第122話王都の神殿にて
「大丈夫よ」
「……はい」
あれからハンネスが一人で殿になって、上空という死角から襲ってくるキモイ虫たちから護りながら王女ちゃんを連れて、エルマーニュ王国・王都の神殿に他のパーティーメンバーと一緒に来ていたのだけれど……元気が無さそうね?
「エレノア、王女は大丈夫なのか?」
「うーん、ハンネスが心配みたいね」
王女ちゃんの様子を見て取ってラインが心配の声を掛けてくるけれど……やっぱり仕方ないわね、あのジェノサイダーことレーナちゃんにしばらく連れ回されていたんだもの、嫌なものを見てきただろうし、自分を助けようとした人たちが目の前で殺される事もあったでしょう。
「わざわざ神殿で待つくらいだもんねぇ〜」
「ケリン茶化さない」
ミラに叱られているケリンを横目に見ながら王女ちゃんの事について考える……元々この国の王太子殿下から王女ちゃん付きのメイドさんの遺品探しのクエストを受けて、それをクリアした後に救出のためのワールドクエストを受けたのよね……だから本当はワールドクエストとエピッククエストの両方をクリアするために先ず王城に出向かなければならないのだけれど、王女ちゃんが『ハンネス様が心配です』って思い詰めた表情で言うものだから尊重した結果、今神殿に居る訳で……。
「大丈夫ですよ、私たち渡り人は死んでも死にませんから」
「……私の前から居なくならないですか?」
「えぇ、勿論です」
こういう時はさすがのチェリーね、保育士志望なだけはあるわ。おそらく信頼していたメイドさんも父親である王様もレーナちゃんに殺されて自分の前から居なくなったりした事が尾を引いている王女ちゃんを慰めている。
「「「……」」」
そうこうしている内にリスポーンして来たわね……というよりレーナちゃんや絶対不可侵領域まで一緒に出てきたのには驚きを隠せないわ、ハンネスが死ぬのはわかっていたけれど……大健闘したのね、なんでお互いに危ないジェスチャーをし合っているのかは知らないけれど。
「ここは……王都の神殿ですか、そういえば王都から帝都まで走ったんでしたね」
「僕もモンスターの群れを追い掛けてそのままだったね」
「……お前らを王都から追い掛けたこっちの身にもなれってんだ」
……凄いわね、先ほどまで本気で殺し合っていたのでしょうに普通に会話を始めてしまったわ、ハンネスも自然と加わる辺り本人は否定するでしょうけど着実に毒されてきているわね。
「あの……ハン、ネス様……」
「あ? ……なんだ」
「大丈夫……でしょうか?」
「ハッ! 俺がやられる訳ねぇだろ!」
王女ちゃんが私の背後から恐る恐るといった様子で出てきてハンネスに心配の声を掛けるけれど……あのアホはそんな王女ちゃんの気も知らないで本当に……はぁ〜、近くにレーナちゃんが居るから前に出るのは怖かったでしょうに。
「無事に逃げられたようですね?」
「っ!」
「……第二ラウンド行くか?」
そんな王女ちゃんにレーナちゃんが声を掛けた事でこの場の空気が張り詰める……すぐ様ハンネスが王女ちゃんの前に庇うように出て彼女に凄む……こういう所は格好いいのだけれどね?
「……私は別に構いませんが?」
そう言って首を傾げる彼女に脱力してしまう……何を考えているのかわからないけれど、おそらくこちらが緊張した面持ちなのが理解できないのではないかしら?
「てめぇ、この期に及んでまだ王女を狙うなら容赦しねぇぞ?」
「……あぁ、そういう事ですか」
ハンネスが王女ちゃんを背に隠して彼女に対して威嚇すればやっと理解したようで、こちらを微妙な表情で見詰めてくる……何かおかしなところでもあったかしら?
「今回は王女様を連れて逃げ果せたあなた方の勝利です、その景品はあげます」
「……そうかよ、気に入らねぇ」
まるで王女ちゃんが物のような言い方にハンネスが顔を顰める……当の本人である王女ちゃんはレーナちゃんに連れ回された間に色々と慣れてしまったのか気にせずにハンネスを潤んだ瞳で見上げて……その男は止めておいた方が良いわよ?
「そうですか? まぁいいです、私はそろそろ行きますね」
「けっ! てめぇを叱ってくれる奴はいねぇのかよ」
そのまま神殿の出入口まで歩き去ろうとする彼女に向かってハンネスが投げ掛けた言葉に対して意外にも立ち止まって俯いてしまう彼女に発言した本人がたじろいでしまう。
「……そんな人、居ませんよ」
「……ふん! そうかよ」
これは予想外ね……思っていた以上になにやら彼女の深いところに踏み込んでしまったみたいで、私だけじゃなく他のパーティーメンバーまでどうしていいのか分からないでいる……王女ちゃんだけはなぜか恐怖の表情を浮かべているけれど。
「……おいクソ女」
「本当に失礼な方ですね……なんです?」
そのまま無表情にこの場からさっさと立ち去ろうとする彼女に向かってハンネスがさらに何かを言うべく呼び止める……正直もうこれ以上刺激しない方が良いのではないかと、ラインがハンネスの肩に手を置くけれどそれを振り払って彼女に向き合って──
「──また叱り飛ばしてやるから覚悟しとけ」
「──」
一瞬、ほんの一瞬だけ驚きに目を見開いたあと彼女が薄く微笑む……そのあまりの暖かく、優しい綺麗な表情に……同じ女性の私ですら見惚れてしまう破壊力があって……本当に凄いわね? これで何故あんなプレイスタイルなのか、わからないわ。
「……ふふ、それはまた……楽しみにしていますね?」
「っ! お、おう……そうか」
……本当にこの男は情けないったらないわ。自分から傍から見たら口説くような真似しておいて照れてるんじゃないわよ、王女ちゃんが怪訝な表情で見上げているじゃない。
「いやー、青春っていいね?」
「うるせぇよ、イカレ野郎」
「傷付くなぁ……まぁいいや、レーナちゃんこの後君も呼ばれているんだろ? また会場でね」
「……そうでしたね、その時はよろしくお願いします」
どうやらレーナちゃんと絶対不可侵領域にはリアルで顔を合わせる用事があるみたいね、そのまま二人で連れ立って神殿を出て行ってしまう。
「良かったな、ハンネス」
「……何がだよ」
「これで一応勝てたと言えるんじゃないか?」
まぁ、そうよね。王女ちゃんを奪還出来たし、エピッククエストも彼と彼女を出し抜いてクリア出来そうだし、誇っても良いと思うわよ?
「……俺が求めるのは完膚なきまでの完全勝利だ、奴に『ごめんなさい』させるまで諦めん」
「はぁ……ま、いいか」
「仕方ないわね」
本当にこの男は……一度決めたら聞かないんだから、それに振り回される周りの身にもなりなさいよね? 慣れているし、楽しいから構わないけれど。
「僕はハンネスに付いて行くよ〜?」
「私も彼女が気になって仕方ありません」
「今度こそ奴の頭を撃ち抜く」
「ミラだけ物騒だな……」
ま、まぁミラは無表情だけれど負けず嫌いで感情豊かだから仕方ないわね……多分未だに撃った矢が全て弾かれたり躱されたりしているのが悔しくて気に入らないのね。
「あ、あの!」
「……なんだ?」
「あ、あり……ありが、とう……」
「……気にすんな。助けようと思ったのも、あの女を倒したいと思ったのも俺の自己満足だ」
まったく不器用なんだから……そのままハンネスに頭を荒々しく撫でられて顔を真っ赤に染め上げた王女ちゃんを連れて、クエスト達成の報告をするべく王城へと向かって今日は終わりかしらね。
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