第23話 誠・露天風呂に入る

 すったもんだした結果、まこと穂乃花ほのかは温泉に入ることにした。


 誠がハナコさんに、それじゃ、温泉に、というと・・。

言うまでも無く、気がつくと脱衣場に居た。


 いったいこの縄文時代はどうなっているのだろうか?

非常識にも程がある。

俺等の時代の教科書に載っている縄文時代はなんなんだろう?

歴史学者をここに呼んで説教をしたくなる。


 そう思い、歴史学者が呼ばれて、このに来たことを想像する。

思わず笑いころげた。


 歴史学者、この世界を見た途端に、絶対にアゴを外すよね。

そして急遽、徹夜をしてでも論文を書くだろう。

目にくまを作ってまで。

でも書き上がったとたんに、ふと気がつくんじゃないかな?

現代に戻って、もし学会で発表したら?

誰も信じてはくれない、と。

そうすると猛烈な勢いで書いた論文はゴミ箱の中にポイ。

ご愁傷様ごしゅうしょうさまとなる。


 ああ、面白かった。

・・・・でも、こんなことで笑い転げるのは俺だけだろうな・・。

そう思い、溜息ためいきをついた。


 それにしても、あの客室から突然にここに転送・・。

転送というのかな、これ・・。

まあ、TVのスタートレックに出てくる、あの転送だよね、これ。

客室が突然脱衣場だついじょうに切り替わるのは慣れそうにない。


 それで・・目の前の脱衣室は・・。

白木の板敷きが20畳ほど。

壁はない、天井もない。

イメージでいうと大自然の草原の中に、簀の子が20畳くらいに敷かれている。

そういう感じだ。

360°壁はない、上に天井もない。

大自然のまっただ中だ。

風も吹いており、顔をなでていく。


 空には三日月が顔を出している。

とはいえ、山間のため辺りは真っ暗だ。

ただし、脱衣場と浴槽は不思議な明かりで包まれている。

明るすぎず、暗すぎず・・。

そして落ち着いた色の照明だ。


 この場所だが・・

目の前は湖だ。

ただ、部屋から見た湖ではない。

半径100m位はあるのではないだろうか?

池にしては大きい、湖というべきだろう。

そして対岸は木が垣根のように林立している。

その先は小山だ。

月明かりで薄らとシルエットが見える。

もう少し月が満ちてくれば、綺麗な山脈が見えるだろう。


 浴槽だが・・。

無いところを見ると、この湖が浴槽だろう、たぶん。

その証拠に湯気がたっている。

湖岸は綺麗に玉砂利が敷かれているようだ。

湖の縁から此方こちら側に2m位の幅で。

それも白くて丸い石だ。

よく神社などで敷かれている玉砂利に見える。


 ぐるりと周りを見回すと、やはり林に囲まれている。

何か山で遭難して、湖みたいな温泉に辿り着いた気分だ。


 とりあえず湖に入ってみようと服を脱いで床に揃えた置いた。

すると服が消える。

もう、驚かないよ! と、心の中で叫ぶ。

でも、心配になり・・


 「服を出して。」


 そう言うと服がでてきた。

それもクリーニングをしたようにキチンとたたまれている。

しゃがんで見ると、本当にクリーニングされているようだ。

驚きを隠せない。

こんな短時間でクリーニングがしてあるなんて。


 そういえば・・。

そう思い、服をくしゃくしゃにして置いてみる。

その場を少し離れると服が消えた。


 「服を出して。」


 服が出てきた。

やはり綺麗にたたまれて皺一つない

感激した誠だった。

よし、と、思い、その場を離れた。

目の片隅に見えていた服が消えた。


 湯船(?)に入ろうと、湖に向う。

湖岸の玉砂利が丸くて足の裏側をくすぐる。

もしかして、足つぼを刺激するために敷設してあるのではなかろうか?

そう思った。

湖の縁で、湖を除いてみる。


 湖岸から水面まで10cm位というところか・・。

確かに湯船としては丁度よい水位というべきか?

いや水位ではなく湯位というのかな? と、考えてしまった。


 湖岸は長方形にカットされた石が綺麗に並べられている。

脱衣場からフラットで、足で踏みつけるとすべすべしている。

気をつけないと、お湯で滑るかもしれない・・。


 湖面は薄く光っている。

底は正方形の石が綺麗に敷き詰められている。

真っ平らなようだ。

そして、その石が光っている。


 湯船である湖を例えるなら・・。

よく温泉にある石造りの湯船だ。

ただサイズが湖版だということだ。

非常識すぎるけど。


 「これが俺専用ね・・・。」

そう思わず呟いてしまった。


 足をお湯につけてみる。

丁度よい温度だ。


 ゆっくりと底まで足をいれる。

そして下半身からゆっくりと湯に入ってみた。

座ってみると、ちょうど首の辺りまでの深さだ。


 湯の温度といい、この深さといい、これはいいと誠は満足した。

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