンネスさんに便乗してそのまま大太刀の柄で顔面を殴打してから右手の大太刀を横薙ぎに払ってハンネスさんの腹部を斬り付けます。


───────あと四十秒。


ですが今度は二人に挟まれる形になり背後から大剣が、前方からは斧がそれぞれ腰を捻り回転を加えて振り抜かれますので両手の大太刀を縦に振り払い、その遠心力を利用して重心移動を行い棒高跳びの要領で大剣と斧の隙間を回転しながら通り抜けます……ちょっと胸がキツかったですね、平均よりも大きいので少し不便です。


───────あと三十五秒。


なぜか顔を赤くして目を逸らしたハンネスさんの隙を見逃さず、地に足を付けたと同時に踏み込んで左右の大太刀で挟むように振り下ろしながら押し込みます。寸前で斧で弾かれ防がれてしまいますが押し込んで前進したことで後方からの大剣の振り上げを回避しつつ、バランスを崩したハンネスさんに追撃を仕掛けます。


───────あと三十秒。


斧を振り上げる事で重心移動をして回避するハンネスさんの視線から後ろのエルさんが突撃してくる事を察知してすぐ様身体を横に倒して避け、私とハンネスさんの上を通り抜ける際に殴り付けてくるのを大太刀を身体の横で交差させてから防ぎ、そのまま勢いを利用して飛び退きます。


───────あと二十五秒。


大太刀を重ねるようにして前方に振るう事でエルさんを攻撃しながら地に足を滑らせて身体の向きを入れ替えます。攻撃は弾かれましたが再度ハンネスさんに向き直った体勢のまま火薬玉をエルさんに投擲して牽制しながら吶喊します。


───────あと二十秒。


スキルのエフェクトを纏った斧の連撃を捌いていきます。上昇からの振り下ろしを逆手に持った左の大太刀の刃先で滑らせ、左斜め下からの振り上げを背を反らして躱し、右手の大太刀で首を狙って振るう事で追撃を取り止めさせ、そのまま防いだ斧で大太刀ごとこちらを地面に押し倒そうとするハンネスさんの鳩尾をつま先で蹴り上げながら持ち上げて、こちらへと迫るエルさんへと投げ飛ばし、大太刀を地面に突き刺してそれを支柱にして起き上がります。


───────あと十五秒。


お互いに弾き合い飛び退く彼らに毒針と火薬玉を投擲しながら突っ込みます。助走をつけて飛び上がり、左右の大太刀を重ねるようにして回転を付けた袈裟斬りをエルさんに放ちますが大剣のフルスイングで斜め下へと弾かれます。


───────あと十秒。


ハンネスさんに右手の大太刀を投げ飛ばしながら左手の大太刀を両手で握り締め、背中に背負うように上段に構えてエルさんに振り下ろしますが大剣で押さえられてしまいます……ですので一旦影を消して短刀に戻して、突然抑えるべき物がなくなり前のめりになったエルさんの首を狙いますが……左手で思いっ切りお腹を狙った拳が迫っていますので糸で巻きとって勢いを殺し、引きちぎられますが僅かに生まれた時間を利用して後方に飛び退いて凌ぎます。


───────あと七秒。


毒針を弾いたハンネスさんと振り上げた拳を大剣に添え、両手で振りかぶるエルさんが二人同時にこちらに殺意を隠そうともせずに迫ります。


───────あと六秒。


こちらへと踏み込みある程度近付いたところで鋼糸の罠を発動します。


───────あと五秒。


地面や瓦礫に紛れて仕込まれていた鋼糸が一斉に彼ら二人の身体を巻き取り、関節に長針を弾くようにして射出して突き刺し固定します。


───────あと四秒。


再び大太刀を二本両手に持って、足下に《噴射》を掛けながら吶喊……彼らの首を狙います。


───────あと三秒。


もう時間がありません、これで決めます。その決意と覚悟を以て大太刀に《報復絶刀》スキルのエフェクトを纏わせ振り被ります。


───────あと二秒。


関節が壊れる事も厭わず、むしろ折り曲げて長針を折りながら糸を引きちぎって後方へと二人が逃れようとしますが……大太刀の影を伸ばしてその首を射程圏内に再度収めます。


───────あと一秒。


それぞれの武器で防ごうと構えますがこの大太刀は影ですから一旦消し去り、彼らの武器を通り過ぎたところで再度刃を伸ばします。


───────あと〇.五秒。


驚きの表情を浮かべるもすぐ様こちらに対して武器を振りかぶる彼らを視界に収めながら大太刀を振り抜き、彼ら二人の首を叩き斬る!


「「「……」」」


両手の大太刀を降り抜いた姿勢のまま、こちらにそれぞれの武器を振り下ろす体勢で動きを止めた彼らを眺めます。


「朝……ですね」


「あぁ、そんでもって時間切れだ」


「決着つかず、か……楽しかったから良いけどね?」


彼ら二人の首を落とす寸前に朝日が昇りこちらの影を消し去ってしまいましたね……強いですが、夜間しかマトモに使えないのが欠点ですね。


《リスポーンまであと──》


自身のHPが全損し、そのような通知が来ているのを横目で確認しながらこの最高の玩具お友達に心からの満足感を滲ませた微笑みを浮かべます。


「ありがとうございます、最高に楽しかったです」


「けっ! こっちは面白くねぇよ!」


「そうだね、満足だね」


二人共言っている事は正反対ですが、同じく満足気な表情をしている辺り同じ感情を抱いているのでしょう……まぁただ、そうですね。


「ですが、まぁ──」


「お前ら全員──」


「でもさ──」


絶対不可侵領域エルサレムさんが首を掻き切るジェスチャーを……ハンネスさんが中指を突き立てて──


「「「──死ねばよかったのに」」」


──私が舌を出して親指を地面に向けて振り下ろします。


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