第107話北進十字連盟その3
「なーな、はーち、きゅーう……まだ死にませんか」
「……あぁ、ビックリだろ?」
淡々と仲間たちの首を落とす彼女に空恐ろしいものを感じながら刃を振るう……しかしながらいくら一撃必殺の攻撃であっても均等化からは逃れられることはできない。首を落としても動く仲間たちに珍しく驚く彼女に少しばかり溜飲を下げる。
「仲間ではなく自分を回復しているところを見るに……HPの共有でもしているんでしょうか?」
「……さぁ、どうだろうね?」
本当によく見ているし、観察した事柄から正解に辿り着く地頭の良さ……時間をかければかけるほどこちらの手の内がどんどん晒されていく。まだ掲示板にも載っていないスキルだというのに。
「シッ!」
「ハァッ!」
「ゼェイ!」
首を狙った横薙ぎは姿勢を低くして躱されるばかりか懐に潜り込まれ心臓を貫かれ、背後からの突きは後ろに飛びながら右の脇下で武器を挟み込み、左手に逆手に持った短刀で額を貫かれる。ならばと左右から同時に斬り掛かるが……跳躍して回避した後、予備を抜いた二刀流の短刀で交差する仲間二人の頭頂部を貫き地面に引き倒す。
「おや、やっと死んでくれたみたい──」
「──大丈夫だ、課金アイテムで生き返れる」
即死級のダメージを何度も立て続けに受けたことで共有化されたHPが底を尽き、全員が炎に包まれてリスポーンの態勢に入るが……一斉に課金アイテムが発動し油断した彼女に向けて全力で襲い掛かる。
「あぁ、そういえばありましたね」
相手の意表を衝く形での包囲殲滅を狙った攻撃だが……首を鋼糸で縛られ後ろに引き倒される。上段からの振り下ろしを躱し、振り切ったあとの持ち手を足場に喉を掻き切りながら跳躍……その時背後に爆薬をばら撒き、露払いをしながらと推進力を得て上空から襲う仲間を投擲で眉間を貫いて迎撃し、さらに糸を張り巡らせそれを足場にさらに跳躍……凄まじい量の爆薬か毒薬か、おそらく両方を落としていく。
「ヤバいヤバいヤバい!」
「退け!」
「あの野郎、王女まで巻き込むつもりか?!」
急いで退避するもあの量の爆薬ではあまり意味がなく、こちらの身体を叩きつけるかのような轟音に一拍遅れて周囲を更地にする勢いの爆発が巻き起こり、その爆風に巻き上げられて毒ガスが広範囲に飛散する……これ王都大丈夫かな?
「げほっごほっ……みんな大丈夫かい?」
「こっちはなんとか……でもリカルドさん、これは不味いですよ」
「確かにそうですね……」
私のスキル『悪の敵』によって状態異常などのデメリットが増えているところにあの悪名高きジェノサイド・ポイズン──通称ジェノ毒──だ……マジで死ねる。これはいよいよヤバいね。
「……仕方ない、最後の手段だ」
「……わかりました、先に神殿で待ってます」
「あぁ……」
最早ここに来て持久戦など無意味……ならば彼女を一撃で葬れる超火力の攻撃を避けられない圧倒的な速さで以て確実に当てるしか勝機はない。……不確定要素が多すぎるし自分に扱いきれるのかわからないけれど、やるしかない。外したらデメリットで終わってしまうが真っ直ぐに進むだけだと自分に言い聞かせる。
「ふぅ〜……『限界突破・ALL FOR ONE』!!」
「まだ手札が残っていましたか」
均等化されていた全員のステータス、スキルレベル、装備の強さ、強化付与などをホストスキルを発動していた僕へと一箇所に集める……仲間たちのステータスがHPでさえゼロになり消えていくのを眺めて、これで決められなかったら終わりだと覚悟を決めるが……ヤバい、デメリットも纏めたから凄い勢いでHPが減っていく。
「ジェノサイダー覚悟! 《闇夜乃煌剣》!!」
「っ?! はや──がふっ!!」
引き延ばされた時間軸ですら脳の処理が追い付かず、本当に移動したのかさえ定かではない速度で彼女の柔らかな胸へと圧倒的なSTRと強化付与によって超火力と化したスキルの一撃を叩き込み、彼女のHPが全損するのを確認する。
「……リカルドさん……でしたね、名前覚えました」
「……それは光栄だね」
あのハンネスたちですら中々名前を覚えてもらえて無かったし、彼女に認知されるのは酷く困難だからこれは本心だ……それにプレイヤーで彼女に勝てたのは僕が初めてじゃ──
「──大丈夫だ、課金アイテムで生き返れる……でしたね?」
「……そりゃないぜ」
最後の課金アイテムが盗まれているのを確認して、そういえば彼女は手癖も悪かったと思い出して脱力する。そのまま喉を通る短刀の感触に吐き気を覚えながら一旦僕の意識は暗転する。
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《レベルが上がりました》
《カルマ値が下降しました》
《スキルレベルが上がりました》
《従魔たちのレベルが上がりました》
《新しく三次元機動スキルを獲得しました》
《新しくふんばりスキルを獲得しました》
《新しく称号:動乱を獲得しました》
《新しく称号:パンデミックを獲得しました》
「中々に楽しめましたね」
一斉に鳴り響く通知を確認しながら先ほどの北進十字連盟……? のリカルドさん? たちとの戦いの余韻に浸ります。彼らは初見のスキルを使ったりしてこちらを楽しませてくれましたね。
「さてと、王女様を降ろしましょうか」
戦いの途中で糸でグルグルに縛り上げて上空へと飛ばしていた王女様を回収するべく思いっ切り引っ張り落下させ、地面スレスレで急停止させます。
「さて、無事で──はなさそうですね?」
「……っ!」
あらら……お漏らししちゃってますね? さすがに恐怖が過ぎたようで、こちらを涙目で睨みつけてきますね……ここまで敵意を王女様に持たれたのは久しぶりですね。
「後で着替えを用意しましょうか」
「……っ!」
未だに怒っている様子の王女様を脇に抱えてその場を離れます……この場に到着している騎士団の方々はこちらを怯える目で見てくるだけで全然襲ってこないのでつまらないですね。
「……あ、偽装が外れていたようですね」
なるほど、それで騎士団の方々も王都の人々も一様に動けないでいるのですね? 王女様もこれは怒って睨みつけているというより、恐怖のあまり失禁しながら目を離せず凝視している感じですか。
「……自分よりもカルマ値が低い方に会ったことないのでイマイチ実感がありませんね?」
そんなに怖いものなのだろうかと考えながら『偽装』スキルを再発動してから王都を出ます。……今日はもうログアウトですね。
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