第116話パワー・ゲームその2

「「山田さん(アシュリー)達は強化付与を」」


おや? 彼も従魔を魔統まとっているようですね? 見れば彼も驚きの表情でこちらを見ていますが……まぁ面白いので良いでしょう、様子見は終わらせてここからギアを上げていきます。


「《深淵赤光》!」


「《不動白光》!」


武器に対して『混沌属性』を付与して突撃します……相手も似たようなスキルを使っていますが構いません、そのまま短刀の突きを大剣でガードする彼に放ちます。


「ははっ、やっぱり魔統まとうと膂力が凄くなるよね」


「井上さんは私のメイン筋力です」


「井上……あ、あぁ! 君の従魔の事ね?」


……なぜ訝しがられ、少し変な間があったのでしょう? なにやら酷く傷付いたような気がしてなりませんね、なぜでしょう? 井上さんも『わかるわかる』みたいな念話を送ってきて不思議ですね。


「《破砕豪剣》!」


「《流水流転》!」


彼の喰らえば一発でHPが全損するだろうとわかるスキル攻撃をこちらもスキルにて受け流します……大振りに振り下ろされたエフェクトを纏う大剣を滑らかに回すようにして背後へと逸らします。


「チッ……ふん!」


「シッ!」


思いっ切り壁をぶち破り、渡り廊下の屋根へと躍り出ながら壁だった瓦礫を大剣の腹で打ち付けこちらへと飛ばしてくるのでそれを全て首を傾け、糸を足場に跳躍し、落下して躱しながら毒針を投擲します。


「『破滅遊戯・虐殺器官』」


「『永遠無敵・我が栄光』」


謁見の間から飛び出し、渡り廊下の屋根の上へと移動した彼を追い掛けながらお互いに特殊強化のカードを一つ切る。強化された身体能力で以て頭上から短刀を振り下ろします。


「はぁっ!」


「シィイ!」


大剣を傘にしてこちらの落下攻撃を防ぎ、そのまま拳でかち上げる事で持ち上げ、勢いを殺さずに振り回すようにして屋根へと叩き付けてきますのですぐさま跳躍して回避します。


「シャアッ!」


「ふっ!」


大剣でこちらを渡り廊下ごとぶった切るように上段から振り下ろされるのを短刀の刃を立てて滑らせながら側面をぶっ叩いて体勢を崩し、彼の鳩尾へとつま先をめり込ませますが──


「がっ?! ぬぅん!」


「ぶっ?!」


──向かって左側へと叩かれて逸らされた大剣を重心移動に利用して、こちらから見て右側から回転するように顔を蹴られ、さらに勢いを殺さず一回転してから横薙ぎに振るわれる大剣の一撃を蹴られた衝撃そのままに倒れ込むようにして回避します。


「『愚劣支配・魔統』」


「『魂魄共鳴・魔統』」


井上さんに引っ張られるようにして急速に起き上がり、井上さんのアシストによって滑らかな動きで相手を見ずに後ろ向きに肘鉄を食らわせますが、後ろへと誰かに引っ張られるようにして避けられます。


「うらぁ!」


「せぇい!」


お互いに相手へと向かって駆け出し、武器を振るうと見せかけて得物を投げる……大剣と短刀がぶつかり合って弾かれ上空へと飛んでいくのを横目で確認しながら彼へと殴り掛かる。


「女の子なのに殴り掛かるなんて……」


「古臭い華族らしい古臭いジェンダー論をお持ちのようで」


「別に本心じゃないけどね、むしろ楽しい」


「私もですよ」


突き込んだ拳を首を傾ける事で避けられますが、そのまま引き抜くようにして首を掴んで地面へと叩き付けますが、両手をついてバネのように跳ね上がってこちらの腹へと背中を打ち付けてきます……少し息が詰まりました。


「っ……乱暴な」


「そっちだって、いきなり首根っこ掴まれるとは思わなかったよ」


こちらの回転ストレートを前腕部で受け止めながらの膝蹴りを蹴り入れる事で跳躍して避けながら頭上を取り、回転してからの踵落としを腕をクロスする事で防がれます。


「『自己改変・狂騒凶薬』」


「『絶対不動・不可侵領域』」


脚へとさらに力を込めれば渡り廊下は砕け散り、落下していきます……空中で瓦礫を足場に接近し、胸へと発勁を放てば手首を掴まれて上空へと投げられ、魔術による光弾を放たれるので結界を張りますがその衝撃でさらに飛ばされます。


「うらぁ!」


「せぇいや!」


地面に落下し、そのまま蹴り付ける事で大地に亀裂を入れながら突貫し、拳を突き出してくる彼を蹴り飛ばしますが……向かいの尖塔へと着地しましたね、私も結界を足場に反対側の尖塔へと降り立ちます。


「山田さん」


「ヒューリー」


呼びかければお互いの武器が飛んできて自分達の手の内に収まります……やはり従魔のようですね、彼らは彼らでお互いに切り結んでいたようです、AIが優秀ですね。


「中々決着がつかないね?」


「私もここまでとは思いませんでしたよ」


一対一の勝負でここまで実力が拮抗していたのは初めてではないでしょうか? 少なくともプレイヤーでは居ませんでしたね、彼も中々におかしいようです。


「どちらが先に音を上げるかな? ──『神気憑依・ルーシェン』」


そう言いながらスキルを発動すれば全身を着込んでいた鎧が覆っていき、鉄の塊のような巨人へと見た目が変わりましたね、多分とてつもなくステータスが上がっていますね。


「さぁ、どうでしょう? ──『神気憑依・影山さん』」


なので私も魔統まとっていきましょう。自身の影が吹き出してこちらに纏わりつき、手脚と胸から口元までを覆っていきながら、ところどころで陽炎のようにユラユラと揺れます。


「それも使えるのかぁ〜」


「最近覚えました」


「本当に君は面白いね?」


「? あなたも面白いですよ?」


「それは光栄だね?」


鎧を魔統まとって鉄の巨人と化した存在感のある彼に対して、影を魔統まとって陽炎のように実体が掴めなく存在感の無い私が相対します……本当にこの戦いは心躍るものがありますね。


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