第82話メイドの意地その2

「ふふ……」


笑いを零しながらメイドさんが起き上がりますが……。


「……なにがおかしいんです?」


「私の殿下は素晴らしい御方だということです」


「? ……??」


ちょっと何を言いたいのかわかりませんね? まぁ、いいですけど……。


「『絶対忠義・ロイヤルガード』!!」


「……本当に面白くありませんね」


なぜあんなに小さい子どもに、そこまで……そこまでの愛情や信頼が注げるのでしょう? なぜ彼女は無理だと解って突っ込んでくるのでしょう? なぜ父親を慕っているのでしょう?


「怪訝な顔をしておられますねっ!」


「……」


突っ込んでくる彼女の腕を掴んで捻り折り、蹴り入れてから完全に利き腕を破壊する。


「ぐうぅっ……」


左手で押さえて蹲る彼女の顎を蹴り上げ、首に回し蹴りを食らわせて壁に吹き飛ばす。


「がっ?!」


彼女のポニーテールを掴んで引っ張り寄せ、横腹に膝蹴りを入れ、顔面を殴り、折った右腕に手刀を入れる。


「あ、ぁぁあぁぁぁぁああ!!!」


叫びを上げる口に指を突っ込み、下顎を引っ張るようにして地面に叩き付ける。


「あぐっ、ぶぁあっ?!」


そのまま彼女の頭に足を乗せて力を入れていく。


「ぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


メシメシと音を立て、石畳に亀裂を入れながら彼女の頭を沈めていく。


「どうですか? 諦めましたか?」


「うっ、ひぐぅ……」


喋れないようなので少し力を緩めましょう。


「はぁはぁ……誰が諦めるものですか」


「それは残念ですね、まぁあなたを殺したあとにでも王女を追いますけど」


「ふふ……」


王女がいた方角を向きながらそう言うとまた彼女が笑う、なにが可笑しいのでしょうね? 気になったので頭を蹴り飛ばして起き上がらせます。


「ぶっ?!」


「なにか可笑しい要素ありましたっけ?」


「ぐがっ……げほっ、えぇ、ありますとも」


私が首を傾げながら聞くと彼女は不敵に微笑みながら立ち上がる……まだ立てるんですねぇ。


「殿下は賢い方ですから、私とあなたの雰囲気からなにか察してくれたでしょう」


「……それがなにか?」


だからなんだと……まさか、そういうことですか?


「殿下ならあなたの連れ二人を言いくるめて逃げられます、今さらあなたが私を殺して追いかけたところで、無数にある王族専用の隠し通路で逃げ切れているはずです」


「つまり、時間稼ぎに成功したから笑っていたと?」


「えぇ、その通りです……ごほっ!」


……なんだ、やっぱりそうでしたか。どちらも目的は一緒のようです。


「そんなあなたに悪い知らせと良い知らせがあります、どちらから聞きたいですか?」


「…………良い知らせからお願いします」


ふふ、怪訝な顔をしていますね? 警戒していますがこのおふざけに付き合った方がさらに時間稼ぎできますから渋々といったところでしょうか?


「あなたの大好きな王女殿下は死にませんし、そもそも殺すつもりはありませんでした」


「今さらなにを……」


「さて、では悪い知らせです」


「……」


まぁ、私も逃げるだろうなとは思ってましたよ? 王族の隠し通路があることが発覚しましたし、なによりも話していて年齢の割に賢そうでしたもんね? あの歳で民主主義を理解できるのは凄いのではないのでしょうか? さらに言えばあなたは無表情ですけど、王女の事になると感情が表に出るようですからね、理知的な王女が気づかないはずがありません。


「……これ、なんだと思います?」


「……糸、ですか?」


黙って話を聞く彼女に指に巻き付けた鋼糸を見せる。


「正解です、ではこれはどこに繋がっていると思いますか?」


「どこって……まさか?!」


気付いたようですね? なにも対策せず目標から離れるわけないじゃないですか、ユウさんは微妙に頼りないですし、マリアさんはまだ信用しきれませんし……そしてなによりもこの方が色々と便利です。


「そうです、これは王女様にくっ付いています」


「あ、あぁ……」


段々と理解してきたようですね? この糸が王女様にくっ付いている意味が。


「王女様は逃げているつもりでその実、私を王城まで案内してくれているんですよ……時間稼ぎお疲れ様です」


「そんな……」


私も早く逃げないかなぁって心配していたんですよ? まぁ、途中から糸が動いたのがわかったので安心しましたが……。


「……残念でしたね、王女様は自身の行動によって、慕っていた父親を失うのです」


「あ、あぁ……ああぁぁあぁぁぁぁああ!!!」


泣き叫びながら突っ込んでくる彼女の腹を思いっ切り殴りつけ吹き飛ばす。


「がはっ! 」


「さて、どうします? まだ時間稼ぎしますか?」


「はぁはぁ……《宣誓・私は絶対の──がっ?!」


「させませんよ……」


時間稼ぎが無駄になったと見てイチかバチかの賭けに出ようとしましたね? そんな事はさせませんよ?


「《宣誓・私──ぐふっ?!」


「……諦めが悪いですよ」


もうちょっとですかね? 王女様はまだ王城に着きませんか……できるならば王城についてそのまま一直線に王様のところまで行ってくれませんかね?


「《私は絶対の忠義を──ぶぅっ?!!」


「あと……どれくらいですかね?」


隠し通路だけあって入り組んでいるようですね? 直線距離だと離れたりしているところもありますし、同じところを何回か回ってもいますね?


「《──捧げる者》!!」


「……おや?」


宣誓スキルは途中で邪魔されても詠唱を続けられるんですかね? 新しい発見ですね。


「《宣誓・私は無償の──あっ?!」


いい加減鬱陶しいので彼女の足首に鋼糸を括りつけて壁まで引っ張ってぶつけます。


「ひぐぅっ!」


もう大分ボロボロじゃないですか、まだ諦めないんですか?


「うっ、ぐすっ……《宣誓・私は無償の──がはっ?!」


「……」


なぜ、こうも彼女は母親でもない方に愛されているのでしょう? なぜ彼女は父親を慕っているのでしょう? なぜ目の前のメイドさんが……母様に見えるのでしょう? ……………………なんでしょう? なんだかとっても───────


「がっ?!」


「……」


───────イライラします。

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