第111話モンスタートレイン

「大分激しくなってきましたねぇ〜」


「……っ」


エピッククエストとやらが来た時は何事かと思いましたがこれは良いですね、プレイヤー達も入り乱れてドンドン規模が大きくなっています。なによりも嬉しい誤算は、プレイヤーの誰かがこの遅れた文明の世界観で地球の戦術知識を披露して被害が双方共に甚大になって後に引けなくなってきているところですか。


「……確か、ユウさんが言うには知識チートって言うんでしたっけ?」


要は自分たちよりも遅れている文明、文化、技術水準の国や地域で先進的な知識を披露し、そのコミュニティで圧倒的に優位に立つと……最初聞いた時は産業革命が起こり、それまで友好関係だったアフリカ諸国を『蛮族に優れた文明を与える』という大義名分で植民地にしたヨーロッパを思い浮かべましたね。


「まぁこれはゲームですし、文化侵略は考えなくて良いですか……戦争ですし」


にしても先ほどの王国側の釣り野伏せは見事でしたね、王国側のプレイヤーに島津家が好きな人が居るのでしょうか? 結構な数の帝国軍を削れましたね、王都の目の前が最前線な王国側としては嬉しい戦果でしょう。


「でもさすが帝国ですね、ここで追加兵力ですか……数は万単位で居そうですね?」


やはり周辺諸国を呑み込み大きくなった軍事大国なだけはありますね、一息つけると思った王国は残念でしたね、もう一戦頑張ってください。


「にしてもそうですか……魔法の撃ち合いにも塹壕戦は効果あるようですね」


一つ勉強になったと言いますか……面白い発想をする人も居るものですね? 確かにこのゲーム世界の魔法やスキルを使った弓矢の威力は高く、山なりではなく、ある程度は直線でも飛距離が長いですからね、現実と同じく一撃で殺すこともできるこのゲームなら有効なのでしょう。


「塹壕によって帝国軍は騎兵を使えなくなったのも面白い結果ですね」


あれだけ地面に穴を掘られては機動力が活かせませんし、そもそも塹壕から顔だけ出して魔法やら矢やらを撃ってくるのですから良い的になるというのもありますしね、帝国側も真似をしてもはや絵面だけなら第一次世界大戦ですね。


「さて、この数センチを動かすのに何万人死ぬのやら……」


西部戦線のように数ミリから数センチ前線を動かすのに何百万人とまでは両国の国力や人口から考えてありえませんが膠着しそうですね? ……まぁ王国側が苦しい状況には変わりありませんが。


「王国のシーパワーは帝国が握っていますからね」


王国西部の『始まりの街』と『ベルゼンストック市』という巨大な港があり、海運を一手に担う要所が落とされているのです……兵員や物資の輸送もままなりませんし、帝国の船で輸送された別働隊が『ベルゼンストック市』から迂回して王国北部や東部と言った穀倉地帯の攻略と、王都の挟み撃ちを狙っています。第一に王都目前まで侵攻されているという心理的圧迫感は強烈なものがあるでしょう。


「大陸の端っこというランドパワーを持っている帝国だから、ここまで全力投球できるんでしょうね」


帝国はこの対王国戦に何十万という兵力を動員していますからその本気度が窺えるというもの……ユウさんが言うには帝国が他に国境を接している国は二つしかなく、どれも小国なために最低限の守備兵で良いのだとか……まぁでも、これだけ動員していたら本国はがら空きなんじゃないですかね?


「さてと、名残惜しいですが私も観戦を止めて動きましょうかね」


一応マリアさんに戦闘の録画を頼むフレンドメールでも送りましょう……もう返信ですか、早いですね? まぁ快く承諾してくれたので良いでしょう、後でお礼でもしますかね?


「では王女様はこれを飲んでください」


「……」


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、ただの酔い止めですから。これからまた激しく動きますのでね」


「……うぅ」


そんな露骨に嫌な顔しなくてもいいではありませんか……まぁ拒絶しても無理やり背負って走るので飲んだ方が賢明だと思いますけどね? それは王女様も同意見なのか渋々とですが飲んでくれましたね。


「では走ります」


「はい……」


そのままその場から王女様を背負って走り出し、目に付くモンスターにちょっかいを掛け、『超薬』スキルで作った『誘引薬』を頭から被ってからさらに『甘香』を炊いて腰に下げる。


『ブモォォオオオ!!』


『キッーー!』


『ギャギャギョオ!』


イノシシっぽいものや猿っぽいもの、定番のゴブリンの亜種など様々なモンスターを引き連れて走り抜けますが……まだまだ足りません、ほんの百数十匹程度ではダメですね。


「森の方が効率良さそうですね」


丁度近くに見えてきた森を見て、そちらの方がより多くのモンスターを集められそうだと進路を切り替えます……別に方角は変わっていませんし、ここを通っても目的地に行けそうですから構わないでしょう。


「では、花子さんもよろしくお願いします」


『チチチッ!』


袖から花子さん……『ベル・モスキート』という名前の様々な毒を集めて精製し、個体によって独自の進化をするという手のひらサイズの蝿のような従魔を解き放ちます。彼女は上位個体の『ベルゼビュート・ドーター』で他の個体を統率し、群体として行動できるので良いです。


「さて、花子さんが広範囲に渡ってピンポンダッシュをしてくれている間にこっちも頑張りましょう」


マリアさん主催の領主館の攻防でレイドを組めば他の方にもバフを掛けられるという結果を得られましたからね、テイム自体は結構前からしていて、いつか実戦で試そうと思っていたのですが山田さん達を外す機会がありませんでした……一月ほどではそこまで進化させてあげられませんでしたね、不細工な神様の影響で予想よりも良い結果の進化になりましたが。


「そうです、武雄さんは上空からこれを森中に落として火を付けてください」


『チチチッ!』


同じく『ベルゼビュート・チルドレン』の武雄さんとその子分にゲル状の燃料を発火させるタイプの火薬玉を持たせて森中に放ちます、後は火に煽られて私が物理的に手だしできないモンスターも自然と森から焼け出されるでしょう。……一度にテイムできるモンスターの数に制限が無ければもっと面白いんですが、さすがに最大十体までのようですから我慢です、まだ空きがありますし我慢です。


「……大分増えてきましたね、四桁は居るんじゃないでしょうか?」


さすがに現状に於いて割と攻略最前線に近い広大な森の、そのほぼ全域から掻き集めているだけあってどんどん数が膨れ上がります。これは幸先が良いですね。


「ふふ、さてそれじゃあ──」


──帝都に空き巣しに行きますか。


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