第119話パワー・ゲームその5
「《光輝硬壁》!」
『光輝魔術』で覚える上位の結界を張って彼女……レーナさんの投擲から後衛を守ります。あれだけの人数で乱戦を演じながらこちらに攻撃する余裕があるなんてやっぱり凄い。
「シッ! ……当たらない」
「牽制にはなってるんだから、落ち込まないの」
まさかレーナさんだけでなく絶対不可侵領域さんまで居るとは思いませんでしたけど、彼もPSが少し……というか、かなり頭のおかしい次元にいるようです。先ほどからミラちゃんが放っている即死狙いのヘッドショットや行動阻害目的の四肢に対する狙撃も、二人共紙一重で躱したり弾いたりしています。
「ただでさえ夜で暗いっていうのに……《豪炎地走》!」
「なんか影纏ってる……《雷轟滅矢》」
「絶対不可侵領域さんは目立ってますけど……対比でレーナさんを見失いそうです……《照明》」
槍を大太刀で強打され体勢を崩したケリン君を救うべく、そこに突撃しかけた絶対不可侵領域さんの足下へとエレノアちゃんが魔術の炎を走らせ、ミラさんがレーナさんの追撃を防ぐべくスキルを発動した矢を放ち、私が視界を確保するために夜空へと閃光弾を魔術で打ち上げます。
「……居ない?」
「おいこらクソ女! てめぇ王女をどこにやりやがった?!」
夜空に打ち上がった閃光弾によって全員の影が濃ゆくなりますが視界が開かれた事で辺りを見渡しますが……レーナさんが拐ったはずの王女様が居ません。それについてハンネス君が怒鳴ります、まさかとは思いますが殺していませんよね?
「? ……あぁ、お空の上ですよ?」
「てめぇ……」
ハンネス君が怒ってしまいました……私もまだ十歳程度と聞いていた王女様に対する仕打ちに憤りを隠せません。でも彼女の場合は比喩的な表現なのか物理的にお空の上に居るのか判りませんから、まだ生きている可能性はあります。
「ほら、あそこに」
「……まさかの物理的に空の上だとは」
お城の本体とも言うべき一番大きい建物の屋根をぶち抜いた先に王女様が吊るされていました……これが人のやることでしょうか? あんまりにも可哀想で愕然としてしまいます、小さい子どもをあのような高所に吊るすなんて……。
「お前に人の心は無いのか……」
「? 私は人ですので、私の心が人の心と言えるのではないでしょうか?」
「……そんな哲学めいた話はしてねぇよ!」
レーナさんは話を逸らそうだとか、煙に巻こうとかしていなくて素でこう返していますからね……同じ日本語を話しているはずですのに会話が成立しません。今も怪訝な顔をしながら尖塔の屋根ごとハンネス君を大太刀で寸断しています。
「《エクスヒール》!」
「サンキュー、チェリー! ……《清浄青光》!」
すぐさまハンネス君を回復すればお礼を言いながら武器に秩序属性を付与するスキルを使用しながら背後から迫っていた絶対不可侵領域さんへと斧をフルスイングしながらその衝撃を利用して尖塔から飛び降り、この一連の流れの間ライン君とケリン君で対処していたレーナさんに突撃します。
「《漆黒刀》」
「チッ! 《パリィ》!」
身体全体を使うようにして大太刀を振り回し、ライン君とケリン君の押さえを外してからスキルを使用して大太刀を振るうレーナさんの攻撃を防ぎ、吹き飛ばされたのを仕方がないと利用して上から迫る絶対不可侵領域さんにハンネス君が向き直ります。
「君たちも中々面白いじゃないか! 《加重》《加速》《破砕豪剣》!」
「……サイコパス同士似たようなことほざいてんじゃねぇよ! 《硬化》《増強》《大地の城壁》!」
レーナさんが絶対不可侵領域さん達の近くの尖塔を下から切断し、倒れ込んでくるそれを無視しての絶対不可侵領域さんの猛攻をハンネス君が城壁を生み出して防御しながら殴り付けます……城壁で殴るなんて彼も段々と毒されてきてますね。
「……相手は一人ずつ、こっちはパーティーなのにね?」
「本当に嫌になるな、ゲーマーとしてのプライドが折れそうだ」
「ラインも落ち込むんだ?」
「そりゃな」
尖塔が崩落し、けたたましい音を立てて辺りに瓦礫の雨を降らせますが……土煙と一緒にそれが晴れれば大太刀を構えたレーナさんと大剣を担いだ絶対不可侵領域さんが健在の様子が見れます。二人の足下を見るに尖塔を切断したり粉砕したりして凌いだようです、化け物ですね。
「……チッ! チェリー! エレノアァ! 隙を作るから頼んだぞ!」
「了解です」
「まぁ、仕方ないか」
我らのリーダーであるハンネス君の意図を正確に理解し、そのための行動を開始します。まずは前衛組にさらなる強化付与を効果の薄いものまで重ね掛けしてからMPポーションを飲みます。
「『妄執献身・救済乙女』『魂魄昇華・神聖光輝』『身体武器・杖身一体』」
「『妄執探求・破滅魔女』『魂魄昇華・紅蓮煉獄』『身体武器・杖身一体』」
いつでも駆け出せるように切り札を発動します。そのまま背後からライン君に切りかかろうとしたレーナさんの目の前に結界を張って邪魔をすれば絶対不可侵領域さんが突っ込んできます。
「行かせるかァッ!」
「浮気はよくないよ?」
ハンネス君が押さえ、ケリン君が鎧の隙間に突きを放ちますが……鈍重な見た目とは裏腹に俊敏な動きで躱してしまいます。まだ有効打を与えられません。レーナさんの一撃は城や地面ごとこちらを切断してきますし、絶対不可侵領域さんの攻撃は一発マトモに喰らえば即死だと分かりますのに、理不尽でさえあります。
「……へっ! 絶対不可侵領域は想定外だが、そろそろレーナ……てめぇに一泡吹かせてやるよ」
「……へぇ、それは楽しみですね?」
元々彼に頼まれたクエストもありますからね、ここで絶対にレーナさんを出し抜いてやります。
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