第87話会いたくなかった奴

「ボス……領主様、これが今期の税収ですぜ……です」


元ムーンライト・ファミリーの団員だった部下から書類を渡されるが……なんだその変な語尾は?


「そろそろ慣れろ……」


「……すいやせん」


まぁ俺も最初の頃は慣れなかったけどな……思い出すだけで胃が痛くなる、あの皮だけは綺麗な忌々しい女……。


「クソっ! 俺が望んた出世はこんなんじゃなかったはずなのに──」


「──あら、そうなんですか?」


「くぁwせdrftgyふじこlp」


誰だよ、急に耳元で囁くんじゃねぇよ! ビックリするだろ?! ……待て、どこかで聞いたことのある声だぞ……? いや、嘘だろ……。


「は、ハハッ……誰かは知らんが、領主の後ろにいきなり立つのはダメだぞぉ?」


まったく、部下の悪戯には困ったもんだな……それだけ愛されて親しまれてる証拠だが、こういうのはいざと言う時に困るからな! ちゃんと注意しないと……。


「……忘れたんですか? あなたを領主にした人ですよ?」


「ダメだったか……」


いや、無駄な足掻きだとはわかってはいたさ……けどよ、仕方ないだろ? この化け物とは二度と会いたくなかったってのによ……。


「……まぁ、座れ」


「では、遠慮なく」


本当に遠慮がないな、自分だけじゃなくて縛った身分の高そうな女の子まで椅子に寝かせやがる……まったくいったいどこから……。


「……本題に入る前に一つ聞いていいか?」


「? なんですか?」


「その女の子はなんだ……?」


「この国の第一王女です」


……なんだって? 第一王女? ……本当になんで第一王女が縛られているんだよ?!


「待て待て待て、まったく意味がわからんのだが?!」


「? そうなんですか? まず第一というのは最初のという意味で……」


「違う違う! そういう意味ではなく、なぜここに王女が縛られているのかがわからんのだが?!」


「縛って連れてきたからですが?」


「……胃薬持ってこい」


「へ、へい!」


部下に例のブツを取りに行かせている間に目を閉じ、深呼吸をして精神統一を図る……コイツに真面目に取り合ってはダメだ、常識が通じねぇんだ……わかってるだろ?


「やっぱりエレンさん、胃が悪かったんですね? 大丈夫ですか?」


「……お陰様でな」


……嫌味なのか? 原因の十割にお前が関わっているんだがな?


「へい、ボス! 持ってきやした!」


「……助かる、丁度切らしてた」


「ふふ、なんだか危ない薬みたいですね?」


「……危ないのはてめぇの頭だよ(ボソッ」


部下が持ってきた胃薬を三錠ほど取り出して、一気に水と共に飲み干す。


「ふぅ〜……それで? 今度の用件はなんだ?」


「帝国に王女の身柄を引き渡すのでその仲介と、もし帝国が攻めてきたら協力してあげてください」


「…………なんだって?」


おかしいな、耳掃除は今朝したはずだが? 聞こえてはいけないものが聞こえた気がするぞ?


「ふふ、同じネタは面白みがないですよ」


「……そうだよな?」


聞き間違いではなかったか……これ、親分と前領主になんて説明すればいいんですかね?!


「……ちなみに話を詳しく聞いても?」


「そうですね、実は最初は王太子がたまたま通りがかったので殺そうとしたんですよ」


「……」


「でも、逃げられてしまいましてね? それに後からただ王太子を殺すだけじゃ面白くないな・・・・・・、と思いまして」


「…………」


「なのでもっと面白おかしくするために国王を殺して、王太子と第二王子の関係をギクシャクさせてから王女を攫ってきました」


「………………頭痛薬持ってこい」


「へ、へい!」


あ、頭痛ぇ〜……これどうすりゃいいんだよ……? 俺ちょっと前までは地方都市のギャングの幹部に昇進したばっかだったんだぜ? なんでこんなクソでかい案件ばっか舞い込んでくるんだよ?! ……あぁ、本当に頭が痛い。


「へい、ボス! 持ってきやした!」


「……助かる、丁度切らしてた」


「ふふ、なんだか危ない薬みたいですね?」


「……危ないのはてめぇの頭だよ(ボソッ」


部下が持ってきた頭痛薬を三錠ほど取り出して、一気に水と共に飲み干す。


「……それで? 具体的には?」


「早ければ早いほど助かりますね、その間王女の身柄はこちらで預かりますので」


「……そうしてくれ」


「それと帝国には皇帝じゃなくて、過激派の将軍に渡りを繋いでくださいね?」


「……そうしないとダメか?」


「ダメです」


「ダメか……」


ちくしょう……こんなん戦争不可避じゃねぇか! この街どころの騒ぎじゃなくなっちまうぞ?!


「それでは、私はこの辺で……あ、適当な部屋を借りますね?」


「……もう好きにしてくれ」


「ふふ、相変わらず太っ腹ですね」


「……部屋の家具とか持ってくなよ?」


「? 何を言ってるんですか? そんなことするわけないじゃないですか」


「…………そうかい」


その言葉を最後に憎いあん畜生は去っていく……だからアイツに会いたくなかったんだよ!!


「ボス、今のは……」


「……会いたくなかった奴」


「さいで……」


あぁ……できることならば全てを放り出して眠りにつきたいぜ……。


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