第16話暗躍その4

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「親分早くしてくだせぇ! 戦線が持ちません! 」


「わかっている! あとこれだけでいい! 」


クソっ! 今まで順調だったのにどうしてこうなる?! 何が起きてるんだ?!

クソ親父にムーンライト・ファミリーを破門されてから虎視眈々と復讐の機会を狙ってきた。

油断も隙も無かったはずだ、慎重に事を運び少しずつバレないようにムーンライト・ファミリーのシマを削り、バレない程度に組員を拉致して情報を吐かせ、時には買収し、幹部の1人をこちらの息のかかった奴にすることもできた!

最近街で起きた事件の影響でさらに勢力を拡大することもできた、後は今までの行いを続けながら小競り合いをし、機を見て本部に強襲を仕掛けるだけだったのに!! どうして上手くいかない?!!


「よし! 逃げるぞ! 」


敵がムーンライトの者か、それともさじ加減を間違えて領主の尖兵が来たのか。そのどっちかはわからんが、向こうに渡ってはまずい帳簿や資料と幾つかの貴金属を手にし、側近に用意ができたと振り向いたところで​──


「どちらに行かれるのですか? 」


​──さっきまですぐ側に居た側近の首を片手に女が隣に立っていた。


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《レベルが上がりました》

《スキルポイントを獲得しました》

《カルマ値が下降しました》

《既存のスキルのレベルが上がりました》

《レベルが一定に達したスキルがあります進化が可能です》

《称号:人種キラーを獲得しました》

《山田さんのレベルが上がりました》

《影山さんのレベルが上がりました》

《麻布さんのレベルが上がりました》

《三田さんのレベルが上がりました》

《井上さんのレベルが上がりました》


これでヤガン・ファミリーの本部は終わりですね、後は残った日数で支部を潰していけば完全に終わりですね。


「皆さんもお疲れ様です、特に麻布さんと井上さんはそれとなく動作の補助大変助かりました、ありがとう存じます」


『​──! 』

『ヴゥ! 』

『……! (バッサバッサ! )』

『がァ! 』

『イィ! 』


「ふふ、元気なようでなによりです」


さてとこの館を探索して良い物がないか物色してから帰りましょうか、それが終わったら今日はもうログアウトですね。


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さて、あれから約束の一週間が経ちましたね、その間に私はヤガン・ファミリーを完膚なきまでに潰しておきました。名簿にあった幹部から上は全員首を塩漬けにしてありますし、これなら文句は出ないでしょう。


「お邪魔しまーす」


そのまま一週間前にも立ち寄った路地裏の酒場に入っていきますが…………皆さんこちらをすごい勢いで二度見しましたね。


「お前さんか……こっちだ、ついてこい」


「わかりました」


この前の人ですね、言われたとおりに素直についていきます。


まず裏口から外に出て、細い路地に入り途中の建物の中に入り、2階から洗濯物を干すための立てかけられた道を通り反対側の建物の屋上へ渡り、一旦そこからまた外に出て、回り込んでからまた同じ建物に入り、2階に上がったと思ったら地下に下り、そのまま地下通路を通っていくと扉が現れました。


「……随分と入り組んでいますね? 」


「やましいことがあるからな」


そのまま扉を開いていき中へ入ります、そのまま連れられて奥に進み一際豪華な一室の前へ着きます。


「親父、エレンだ! 例の女を連れてきた」


「…………入れ」


この人エレンさんというのですね、何気に初めて知りました。

エレンさんが中へ声をかけると渋い声が入るように促します。それに従いエレンさんが扉を開けて中に入っていきます。それに続き私も入室します。


「……その女がか」


「えぇ、そうです」


値踏みするように見られますが、こういう視線は嫌いじゃありません。少なくとも私の価値を見ようとしてくれている証拠ですからね。


「ふん、幹部に成り立てだからビビったんだろ? お前には気概というものが足りない」


「……そうかい」


なにやら喧嘩腰の方がいますが仕方ありませんね、ヤクザな人は面子が大事とどこかで聞いたことがあります。貴族と一緒で常に見栄をはり、隙を見せた相手にマウントを取らないと死んでしまう生き物なのです。


「女1人に親父や俺たちの手を煩わせやがって、なんなら俺がこの女を始末して​──」


「​──よせ」


「……親父? 」


おや? なにやら不穏な空気になりかけたところで親分さんが止めましたね、まぁ止めなかったらあの人の首は胴体と泣き別れしてましたけど。


「その女に手を出すな、あれは人間じゃない」


「……親父が言うのであれば従いましょう」


そう言ってこちらを睨みつけるに留めます。どうやらここの親父さんは部下から大変慕われているようですね。


「いつまで立っているんだ、そこに座りなさい。話を聞こう」


「それでは失礼して」


やはりソファーはふかふかですね。そのまま私が座ったのを合図に綺麗な女性が紅茶とお茶菓子を用意して去っていきます。教育が行き届いているようで感心ですね。


「それで話とは? 」


「エレンさんから聞いてないのですか? 」


「お前さんの口から聞きたい」


なるほど、道理ですね。本人の口から聞かないと後からシラを切られるだけですから。


「私が指名手配されてるのはもうご存知だとは思いますが、そのせいで不自由を被っているんですよ。街中を堂々と歩けないのは別に構わないんですけど施設を利用できないのは面倒臭いんです」


「それでワシらに領主になれ、と? 」


「えぇ、そうです」


「お前さんの要求には無理がある。なると言って簡単になれるものではないし、第一なれたとしても次は国から討伐軍が来るだけじゃ。そこらへんはどうする? 」


ちゃんと考えているようで安心ですね、ここですぐさま頷くようでは用はありません。


「まず領主の子供と妻を全員殺します。その後にエレンさんあたりを隠し子だなんだと理由をつけて後継者に据えます。要は正統性があればいいのですから、家督を簒奪してしまえばよいのです」


「そう上手くいくとは思えんがな? 」


「大丈夫です、実行は全てこちらでやります。あなた方には物資の提供と成功したあとの諸々の処理、そして領主としての便宜を図ってくれればそれでいいです。万が一失敗した場合は素知らぬ顔をしてればそれで構いません」


「ふむぅ……」


別に失敗してもいいんですよねぇ〜、国の討伐軍が来ても次はそれを鑑賞するか飛び込んで引っ掻き回すだけですし、なんなら討伐軍の司令官だけをひたすら殺し続けるのも面白そうですね?


「……お前さんを放っておくとなにやらさらに不味い事態になる気がするのぉ。わかった、協力しようではないか」


「そうですか? ありがとう存じます」


協力を無事に得ることができましたね、なによりです。


「……その前にヤガン・ファミリーを潰したと言ったな? そこのボスの首はあるのか? 」


「? これですか? 」


そう言って私はヤガンの首の塩漬けをテーブルの上に乗せます。死んだ時と同様に間抜けな表情をしています、こんな物がどうしたんでしょうね?


「…………」


「まさか本当に……」


「お腹痛い、胃薬どこだっけ? 」


周りがざわめく中エレンさんは胃薬を探しています、大丈夫でしょうか? 胃が悪かったのですね、そうは見えませんでしたが…………。


「…………バカ息子め」


「親父……」


「確かにヤガンの首だ。報酬の前払いも貰ったことだし協力を約束しよう」


「本当ですか? それはなによりです」


「この後はどうするね? 」


「この後一旦休みます、明日細かい準備を終わらせて明後日にはもう決行です」


「随分と性急だな、あいわかった」


「では、私はこれで」


「エレン、送って行きなさい」


「…………はい」


そのままエレンさんに来た道を案内され酒場で別れてから宿屋に帰還し、ログアウトです。

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