第105話北進十字連盟

「けほっ、こほっ……間に合いましたね」


影山さんの一回だけ自身に対する攻撃を無効化する『暗黒魔術』の《幻影》スキルが無かったら危ないところでしたね……ですがこういう自爆攻撃は状況を整えないと簡単に無効化されてしまうという勉強にもなりました。


「……結構な威力があったようですね?」


屋敷が半壊しているではありませんか……本当に切り札だったようですね? 自爆は予想外でしたが元より殺すつもりでしたので結果は変わりません。それよりもこの自爆攻撃に王女が巻き込まれていないか……。


「……無傷なのは驚きですが無事なようですね」


「……っ」


まさか王女も回避スキルを持っていたとかですかね? ですがレベル的に難しいと思いますし多分違うでしょう。


「先ほどの詩のやり取りといい、聞きたいのですがね?」


「……」


「……そうですか」


こちらを睨み付けてそっぽを向かれてしまいましたね……まぁ予想通りですので構いませんが、なんとなく気に入りませんね。ガヴァン侯爵ももっと王女を責め立てるかと思いきや全然つまらない言動をしてくれましたからね。


「まぁいいです次に行きますよ」


「……」


もう用のない廃墟から王女を伴って脱出して次を目指します。


▼▼▼▼▼▼▼


「……あと何人殺しておきましょうかね?」


初対面の時の印象とは違ってこの女性は異常で、化け物で、そして静かに狂っている……。優しい表情もできるし自身の母親に対して並々ならぬ愛情がありながら他人のは奪うしおよそ共感性というものが無い……。


「王女様はどう思います? もっと殺した方がいいと思いますか?」


「……っ」


そして人を人として見てはいないのでしょう、今も自分から喋れなくしておいて残酷な質問を投げかける……完全に玩具としか思われていません。彼女の一番大事な物を踏んだ私は赦されることはないのでしょう、彼女が織り成す凄惨な歌劇をただ観客として反応するだけ……まだ未熟な私では無反応を決め込むことすらできない……。


「えーと、この人で何人目でしたっけ?」


今も第二王子派閥のアレフ子爵の首を刎ねながら思案している……その様はまるで人を殺すことが日常の動作でなにも特別なことではないかのようで、自分の常識が間違っていたのかと不安になる。もう既に王太子派閥の要人を五人、第二王子派閥の要人を二人も殺してしまっている……。


「うーん、そろそろ帝国も持ち直しましたかね?」


「…………ぅあっ?!」


「どうしました?」


……もう訳がわからない、殺した子爵や兵士の身体をバラバラに解体してからそれをデタラメに縫い上げ『作品』を作り上げる彼女を見て吐いてしまう。


「……あぁ、手持ち無沙汰でしたので適当に『遊んで』たんですがダメでしたか」


なんでそんなに死体を軽く扱えるのかが理解できない……彼女にとっては死んでもなお辱める行為が、私たちの机を指で叩いたり、手でペンを回すようなものと同じだとでも言うの?


「仕方ないですね、そろそろ帰りますか」


「……っ」


「明日も学校ですしね」


やっと今日が終わると安堵する……彼女が通えるような学校があるなんて絶対に信じられないけれど、この地獄が終わるのなら嘘でも構わない。……ガヴァン侯爵が最期、『悪い魔女は火にくべられる』……必ず助けると言ってくれたのだけが今の私の心の拠り所……それがすり減るのを感じながら少しでも長持ちできるのなら良い。


「じゃあ王女様、帰ります──」


「──君がジェノサイダーかな?」


「? 誰です? あまりその呼び方は好きではないのですけれど」


……誰でしょう? 見覚えのない顔ですし彼女も知らないようですが……そもそもジェノサイダーとは誰のことでしょう? まさか彼女のことですか?


「僕かい? 僕は北進十字連盟のリカルドだよ」


「ほく……知らない名前ですね」


「そうなの? 結構大きくて有名なギルドだと思ってたんだけど……残念だなぁ」


リカルド様という名前らしい彼と彼女が話している間にもそこら中の建物の陰からゾロゾロと同じような服装の方々が現れる。


「本当に大きいようですね、そんなギルドの方がなんの用です?」


「いや、今日は君を勧誘しに来たんだ。僕らはこれでも数少ない混沌勢力のギルドで、お互いに利益があると思うんだ」


「あー、面倒臭いので遠慮しておきますね」


……こんな大きな混沌勢力から勧誘されるなんて、本当にヤバい人だったんだ……そしてそれを考えもせず断わるのは驚きです。


「……ちなみに僕らは賞金稼ぎもしていて、今すぐ君をPKすることだって──」


「──なんだ、『遊んで』ほしいなら最初から言ってくださいよ」


断わる彼女に実力行使を匂わせ、雲行きが怪しくなってきたと身体を竦めていると彼女は……レーナ様は躊躇なくリカルド様の首を刎ねました……こういう方でしたね、なぜ笑顔なのかは理解できませんが。


「それじゃあ王女様は少しここで……おや?」


「……っ!」


レーナ様がこちらに振り向き言葉をかけたと思ったら彼女のお腹から剣が生えて……もう何がなんだかわからないわ……。


「……首を落としたと思ったのですが?」


「知らないのかい? 即時蘇生の課金アイテムだよ」


「……へぇ」


そう言ってレーナ様から剣を引き抜き起き上がるリカルド様は薄く笑っており、まるでどうだと言わんばかりにレーナ様を見ますが……。


「……なんで笑っている?」


「? 何回でも『遊べる』からですが?」


「……お前ら構えろ、下手するとギルドマスターに怒られるぞ」


彼女がこの程度で動揺するはずもありませんね、ガヴァン侯爵の最期の自爆攻撃すら凌いでみせたのですから。


▼▼▼▼▼▼▼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る