第106話北進十字連盟その2
「これで五回目ですね?」
「ぐっ……!」
短刀で喉を貫かれながら吹き飛ばされ、石造りの建物の壁を突き破りながら倒れ込む……まだまだ命のストックはあるとはいえここまで一方的に殺され続けるとは思わなかったね。
「君のことは研究してきたつもりだったけど……本当に化け物だね」
「……」
ジェノラーたちが記録し保存していた彼女の動画を見たりして、できる限りの対策はしてきた……どうやらなんらかのスキルか称号かはわからないが敵が多くなるほどに速く、強くなることは理解できた。だが強化しても有効なほどの数の暴力など人材が足りるはずもなく、ならばとそこまで強化はされないけれど数の有利が効くギリギリの人数で挑むことにした……一対一などまず勝ち目がないからね。
「それでもこれかぁ……」
話している間に同じ課金アイテムで蘇る仲間たちを見てどうしようかと思案する……これまでに二回は全滅し、既に命のストックが切れるまで殺され尽くした仲間さえ居る……どうやら殺すことでも速くなるようなスキルまで持っているようで、僕たちをPKする度に速度が上がっていく。
「仕方ない……お前らァ! プランENDだァ!」
「『っ!』」
「……ぷ、ぷら?」
いきなり叫んだこちらを見てビックリする彼女は可愛くはあるが……これまで何度も殺されたからね、全然トキめかない。だが今はそれよりも──
「『──群体統合・ALL FOR ONE』!!」
「『──感覚接続・ALL FOR ONE』!!」
僕がホストスキルを発動し他の仲間たちが対になるゲストスキルを発動する……それによってお互いのステータス、スキルレベル、装備の強さ、強化付与などの全てが常に均等化され続けるようになる。
「『頑強決意・必要悪』!!」
「『精神感応・統率悪意』!!」
「『身体強化・暗黒騎士』!!」
『ALL FOR ONE』……ホストスキルを使える核となるリーダー格に対になるゲストスキルを使える仲間が最低五人は居ないと発動すらできないが非常に強力な効果を齎す……その際たるものが上級クラス固有の強化も再分配されるということ……この半月ほどで各陣営に少数ではあるが上級クラスを解放した者が現れこのスキルの有用性がさらに上がった。そして最もこのスキルと相性が良いのが──
「『──宣誓・私は自ら汚泥を被ろう』!!」
「……中々に楽しめそうですね?」
──この『宣誓』スキルだろう……強化はもちろんのこと、デメリットである継続ダメージすら均等化され強化時間が延びるために、その相性は最高と言える。こちらの準備が終わるまでお互いに付与や強化を掛け合いながら仲間たちがレーナさんの妨害を防いでいく……斬り掛かる端から吹き飛ばされ殺されていくが数十秒……いや数秒あれば構わない。
「『──宣誓・自ら選んだ道に言い訳などない』!!」
宣誓が終わると共に駆け抜け、仲間たちと共に斬り掛かる。こちらの振り下ろしを身体を横に向けるだけで避けながら背を倒し、僕の左側から斬り払った仲間の攻撃までも回避しながら肩越しに手を付き、こちらの振り下ろした長剣を地面と背で挟むようにして、向こう岸に渡るかのように後方回転してから左側の仲間の顎を蹴り上げ、右側から突きを放っていた仲間の顔面を蹴り飛ばし、そのまま足場として着地する……急ぎ振り切った長剣を振り上げるも手遅れだった、ご丁寧に顔面を踏んづけた仲間の首を踏み折っているね。
「……マジか」
思わずと言った様子で仲間の一人が呆然と呟くが気持ちは痛いほどにわかる……僕らの連携は完璧だったし逃げ場もないくらいに三方向からの斬撃の檻を作り、お互いに三秒とかからずに武器を振り切ったはずだった……。
「……おや? 死にませんね?」
「がっ! ぐふっ?!」
「やめろ!」
首を踏み折ってもダメージまでも均等化されているために死なない仲間の首を執拗に踏み続ける彼女に向かって袈裟斬りを放つが──長剣の柄を握る左手首を掴み引き寄せられ、彼女の美しい顔が間近に迫ったと思ったら向かいの建物の壁に埋まっていた……この息苦しさから見るに、どうやら喉仏を殴りつけられ吹き飛ばされたらしい。
「き、騎士団はまだ来ないのか?!」
「ひ、人が……!」
「王都のあちこちで貴族が襲われてて対応が遅れているらしい」
「クソッ! どうせ王太子と第二王子で足を引っ張りあってるんだろ?!」
……不味いな、戦っている間に関係ない民間人が避難してきた場所まで来ていたらしい。騎士団の到着を待っているようだがどうやらレーナさんは両派閥の要人を襲ったようだからね……お互いに邪魔し合って遅れるだろうし、ここに来るまでにまだ時間がかかるだろう。
「王女様は無事ですか?」
「……」
「無事のようですね、良かったです」
「……そういえばお荷物が居てそれだったね」
本当に嫌になる……こちらの猛攻を凌ぎながら王女の身柄を確保しようとする仲間たちを襲うという荒業をやってのける……いったい脳のCPUをいくつ積んでいるんだろうね彼女は?
「そういえば、なんで私を勧誘しようと思ったんですか?」
「……そんなの君がやり過ぎているからさ」
まさか話し掛けられるとは思わなかったけれど、彼女は戦闘を楽しむ傾向にあるからおかしくはないのかな? それで手元が疎かになると不機嫌になるようだからこちらは大変だけど。
「? ……??」
「……僕ら北進十字連盟の設立理念は必要悪と統率悪さ」
いくらこのゲームが運営自ら何をしても、何を為しても良いとお墨付きを貰っていたとしてもあまり派手にやり過ぎれば他のプレイヤーから反感を買うし、もしかしたらゲームの寿命を縮めるかも知れない……。
「だからこそ、僕たちのようなやらかしかねない混沌陣営を纏めて制御しようって話さ」
「へぇ〜……思ってたよりもつまらない理由でガッカリですね」
「……そうかい?」
そう言いながら艶やかで無邪気な笑顔から表情を無くし、短刀を持った手で髪を弄る。本当にこちらの志など欠片も興味が無く、また心底ガッカリしたというのが伝わってきて結構心にクルものがある……。
「……まぁ、あれさ。自分たちがゲームを楽しむために他人には犠牲になって我慢してもらう……混沌陣営らしいだろ?」
「なるほど、先ほどよりもマシに聞こえます」
「……そうかい?」
髪を弄るのをやめて少し思案した後に『おぉ……』という感じに彼女なりに納得した様子にこちらが納得できないでいる……けれど少しでもわかってもらえたならそれで良いかな。
「まぁ、つまり──」
「……?」
「──今度は君が奪われ我慢する番だってことさ! 『魂魄昇華・悪の敵』!!」
自身に掛かっているデメリットや状態異常の効果を一・五倍にする代わりに全ステータスを二倍にする最後の切り札であるスキルを発動して彼女に突撃する。それを見て焦るでもなく、さらに笑顔になる彼女に呆れながらもこちらも楽しくなってきた。
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