第83話メイドの意地その3

「げほっ、がはっ……」


「まだ見捨てないんですか?」


もはやボロボロで起き上がることすら難しい彼女に問いかける。


「何度も……同じことを、言わせ……ないで」


「……そうですか」


なにが……王女のなにがそんなに、みんなに愛され認められるのでしょう? 母親でもないのにここまでの味方ができるのでしょう?


「…………げほっ、《宣誓・私は無償の愛情を──ぐぼおっ?!」


「……往生際が悪いですよ、そろそろ死ぬんじゃありませんか?」


彼女の足首に巻き付けた鋼糸を操作し、片足だけを引っ張りあげぶら下げる。……メイド服のスカートがめくれてしまっていますが、ここにユウさんは居ませんし大丈夫でしょう。


「げほっ、ごほっ……おや、心配……して、くれるんですか? 優し、いんですぶぇっ?!」


「聞きたいのは降参ですよ?」


…………この人は母様ではありません、この方の愛情は私ではなく王女に向いています、断じて母様ではありません、あってはなりません。


「うぅ、……《私は無償の愛情を注ぐ──」


「……いい加減にしつこいです」


「──がぁっ?!」


無防備に晒された彼女のお腹に正拳突きを食らわせて、そのまま指をたてて抉り込む。


「ぁあぁああぁあぁぁあ!!!!!」


「このままお腹を突き破りますよ?」


……本当にイライラさせてくれる方ですね? まだ諦めていないようです。


「ぐぅっ!! 《宣誓・私、は……無償の、愛情を……注ぐ者》!!!!!」


「……本当に最後までしましたか」


====================


重要NPC

名前:アナベラ・ヴェルディLv.45《+30》

カルマ値:15《中立》

クラス:ロイヤルメイドセカンドクラス:ガードナーメイドサードクラス:ロイヤルガード

状態:

献身特定の相手に尽くす毎にHP継続回復:最大2%/5s

メイドの嗜み《INT上昇:特大・AGI上昇:特大》

メイドの矜恃STR上昇:極大・DEX上昇:特大

ロイヤルガード《VIT上昇:特大・最大HP上昇:大》

宣誓:絶対忠愛INT上昇:極大・DEX上昇:極大・常時HP減少:3%/1s

備考

ヴェルディ侯爵家・次女

ロイヤルメイド・第一王女専属メイド

無償の愛


====================


「せいっ!」


スカートの下に下着と同じ黒色でわかりにくく隠していた短剣でこちらを攻撃してきますので裏拳で弾き、顔面を蹴り上げる。


「ぶっ?!」


「……」


それでも諦めず、自身の足首に巻き付いている糸を切り離し、魔術を行使してくる。


「がはっ、げほっ……《白光核激》!!」


「……」


おそらく『光輝魔術』の終盤で習得できるものを《暗黒粘壁》と《光輝硬壁》で防ぎます。……こんなところでこんな大規模な魔術をぶっ放していいんですかね? それとも騒ぎを起こして応援を呼ぶためとかですかね?


「……」


まだ続く……というか連発してますね、これは。さらに言えばこの魔術の光を目くらましに壁にぶつけこちらに軌道を変えながらナイフが飛んできますね、やっぱりメイドさんだけあって器用なんですかね?


「……」


魔術を防ぎながら飛んでくるナイフを裏拳や短刀、鋼糸で弾き、撃ち落とし、防ぎ、絡めとって、時に躱していきます。


「……そろそろHPがヤバいのでは──」


「ふっ!」


そろそろかなというところで魔術の連射が止み、壁を解いたところで、魔術の残光を隠れ蓑に正面から突撃してきましたね? 依然としてナイフが飛んできていたので不意を突けると思ったのでしょうか?


「……これも、ダメですか」


「万策尽きましたか?」


張り巡らせた鋼糸を一気に展開し、彼女を捕らえる。駆け抜け、こちらに短剣を突き出した体勢のまま全身を糸で縛り付けられ動けなくします。


「そろそろ死にますね?」


「そうですね……」


「最後に言い残すことは?」


未だにこちらに短剣を突き刺そうと踠く彼女の顔に近付きます……遺言くらいは聞いてあげましょう。


「……では、殿下に……元気に、健やかっ、げほっ……に成長なされてください、と」


「そうですか、わかりま──」


「ふぐぅぅぅうううぅうう!!!!」


「っ?!」


彼女の遺言を聞き届けたところで首に噛み付かれる……さすがにこれは予想外ですね!!


「本当に! 往生際が! 悪いですよ!」


「ぐっ! がぁぅ! ふうぅ!!」


何度も何度も彼女の顔を殴りつける。頭は割れて、目は潰れ、鼻血はもちろんのこと口すら切って……もはや血で真っ赤に染まり、それ以外のところも痣と腫れ上がったところばかりで肌色の部分は圧倒的に少ない。


「うっ! がうっ?! ぐっ、ふぐぅぅぅうううぅうう!!!!」


「この、まだっ?!」


もはや美人だった面影すらなくなった彼女をさらに殴りつけようとして──


「──」


「……本当に最期まで足掻きましたね」


死にましたか……本当にビックリしましたね、アレクセイさんやロノウェさんすらここまでみっともなく抵抗はしませんでしたよ……アレクセイさんは最期に潔く敗けを認め、ロノウェさんも命が尽きる瞬間まで抗おうとはせず、最期には諦観と共に海に沈んだというのに。


「……急所だったからか、HPが半分近く削られてますね」


本当に、真の意味で……最期まで一滴も残さずその命を王女様の為に使い切りましたね……本当になぜ、私は──


「──彼女の首を落とさなかったのでしょう?」


本当になぜ…………彼女は母様ではないというのに……首を落とした方が早かったというのに……宣誓スキルを使われたのならそれ以上の時間稼ぎはできなかったというのになぜ…………。


「んー、わかりませんね……」


…………ただ、イライラは少し治まったようです。


「……王女様を追いかけますか」


遺言も届けないといけませんしね……。


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