第60話第一回公式イベント・五日目

「……足元が濡れますね」


「ぐふっ……」


最後の一人の喉を短刀で刺し貫きながらボヤく……この雪原地帯は降雪によって視界が遮られているために奇襲が比較的しやすいですが足場が悪いのが難点ですね。


「さて、そろそろ来ませんかね? 」


最後に表示された位置と距離からすると明日には中間の雪山フィールドで宣戦布告してきたハン……ネスさんたちのパーティーと会敵しそうですが…………どうなんでしょう?


「私からも急いで向かいます​──あ、ユウさん」


「げぇ! 」


私からも向かおうかと足を踏み出したところでユウさんとバッタリ遭遇しましたね……なぜ地面から出てきたのでしょうこの人は?


「……というよりなんですか? そのげぇ! という鳴き声は? 」


「あ、いや……そのですね……? 」


そそくさと地上に出ながらモゴモゴと言い訳めいたことを言おうとするので先手を打ちます。


「酷いじゃないですか、友達に何も言わず居なくなるなんて…………」


「っ?! あ、あれは同じ検証班でリア友がですね! いや、その……本当にごめんなさい!! 」


もちろんこの傷付いたような仕草は演技ですが…………本当に一々大げさで面白い人ですね?


「私傷付いたんですよ? 」


「え? レーナさんに限ってそんなこ​──」


「​──ポイント寄越しなさい! 」


「うひゃあ!! 」


また余計な一言を言いかけたユウさんに鉄片入りの雪玉を思いっ切り投擲しますが間一髪で躱されましたね、ユウさんのくせに生意気な…………。


「ま、待って! 謝りますから落ち着きましょう?! レーナさん!! 」


「問答無用ですよ! 」


どんどん雪玉を投げていきます……何気にユウさんカルマ値高いんですよね、それこそ100に近いくらいです。


「クッソ! 『オタク魔術』…………《空気》!! 」


「?! 」


ユウさんが……消えた?! いや、違いますね。よく見ればそこに居ますが文字通り空気と同化して視認しづらいどころか攻撃もすり抜けていきますね…………そういえば彼のスキルは謎のラインナップでしたね、完全に初見でなおかつ名前で効果を予測できないので厄介です。…………あれ、ユウさんってそんなに弱くない? いや、初見限定で強くなるが正しいですか。


「お願いですレーナさん! 見逃して! 」


「ダメです」


「ちくせう! 『DQN魔術』……《コンビニ》!! 」


………………は? コンビニですか? 一応警戒しますが何も起こら……いや、ステータスに状態異常アイコンが追加されてますね、これは……毒でもなくコンビニの絵? のアイコンですね。…………………………まったく効果がわかりません。


「なんですかこれ​──っ?!! 」


おっと危ないですね……なんですか、いきなり車のプ〇ウスが猛スピードで突っ込んできますよ。


「よっしゃ! レア引きキタコレ!! 」


「……」


どうやら効果はこれだけではないようですが、厄介なのを引いてしまったようですね? 今も猛スピードでプ〇ウスが突っ込んできています。それを横に飛び、ボンネットを駆け抜け、《溶断》で切り裂きながら凌いでユウさんに近づいていきます。


「この人嘘でしょ?! なんで猛スピードで突っ込んでくる車に対処できるの?! 」


「ユウさん覚悟はいいですね? 」


「無理ですよ!? 《草》《クソリプ》」


む? 雪の下から凄い勢いで草が伸びて絡み付いてきますね? しかもどこからか全身タイツの集団が​──


「覚悟っていうのは自分がするものであって他人に強制するものではないと思うのですが? 」

「俺、これでもオタクなんだけどみんなには見えないってよく言われる」

「意識失って気が付いたらクラスの不良共が俺にビビってた」

「覚悟を決められない私はダメな人間だって言いたいんですか?! 」


​──なんですか? これ…………めっちゃ人の神経逆撫でする汚い笑い声と共にウザイ集団に囲まれたんですけど?


「…………ユウさん? 」


「ヒッ!? 」


人の顔見てビビることはないでしょう? これはあなたの選択の結果ですよ? 身体に纒わり付く草を《発火》で除去しながら白タイツの集団の首を飛ばしていきつつユウさんに毒針を投擲していく。


「《世間との壁》! 」


……………………投擲がめっちゃ弾かれますね? このままだと中々近付けな​──


「《圧倒的成長力》! 《法定速度違反》! 《圧倒的成長力》! 《ハイエンチャント・アクセラレータ》! 《圧倒的成長力》! 《エンチャント・アクセラレータ》! 」


「​──へぇ? 」


凄いスピードで一直線に逃げられましたね? ……………………つまり私はユウさんにいっぱい食わされて取り逃したことになります。


「…………なんだ、ユウさん充分『遊べる』じゃないですか」


しかもなにやら置き土産として色んな妨害がばら撒かれてますので容易に進めません、これは中々イラッと来るのもありますがいいでしょう、最終日までに絶対にユウさんをまた見つけて『遊び』ます。


「ふふ、楽しいですね」


突っ込んでくる車を《溶断》で真っ二つに切断し、全身白タイツの集団の首を落として、草を焼き払い、生意気な少女の顎を打ち抜いて、壁を迂回して雪山を目指します。


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