第108話街道の悪意
「お、結構な数が残っていますね」
ログインしてすぐに王都から出て少し進んだ先にある街道にて勝手に敗走した帝国軍兵士の死体が散乱しています。どうやら王国側は敵兵を弔うことはしたくなく、プレイヤーはなぜか時間が経っても消えない死体にどうしていいかわからないでいるようです。
「あ、そういえばもう喋っていいですよ」
「……っ?! あがっ?!」
王女様の口に手を突っ込み花子さんを取り出します。途端に咳き込み、涙を滲ませてその場に座り込み震える王女様の様子に『そこまで怖いのだろうか』と疑問に思いますが……こういった検証はユウさんに投げましょう。
「さてとそれじゃあとりあえず──」
とりあえず今はただ怯えるばかりの王女様を放っておいて、帝国がさらに王国に攻め込みたくなるような作業をしますかね? 上手くいくと良いのですが……。
「──死体を冒涜しますか」
「──」
目を見開き固まる王女様を尻目に帝国軍兵士の死体のうちいくつかを帝国軍という所属がわかるように兜などの一部を除いて丸裸にするため装備や服を剥いでいきます。
「『負け犬』……と」
裸に剥いた兵士の腹や背中に短刀で大きく『男娼』『王国万歳』『沈みゆく帝国』『ごめんなさい』と切り刻んだり、熱して焼入れていきましょう……死体を冒涜するのは初めての経験ですが大丈夫ですかね? そのまま糸で吊るしたり、槍で地面に突き刺しておきましょうか。
「お、女性ですが将軍職の死体があるじゃないですか」
これはラッキーですね、さっそく死体を丸裸にしていき『面汚し』『娼婦』『一回銅貨二枚』などと焼入れていきながら『超薬』スキルで即席で造り出した……なんかそれっぽい白い半固形の粘液で汚していきます。
「この別れた首はどうしましょうね?」
うーん……とりあえず歯を全部抜いておきますかね、それで顔にも白い粘液で汚していって……ちょっと殴りつけて痣でも付けたほうがそれっぽいですかね? 胴体と一緒に蹴り入れておきましょう。
「あとは原型が判るようにバラバラに解体して……」
適当にピックアップした死体とおそらく戦闘時にでもなったのであろう既にバラバラになった誰かの身体の一部を腕や脚など、人間の物とわかるように原型は残しつつ綺麗にブロック状に加工していき『豚の餌』と書いた木の箱に無造作に入れていきます。
「……なし」
「? なんです?」
おや? 怯えていたはずの王女様が何かを言っていますね? 花子さんの仕事が丁寧だったのかもうちゃんと喋れるようで安心ですね、悲鳴が聞けなかったらお仕置きでした。
「……なし…………この、人でなし……!!」
「? 人ですが?」
「あなたみたいな女を人間と認めないわ! 地獄に堕ちてしまいなさい!! この人でなし!!」
「……それは困りますね」
うーん? どうやらこの『遊び』は王女様のお気に召さなかったようで怒られてしまいましたね? まぁ私が楽しければそれでいいので止めはしませんが……地獄に堕ちるのだけは勘弁です。
「天国に居るでしょう母様に会えなくなってしまいます」
「っ! そ、そんな人並みの愛情を持っていてなんで……?!」
「? なんの関係が?」
確かに母には返しきれない恩や愛情を感じていましたし、今も会って抱き締めて欲しいくらいには大好きで……それこそ『愛情を持っている』と言えるのでしょう。
「彼らは母様ではありませんよ?」
「だから! 彼らにも母親が居ると……自分と同じなんだとなんでわからないのよ!」
「? ……??」
ちょっと王女様が何を言いたいのかわかりませんね……人間なんて一々命を奪う時に自分とその大事な人を思い浮かべて重ねるとは思えないのですが?
「王女様疲れているんですか? 彼らと私は違う生き物ですよ?」
「なんで……わからないのよ……」
「それにもう死んじゃってますし、何も感じませんよ」
「違う……違うのよ……そうじゃないの…………」
……あぁ、もしかして『普通』とか『一般論』的なことを王女様は言っているんですかね? うーん、それは未だに『勉強中』としか言えませんねぇ……現実の学校でも上手く溶け込んでいたつもりでしたが、ユウさんとマリアさん曰く『少しズレてる』との事でしたし……案外『多数派に迎合』することは簡単じゃありませんね。
「あれですよ、王族たるもの少数派の意見にも耳を傾けないと──」
「──あなたのは少数派の意見でも人間の意見でもないわよ!!」
「……そうですか?」
あれ、おかしいですね……自分ではどこか『普通』と違っておかしいという認識自体はありましたが、それは圧倒的少数派だからであって多数派から見ておかしいのだと……昔は同性愛者や自分の属する性別らしくない言動を取れば理不尽な非難に遭っていたという話でしたから、それと同じようなものだとばかり思っていたのですが?
「あなたは人じゃないわ、化け物よ……精神的に人外よ……」
「これでも上手く溶け込めるように頑張っているんですけどね……っと」
もう現時点ではどうしようもありませんし、少し王女様が落ち着くまで放っておきましょう。そのまま作業を再開して加工した兵士を別の兵士の口に詰め込みます。
「もう……やめてあげてよ……」
「帝国が本気にならないと意味ありませんからね、もう少しの辛抱ですよ」
「だからそうじゃないのよ……!!」
「えっと、そうですね?」
ダメですね、王女様が何を言いたいのか……何を伝えたいのかさっぱりわかりませんね? いつもなら経験やなんとなくの知識から『普通』はこういう時にこういう反応を示したり、こういう行動を取るというのが共感はできませんが理解できるのですが……死体を冒涜するのは初めての経験ですから、どういう『普通』の反応なのかわかりませんね。
「まぁ、後はこれらを街道沿いに並べるだけですからもう終わりますよ」
「うっ……うぅ……!」
帝国軍兵士で同士討ちをし合っているように見える構図……お互いにお互いの首を槍で貫いているオブジェや仲間の背後から剣を突き立てるオブジェなどを創り上げて街道沿いに並べていきます。
「さて、こんなものですかね?」
一通り冒涜した死体を並べ終えて、そのゴールが将軍職であろう女性に辿り着くようにしたまるで『青空展覧会』とでも言うべきそれを見て『これなら帝国も本気になりますね』と確信を抱く。
「さ、帝国を煽る声明でもあなたの名義で出しましょうかね?」
「この人でなし……」
「それはもう聞きましたよ?」
憔悴しきった様子の王女様を抱きかかえながら彼ら帝国を煽る文言を考案します……敵国を煽ったりは地球の歴史が分厚いので語彙だけは豊富ですからね、上手く組み合わせましょう。
《カルマ値が大幅に下降しました》
もはや半ば日常となったいつもの通知を聞き流して次はどうやって『遊び』を盛り上げようかと思案します。
▼▼▼▼▼▼▼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます