第114話帝都動乱その3

「何が起きておるか?!」


「そ、それが陛下……」


帝都がモンスターの襲撃を受けたという報告を聞いてからまだそれほど経っておらぬというのにたった今、この城を守護するための最終防衛ラインたる魔道具が発動しただと?! 信じられるか!!


「お伽噺のドラゴンでも攻めてきたとでも言うのか?!」


「そ、それが……」


「はっきりと申せ!」


ここまで腸が煮えくり返るのはいつぶりか……皇帝として即位してからまったくと言って良いほど声を荒らげた事などないというのに最近は口ごもる部下にすら苛立ってしまう。


「あ、相手は……人間です!」


「……何を言っておる? 帝都を襲ったのはモンスターの群れではないのか?」


あまりにも予想外な答えに思わず冷静になってしまう……いやこの状況下ではむしろありがたい事ではあるが不可解である。帝都を襲ったのがモンスターの群れで城を攻撃したのは人間だと?


「そ、それがモンスターの群れを引き連れてきたのもその人間の仕業だと!」


「……報告ではモンスターの数は四桁は居るとの事だが?」


「それを全て引き連れて──」


「──そんな者はもはや人間ではない! さっさと討伐せよ!」


数千のモンスターを引き連れて帝都まで走ってきたとでも言うのか? 普通の人間ならば恐怖で頭がおかしくなっても不思議ではないというのに……それを成し遂げ、外壁の城門を破って城に壊滅的な攻撃? そんな人間が居てたまるか!


「陛下! 第二防衛ライン突破されました!」


「担当者は速やかに交戦を避け、消耗を抑えながら後退! 第三防衛ラインの者と合流──」


「──第三防衛ライン突破されました!」


「ええい! 早すぎるであろう!」


先ほど第二防衛ラインが突破されたばかりだというのにもう第三防衛ラインまで突破されたのか?! いくら主力が王国に出払い、不意打ちに近い形で数千のモンスターに襲撃されたと言っても早すぎる!


「陛下、恐らく空からの砲撃が問題かと……」


「将軍……空の敵には対処できんのか?」


「小さいうえに数が多く、なにより我が国は空から襲撃される想定などしておりません」


「頭が痛い……」


人間の死角である頭上からの断続的な砲撃……か? それによって物資の移動も人民の避難もままならないどころかマトモな交戦すらできないだと?


「渡り人が言うに『制空権』なるものが奪われている状態だと……」


「……渡り人が言うのだ、他の世界ではちゃんとした戦術として認知されているのだろう」


「対空が貧弱だとか……」


「……まさか渡り人は空と戦っていたとでも言うのか?」


そんな馬鹿馬鹿しい話があるわけが……待てよ、敵も『制空権』なる概念を知っている可能性が高いのではないか? だとしたら相手は王国側に付いた渡り人か?


「……敵も渡り人である可能性が出てきた」


「……それでは完全には殺しきれませんな」


そうなのだ、渡り人はこの世界に来る時に神の加護によって瀕死になると自動で蘇生し神殿で甦る……何度殺しても意味はなく、奴らは時に特攻などという狂人の如き戦法を嬉々として取る。


「神殿と協力して封じ込めるしかないのではないか?」


「なにをですか?」


「それは勿論……誰だ?」


私と将軍に割り込む聞き慣れない女の声に振り返れば、謁見の間の入り口でおそらく返り血によって真っ赤に染まった美しい女が人体の一部を持って立っていた。


「……なるほど、化け物ですな」


「こちらを人として看做していない視線が不愉快だな」


首を傾げながら奴を排除しようと動く近衛兵たちを淡々と作業的に処理をしていく……槍を突き込めば何故か喉が掻き切られ、剣を振るえば首が落ち、矢を放てば頭に穴を開けられ、囲んで一斉に襲えばブロック状に加工されてしまう。


「うーん、神殿はもう爆破したはずなんですが……」


「……やはり狂人か」


「神殿を爆破するなど考えられませんからな」


死んだ近衛兵に薬品を掛けて実験をしながら考え事を洩らす女に寒気を覚える……これでは同僚の死体が目の前で弄ばれているというのに囲むしかできない者達を叱責などできるはずもない。


「それで? お主の望みはなんだ? 金か? 地位か? 名誉か?」


腰から宝剣を引き抜き、将軍が構えたのを確認しながらこの頭のおかしい女に問いかければ心底理解できないという顔をされてしまう……もはや我々の常識が通じるとは思わん方が良いな。


「え、そんなもの要りませんけど……」


「……そうか」


状況が違えばなんて無欲な少女だと称賛したのだがな……帝都にモンスターを引き連れ、皇帝たる私を危険に晒し、近衛兵を解体したり薬品の実験にしたりしながら放たれた言葉ならば恐怖しか覚えない。


「ならば貴様には死を下賜して──」


「──失礼するよ?」


将軍といざ勝負というところで謁見の間の天井をぶち破って大剣を担いだ優男が現れる……今度は誰なのだ? もはや驚きすらない。


「君がジェノサイダーで合ってる?」


「そうみたいですね、あなたは?」


「僕? プレイヤーネームは絶対不可侵領域と言うよ」


……それは名前なのか? この時点で渡り人ということは確定だが味方なのかそうでないのかの判断がつかない……ええい、渡り人は災害か何かか?!


「あぁ、なるほど……私も後で用があったんですよ」


「そうかい? それは奇遇だよね、君も同じ目的でしょ?」


「えぇ、だって──」


「僕たちが──」


味方では無さそうだが敵でもなさそうだな、ジェノサイダーと呼ばれた頭のおかしい女と絶対不可侵領域と名乗った頭の痛い男がお互いに武器を構える。


「「──エピッククエストをクリアしても構わない」」


……皇帝たる私と将軍がもはや忘れ去られている気がするんだが? もう嫌なんだけどこいつら。


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