第112話帝都動乱

「暇っすね〜」


「普段煩い奴らが居ないからな〜」


あまりにもやる事が無いので先輩にボヤけばそんな気のない返事が返ってくる……まぁ確かに普段こちらを偉そうに上から目線で怒鳴り散らす煩い正規軍の奴らが居ないっすからね、なんか気が抜けても仕方が無いっす。


「俺ら帝都警邏隊はお留守番だしな」


「アイツらは今ごろ戦場だと思えば、こっちの方がマシなんでしょうけどね」


俺はまだ死にたくないしなぁ……というかこの戦争も突然だったよな? 確か王国の第一王女が仕掛けてきたんだったよな? まだ子どもだと聞いていたんだけど、世の中わからねぇな……確か今の皇帝陛下は穏健派だったっていうのにさ。


「お前たち、何を話している?」


「た、隊長?!」


「失礼しました!」


先輩と暇つぶしに会話をしていたら運の悪い事に隊長がやってきてしまった……別に仕事をサボっていた訳じゃないけども先輩と一緒になって反射的に敬礼して畏まる。


「楽にして構わん、俺も暇だったしな」


「そうなんですか?」


「あぁ、今日はなんだか静か過ぎてな」


やっぱり隊長も暇してたんすね、それに言われてみれば確かに静か過ぎる気もする……偉そうな正規軍の奴らが居ないだけじゃなくて帝都全体がなんだか静まり返っていて……曇り夜空なのも相まって、まるで嵐の前の静けさのような感じで気味が悪くなってくる。


「……なんか嫌な感じっすね」


「まるでこれから何か起こるような……」


「お前ら滅多な事は言うもんじゃない」


「「す、すみません……」」


不安になり、先輩と二人で不吉な事を言い合えば隊長から注意されてしまう……確かに縁起の悪い事を話していたら本当に実現してしまいそうっすからね、気を付けないと。


「まぁ、まず帝国軍が敗北することは無いだろう」


「軍事的に圧倒的に優位ですからね」


「渡り人たちが不確定要素だがな」


隊長と先輩の会話を聞いて少しだけ安心する。確かに帝国と王国の軍事力の差を思えば負ける事などありえないとわかる……それに既に王国の海運は掌握し、王都目前という情報まであるんだから心配するだけ損って奴っすね。


「まぁ、どうせ俺ら留守番組に出番なんて──なんだあれは?」


「? どうしたんっすか?」


「……」


いきなり隊長が話している最中にこちらの背後を見て黙ってしまう……まさか幽霊やアンデッドが出たなどと脅かすつもりではないだろうし、なにがあったのかと聞き返してみればみるみるうちに隊長の顔色が悪くなってくる。


「……お前らもあれが見えるか?」


「? どれっすか?」


先輩と二人で振り返ればそこには遠目に森が見えるのみ、夜も更けているうえに天気が悪く曇っているために見えづらいけれども、それ以外は特におかしな様子も……待て、この方角に森は無かったはずっすよ?


「……は?」


「っ?! 嘘だろ……あれ全部モンスターか?」


異変に気付きよく目を凝らして見れば森のような影が蠢いているのがわかり、それが全て生き物……モンスターであると段々とわかってくる。というかむしろ帝都に近付いてきているのでハッキリと視認できる。


「て、敵襲──がッ?!」


「「隊長?!」」


やっと現実であると判断できた隊長が叫びを上げるとどこからか狙撃されたようにして、頭が吹き飛び物言わぬ骸と化す。


「や、ヤバいっすよ!」


「そんなもんわかっぷぇっ?!」


「ヒィッ?!」


隊長に続き先輩の頭まで吹き飛び、敵は明確にこちらを狙っていると気付くももう遅かったのだろう……その数瞬後には自分の意識も途絶える。


▼▼▼▼▼▼▼


「ふっ!」


多数のモンスターを引き連れながら帝都までマラソン大会を敢行し、外壁が見えてきたところで『遠見』スキルを発動してその上の歩哨……かなにかでしょうか? 兵士さんに向けて『誘引薬』や『甘香』を内部に詰め込んだ鉄球で狙撃すると共に外壁を越えて、モンスターを引き寄せるそれを帝都内部にばら撒きます。


「せぇい!!」


手近なモンスターを糸で捕縛して『狂気薬』というバーサーク状態になる薬を打ち込み、そのまま投げ飛ばして外壁を越えさせますが……まぁ落下で死なない事を祈りましょう、別に死んでも混乱は巻き起こせるので構いませんが。


「帝都にはもっと混乱して貰わないといけませんからね」


モンスターや薬を投げ入れながら帝都上空へと特製の鉄球を《流星》スキルを発動しながら思いっ切り投擲します……ある程度飛距離を稼いだところで盛大に爆発四散し、遠いはずのこちらへと近くで和太鼓を叩き鳴らしたような鼓膜のみならず、身体全体を打ち付ける花火が咲き誇り、中身の『誘引薬』と『狂気薬』などの劇毒を含む薬品を液体や気体を問わず撒き散らします。


「げぇっ?! ジェノサイダーお前なにして──」


おそらく帝国側についたであろうプレイヤーをそのままモンスターの群れで轢き殺しながら駆け抜け、迎撃態勢を整えようとする兵士を目につく端から狙撃しましょう、邪魔ですからね。


「よっと」


そのまま閉じられた城門へとありったけの爆薬を投げ入れながら自分は糸で外壁に張り付き、そのままロッククライミングの要領で糸を利用して壁を登っていきます……やはり首都を護る城門だけあって爆発には耐えましたが、脆くなったところをモンスターの群れが突っ込みましたので破られるのも時間の問題でしょう。


「ハァッ!」


外壁の上まで登り切ったらモンスターを糸で一纏めにして引き上げて、反対側の帝都内へとゆっくりと引き降ろして輸送します……私のメイン筋力の井上さん大活躍ですね。


「……余裕があるので少し手伝いましょう」


モンスターの輸送を続けながら城門へと強酸と腐蝕剤を流し込んでさらに耐久性を下げていき、爆薬も投げ込んでいきます。それによって何体かのモンスターが死にますが数え切れないくらい居ますので大丈夫でしょう。


「あ、破られましたね」


城門が破壊され一気に凄まじい数のモンスターが帝都へと雪崩込むのを確認し、兵士さんたちが無駄に仕事をしないように城門付近の外壁上に糸の結界を張り巡らせてから私も飛び降ります。


▼▼▼▼▼▼▼

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る