第110話エピッククエスト
「これか」
「ハンネスあったのか?」
エルマーニュ王国王都のとある一角にある路地裏にて俺は仲間たちと探し物をしていたんだが……なんだこりゃ? これがクエストの依頼の品か? ほぼ黒焦げでなんだかわからねぇぞ。
「あぁ、テキストもそうだって書いてあるが……」
「どうかしたのか?」
なにか不具合でもあったのかとラインがこっちに駆け寄ればそれに気付いた他のパーティーメンバーも何事かと集まってくる……狭ぇよ!
「お前ら近ぇよ! 狭い路地裏なんだから!」
「おっと、すまんすまん」
「わかった退く」
俺がもう少し離れるように言うとラインとミラは素直に少しだけ距離を取る……まったく、俺がまだ落ち込んでいるとでも思っているのか? あれからもう一月は経っているぞ?
「それで、なんだったの〜?」
「いやほら、ボロボロに黒焦げてて原型もわかんねぇんだよ」
一人だけ距離を離さずに肩に腕を回してくるケリンに鬱陶しさを感じながら皆にクエストアイテムを見せれば女性陣が驚愕の表情になり、ケリンは『あーあ』とでも言いたげで……そんな皆の反応がわからないのは俺とラインだけで二人して困惑する。
「な、なんだよ? なんか不味いのか?」
「……本当にわからないんですか?」
「すまん、俺もわからんのだが……」
「えぇ、あなたたち大丈夫なの?」
堪えきれず俺が聞けばチェリーがこちらを訝しげにみながら尋ね、それに対してラインも正直にわからないことを告げるとエレノアが呆れたようにこちらを心配してくる……そんなに不味いものなのか?
「クックック……ダメだ、面白すぎる」
「んだよケリン、わかるなら教えろよ! 男でわかるのお前だけだろ?」
「それ、広げてみなよ」
男性陣の中で唯一これがどんな物かわかっているらしいケリンに勿体ぶるなと伝えるとそんな返事が返ってくる……まったくなんだってんだよ。
「こうか? ……ただの燃えた布にしか見えんが?」
「あ、これは……」
「まだわからないの? ラインは気付いたみたいだけど?」
マジかよラインまでこれが何なのか気付いたってのか? わからないのは俺だけ……なんで女性陣はこっちを蔑んだ目で見て露骨に避けるんだ?
「ブフッ! ダメだ、もう堪えきれない……それ女性用下着だよ?」
「……は?」
「わかりやすく言おうか? ……黒いパンツだよ、女の子のね」
……え? いや、え? ええ?? パンツ? …………なんで女性用下着が黒焦げになって路地裏に落ちてんだよ?! そしてなんで依頼主はこれを探し求めてたんだよ、ふざけんなよ?!!
「ハンネス……」
「ま、待ってくれ誤解だ! 俺は知らなかったんだ!」
待て待て! エレノアはそんな目で俺を見るんじゃない! 付き合いの長いお前から軽蔑されると結構傷付くんだぞ?!
「ハンネスさん、一条さんがジェノサイダーだったから……」
「違うからな?! 別にショックで頭おかしくなったわけじゃないからな?!」
待ってくれチェリー! 別に俺は一条がジェノサイダーだったのが……そりゃ確かにショックだったけどよ、それで堂々と女性用下着に手を出すような変態になったわけじゃないからな?!
「ハンネス……引く」
「お前はシンプルに傷付く……」
なんだよ、ただ一言『引く』って……シンプル過ぎて『生理的に無理』みたいな理不尽な打撃力があって辛いんだが? ……た、確かに女性用下着を握り締めて、その後見やすいように広げたって聞いたら……いや、変態じゃねぇか?!
「本当に誤解なんだ! 俺は」
《ワールドアナウンス:エピッククエスト・大陸西部動乱が発令されました》
《プレイヤーは各自王国側か、帝国側に参戦して戦争を勝利に導いてください》
《また、大陸西部を動乱に巻き込んだ混沌の使徒としてプレイヤー名レーナと迷惑な中立の権化たるプレイヤー名絶対不可侵領域の討伐、または第一王女の救出も勝利条件に含まれます》
《詳しくはこの後一斉に送られる概要欄か神殿にて神託をお受けください》
俺は変態じゃないと弁明しようとしたところでワールドアナウンスが鳴り響きそれどころじゃなくなる……なんなんだよエピッククエストって? しかもその原因がレーナだと? ……あの女はいつもいつも──
「──タイミングが悪ぃんだよ!!」
「アッハッハッハッハッ」
「ケリン、笑ってやるな」
怒鳴りながらこのストレスと原因の一つでもある女性用下着を地面へと叩き付ける……ふざけんな! ケリンも笑ってんじゃねぇよ! ライン、お前もこっち側だっただろ? なにさも俺は普通だみてぇな顔してんだよ?!
「とりあえず概要欄を見てみましょうよ」
「さっさと見る」
「ちくしょう……」
あーん? なになに? ……王国と帝国の戦争にどちらかの陣営に加担する形で参戦してこの世界の未来を決めると共に《
「……アイツ何やってんだよ」
「本当に自重しないよねぇ〜」
「少し目を離しただけで王族拉致と戦争を起こすって……呆れたわ」
俺のボヤキにケリンは含み笑いをしながら同意し、エレノアはレーナがここ最近やらかした事柄を確認して言葉を失っていやがる……いや、本当にアイツはなにをしてんだよ。
「で? ハンネスどうすんだ?」
「……なにがだ」
「お前一応リーダーだろ? 決めろよ」
そう言ってラインはこちらに意見を……というより決定を聞いてくる。コイツらは未だに俺が一条がジェノサイダーだったことにショックを受けてて落ち込んでいると思っていやがるからな、ここはビシッと決めるか。
「あんまりアレなようなら──」
「──んなもん決まってんだろ?」
こちらに気遣い過ぎて禿げるんじゃねぇかってくらいラインが心配して何かを言い募る前にそれを遮って皆を見渡す……それぞれ個性のある表情をしているがどこかにこっちを思いやる気持ちが見え隠れするそれに対していつも通り不遜に、偉そうに、高圧的に宣言する。
「ジェノサイダーをぶっ倒すのは俺だ! それは変わらねぇ、他の誰にだって譲ってやらねぇ!」
そうだよ、ジェノサイダーが一条だからなんだってんだ? 俺が奴をぶっ倒すことに変わりねぇんだよ、今まで散々辛酸を舐めさせられてきたんだぜ? それにこの前のイベントはあと一歩だった、こっちもあれからどれだけこのゲームを攻略してきたと思っていやがる?
「お前らも俺を舐めんじゃねぇよ、このハンネス様だぞ?」
「……はぁ〜、まったく」
「心配して損した」
これ見よがしにふんぞり返って上から目線に見下すようにふざけて見せれば真っ先にエレノアが溜め息を吐いたあとに微笑んで、ミラは相変わらず無表情だが口端を緩めてこちらを非難する。
「よっ! ハンネス様!」
「まぁ、元気が出たようでなによりだ」
「ふふ、調子が戻ったようですね」
ケリンは後で絞めるとして、ラインとチェリーにも安堵の色が見える……自分じゃ気付かなかったが大分心配掛けてたみてぇだな、これは反省しないとダメだろう。だがまぁ、俺はいつも通りだ。
「いいかお前ら? 俺はお前らのリーダーだぞ?」
「よっ! 我らのリーダー!」
「ケリンちょっと黙ってろ」
「酷い?!」
コイツも俺を心配してたからその分ふざけているんだろうが今は少し自重してくれとばかりにラインに肩を叩かれる……まぁ、今はケリンのことはどうでもいい。
「お前らも負けてばっかで悔しいだろ? ここらで一勝もぎ取ってやろうや」
全員の顔を見渡せばゲーマーとしてのプライドか、人間としての闘争本能か、それとも別の要因かは知らんがそれぞれ戦意を滾らせた表情で頷いて見せる……俺も奴の正体が一条だったとしても絶対に引かない、それがたとえ──
「俺は、俺らは奴に今度こそ勝つ! 勝ってぶっ倒して『ごめんなさい』させてやるんだ!」
──初恋の相手だったとしても。
▼▼▼▼▼▼▼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます