第115話パワー・ゲーム

ここ、ブルフォワーニ帝国帝都の中心地にある皇城の謁見の間……そこで、もはや《偽装》スキルなどで溢れ出る混沌の気配を隠さず垂れ流しにしていますが……相手も不自然な程に自然体な気配を隠そうともせずにこちらと相対していますね。


「絶対不可侵領域……さん? でしたか?」


「呼びやすくエルサレムでいいよ?」


「そうですか? ではエルさんで」


自然体で普段通りとでも言わんばかりの男性は絶対不可侵領域と書いてエルサレムと読む名前みたいですね……私と違ってネーミングセンスはそこそこ有るみたいで何やら微妙な気分です。


「一つ質問なのですが」


「うん? なんだい?」


「あなたはカルマ値に拘りがあるようですが、私を倒した後はどうするんですか?」


ただ純粋に疑問に思っていた事を聞いてみます。確か彼はカルマ値をゼロにする事に圧倒的な拘りを持っていたと……ユウさんが言っていた気がします。自分で言うのもアレですが、私のカルマ値は極悪ですからね、私を倒せばそれだけでカルマ値は急上昇すると思われますがどうなんでしょう?


「あぁ、そんなの君を殺した後で王女も殺せば良くないかな?」


「え」


「なるほど、納得しました」


「え」


私を倒す事でエピッククエストをクリアしながら、救出すべき王女様を殺す事で上がったカルマ値を下げてプラマイゼロにすると……なにやら法律の穴をつく裏技みたいで好きですよ? そういうの……華族には必須スキルと言えるでしょう。


「ではちょっと邪魔なので王女様は上に退いてくださいね」


「おぉ、景品っぽくなったね?」


少しばかり糸を操作し、王女様を縛り上げたままぶち抜かれた天井の真ん中へと固定します……帝都中の建物が焼ける事で発生した煙によって覆われた空の下で、宙ずりになった王女様はまるで全てに絶望したとでも言わんばかりに涙を流してますが……そんなに高所が怖いんですかね?


「「まぁ、とりあえず初めまして──」」


お互いに初対面の挨拶を交わして私が短刀を、絶対不可侵領域エルサレムさんが背中から斧のような大剣を引き抜いてお互いに武器を構えます……私でも少し呼吸がし辛くなるほどのプレッシャーをお互いに放ちます。


「「──そして死ね」」


先ずは小手調べとして毒針を投擲しながら駆け出しますが……大剣を床に叩き付ける事で風圧で弾き飛ばしながらこちらの足場を崩してきますね、糸で即席の道を作りそのまま接近して眉間へと短刀を突き出します。


「あぐ」


「……美味しくありませんよ?」


こちらが突き出した短刀を噛んで受け止める彼に思わず声を掛けてしまいますが下から大剣を振り上げられているので喉を殴りつけながらそれに乗り、振り上げられる勢いを殺さずに跳躍して空中に張り巡らせた糸に飛び乗ります。


「……ふふ」


「喉は痛いなぁ」


薄く切られた頬の血を拭いながら喉を擦る彼を見下ろします……あの状態で一撃入れられてしまいましたか、中々に侮れませんね? この前のイベントでも個人のトップでしたし強いのでしょう。


「楽しくなりそうですね?」


「そうだね、プレイヤーでここまで戦える人中々居ないからね」


空中ブランコのようにこの空間に張り巡らせた糸から糸へと飛び移り、彼が登場する時にぶち破った天井に付いていたシャンデリアの残骸を投擲しながら落下します。


「怖くない?」


「いえ、まったく」


短刀を構えての落下攻撃を大剣で防がれましたので、カウンターを貰う前に糸でバンジージャンプのように自分の身体を引っ張ってまた上空へと逃れます。もちろん爆薬と毒の置き土産を忘れずに。


「ふんっ!」


「おー、ホームランですね」


起爆する前に開けた天井へと打ち返すとは……大剣とは思えない瞬発力ですね? まぁ私を狙ったんでしょうけどさすがに当たりませんよ。


「降りてきたら?」


「んー、そうしたいんですけど貴方が足場を壊したので……」


「あー、じゃあフェアに僕も上に行こうかな」


そう言って足下の床を踏み砕きながらロケットのように跳躍する彼を迎え撃つべく、その無防備な頭頂部へと短刀を振り下ろしますが篭手をした腕で弾かれ、片手で持った大剣で胴体を薙ぎ払われるので彼の肩に手を置き支点として、一回転して避けながら襟を掴んで投げ飛ばします。


「ははっ、いいねぇ! そう来なくっちゃ!」


「ふふ、最高ですよ!」


空中で回転して体勢を整え、残った天井すら崩落させるのかという勢いで足場にして未だに落下しているこちらへと突撃してきますので、糸を束ねてパチンコのように自分自身を弾き飛ばして迎え撃ちましょう。


「うーん、あなたどこかで会った事ありますか?」


「ん? ……あるね」


「おや、そうでしたか」


振り下ろされた大剣の側面を蹴って逆手に持った短刀を彼の首へと食い込ませながら浮かび上がった疑問を聞けば、大剣を持ち上げる動作で重心移動をして空中で背後へと頭から落ちるようにして回転しながら彼が答えます。


「園遊会とかで会った事あるよ──一条玲奈・・・・さん」


「あー……同類の方でしたか」


お互いに『火炎魔術』の《噴射》を要所要所で用いて空中で姿勢制御を行いながら再度突撃……謁見の間の壁を放射状に踏み割りながら大剣を振りかぶる彼へと毒針を投擲します。


「そうだよ、見覚えあるでしょ? 見た目は多少違うけど」


「……あ、九条弥彦さんでしたか」


投擲された毒針を片手で全て弾き飛ばした彼へと短刀を突き込みますが振り下ろされた大剣の重みには勝てませんので即座にまた逆手に持ち替えて刃を立てる事で逸らし、振り切られた大剣の峰を掴んで飛び越し、彼の顔面へと膝蹴りを喰らわせますが足首を掴まれて投げられます。


「そうだよ、久しぶり」


「あんまり印象にはありませんでしたね」


「だって玲奈さん、行事がある時いつも壁の華になってるし」


「……あんまり好きじゃないんですよ」


咄嗟に糸を掴んでぶら下がりながら振り向けば彼もまた、残ったシャンデリアの残骸を掴んで落下しないようにしていますね? 試しに毒針や火薬玉を投擲しますが蹴り返されますので叩き落としておきます。


「まぁ、同じ華族の名前は覚えているようでなにより」


「……一応必要ですからね、頑張りました」


一般の同年代の学生の方達は勉強をこのような気分でしているのだろうかと考えながら暗記しましたとも、すごく辛かったですが……そんな事を回想しながら再度空中でぶつかり合います。


「まぁ、そんな事は今は良いでしょう?」


「そうだね、今は君を殺す事が大事だね」


私が空中に張り巡らせた糸を足場に、彼が崩落していく天井とその瓦礫や壁を足場にして徐々に距離を詰めていきます……一瞬の交差する刹那にお互いの武器を振りかぶって殺意をぶつけ合って笑い合う。


「「──さっさと死ね」」


さて、同じ華族の同年代だということが判明しましたが殺る事は変わりありません。彼を殺してエピッククエストをクリアしましょう。


「私の城が……」


「陛下、早くお逃げを!」


空中で涙を流す王女様と、茫然自失になる皇帝陛下とそれを逃がそうと奮闘する将軍など最早目に入らず、彼と純度の高い殺意を込めて微笑み、睨み合います。


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