第117話パワー・ゲームその3
「そろそろ良いか?」
ブルフォワーニ帝国の帝都で粗方モンスターを倒し終えてから仲間達へとなんとなしに問い掛ける……まったく、四桁を超える数のモンスター引き連れて街を襲う奴があるか? やっぱあの女は頭おかしいぜ。
「そうだな、そろそろ規定数は殺しただろ」
「どちらのスキル効果も十分」
俺の問い掛けにラインとミラが頷き答えるので俺もステータスを確認してみれば、確かに規定の数のモンスターを連続で倒す事で発動するスキルと短期間に特定人数の人助けをする事で発動するスキル、そしてその両方の条件を満たす事で発動するスキルが発動可能になっていた。
「……確かにもう十分だな」
「じゃあ、もうこのまま城に向かう?」
ステータスからその事実を確認して頷けばケリンが笑いながら質問してくるがその内容に鼻で笑い飛ばす、城に向かうこと自体は構わない……けどな?
「バカ言え、NPCを助けながらに決まってんだろ?」
「だと思った、さすがハンネス」
「言ってろ」
あれだ、そう……NPCも現実の人間と同じように生きてるんだからな、それを助けるのは人として当たり前とは言わないが何も間違っちゃいない……それになにより……。
「……自分が滅茶苦茶にするはずだった帝都を救われてみろ、悔しがるぜ?」
「まぁ、確かにそうね」
エレノアが同意してくれるがまさにその通り、レーナの野郎をぶっ倒す事は確定として奴の狂った目論見まで全て挫いてこそ完全勝利と言える……俺が求めるのはそれだ。
「あの人が居ない今がチャンスですね」
「チェリーの言う通りだ、奴が居ない今が帝都を救うチャンスだ」
なんの目的があったか知らねぇが、幸い直ぐに城に向かったからな。あそこならここよりも兵士のレベルも高いだろうし、なにより人も少ないし被害も小さくなる……と思う。だから今のうちに帝都からできる限りモンスターを間引かねぇとな。
「おら、さっさと奴の鼻を明かしてやろうぜ!」
「仕方ない」
ミラが呆れた風を装っているがその手は淀みなく上空のハエもどきを撃ち抜いていくのはさすがだと言わざるを得ないな、俺も負けてられねぇ! 仲間内だろうが最多討伐数を稼いでやる!
「おっしゃ! 誰が一番モンスターを倒してNPCを救えるか……勝負しながら城を目指す!」
「……あなたって、たまに子どもっぽいわよね」
「負けない」
「ミラさんも負けず嫌いですよね」
今さらこの程度のモンスターに手こずりはしねぇ、どうしてもラインやケリンにはAGIで敵わねぇがSTRなら負けねぇ、一撃必殺でモンスターを処理していく。
「ふんっ!」
「あ、ありがとうございます!」
「……危ないから避難してろ」
「お、お名前は……」
間一髪のところでNPCの町娘……か? を助け次へと向かう。ぐぬぬ……スピードではラインとケリンに勝てねぇし、エレノアは殲滅力が段違いだし、ミラは上空の敵を独り占めしてやがるし……チェリーにしか勝てそうにねぇじゃねぇか!
「負けてたまるか!」
「うっわ、フラグに気付かないとか……」
「まだお子さまなのよ」
なんだかケリンとエレノアに馬鹿にされている気がしないでもないが今はできる限りのモンスターを間引いてレーナのクソ野郎をぶっ倒すのが最優先だ……モンスターを倒せば倒すほど効果を発揮するスキルや称号を奴と戦う前にできるだけ発動しておきたいのもある。なによりもレーナが居ないんだ、街を一つ救うくらい簡単にこなせないでどうする。
「今のうちに聞いておくが勝てそうか?」
「あん? そんなもんイレギュラーが無けりゃレーナには勝てる自信しかねぇな」
奴がまだ何か隠し球を持っていない限りストレートに勝てるんじゃねぇか? 無論油断は一切ないがそう言い切れるだけの準備とレベリングをこちらはしてきた……これでまだ勝てないのなら、もっと強くなって再戦するだけだ。
「ったく……多すぎだろ、どんだけ引き連れてきたんだ」
「ほんそれ」
パーティーメンバーと離れ過ぎない距離をお互いに保つ速度で帝都を城を目指して走り抜けながら愚痴を零す……倒しても倒しても湧いて出てくるモンスターに『バグってんじゃねぇのか』と不満を抱く。
「シッ! ……おそらくモンスターを誘引する薬品でもばら撒いているんじゃないか?」
「あー、彼女なら生産できそうだねぇ」
「チッ、帝国兵は早く城門を閉めやがれ」
斧を構え《大地律動》スキルを発動してから地面へと思いっ切り叩き付け地割れを起こしモンスターの群れを呑み込んでいく……横から突っ込んでくる猪の鼻っ柱を殴り折り、空から襲ってくるハエもどきを叩き落として、ゴブリン共は蹴り飛ばして道を拓いていく。
「し、使徒様……!」
「……誰の事だ?」
「ハンネスだろ?」
なんかNPCから『使徒様』とか『御使い様』とか呼ばれて拝まれるんだが……? これもカルマ値が関係してんのか? とりあえず邪魔だし《大地の加護》という一定期間モンスターが寄り付かなくなるスキルを掛けてやって追いやる。
「おら、邪魔だからさっさと避難しろ」
「ありがたや……」
「この御恩は必ず!」
「お兄ちゃん頑張れー!」
ぐっ……なんか恥ずかしくなってきやがった。仲間達もこちらをニヤニヤとした表情で見てやがるし……てかチェリーだって『聖女様』とか呼ばれてんじゃねぇか! なんで俺だけ恥ずかしい思いをしてんだよ!
「慣れてるチェリーと慣れないハンネスで差がついたな」
「くそったれ!」
モヤモヤした気持ちを晴らすように斧に乗せてモンスターにぶつける。雑魚を斧の一撃で身体を左右に真っ二つに寸断しながら進み、段々と城が見えてきたが……ありゃなんだ? 城がボロボロだしあちこちが爆発してんぞ?
「……えらい激しく戦ってんな?」
「NPCにも強い人が居たんでしょうか?」
「将軍とか強そうだよねぇ〜」
なるほどな、まだそこまでエリアを解放したわけではないが一国の将軍ならNPCでもそれなりにレベルが高そうだな……彼らと共闘するのも視野に入れるか。
「そろそろボス戦だな」
「公式に認知された野生のレイドボスね」
「彼女ホントに笑える」
「まぁ、有名になりましたからね」
「認知されるのは当然」
エピッククエストで名指しで討伐対象にされるぐらいには公式でも有名なんだろう……くだらねぇ、そんなもん知るか! 俺が気に入らねぇからぶっ倒すんだよ!
「ハッ! 何がレイドボスだ、同じプレイヤーなら倒せない道理はない!」
公式に認知されようが関係ねぇ! 同じプレイヤーなら同じように殺せるんだよ! イベントでは後一歩だったのがその証拠だ。……仲間達が苦笑するのを努めて無視しながら今まで溜めていたスキルを発動する。
「『防人』」
モンスターを連続で倒すごとにゲージが溜まり、それを消費する事でAGIとVITが上昇するスキルを発動する。
「『博愛主義』」
一定期間に特定人数のNPCを助けるごとに最大HPと受ける回復の効果が増えるスキルを発動する……今回は助けた人数が多かったために継続回復の効果も解禁されたようだな。
「……ハンネス、本気で殺るんだな!」
「ハッ! 当たり前だ、そろそろ気ぃ引き締めろ!」
最終確認をしてくるラインを安心させるように吼えて魅せ、最後の準備が面倒臭いがとっておきのスキルを発動する。名前が気に入らんが奴を倒せるのならこの際構わねぇ──
「──『HERO』」
──首を洗って待っとけクソ女。
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