第21話 部屋の壁とアイスクリーム
誠は部屋の中央にある机に向かい座った。
机はいうまでもなく
純和風の造りである。
座布団はなく、
座ってみると、不思議と座り心地が良い。
縄に見えるが、なんというか、そう、低反発のクッションようだ。
毎度のことながら驚かされる。
穂乃花は誠の横に座っている。
二人でゆっくりと湖の景色を見るためだ。
肩が触れあう位置に座り、二人で湖を見ていた。
しばらくすると、さすがに綺麗な景色でも、すこし手持ちぶさたになってきた。
「TVが無いのが残念だね。」
「ええ、暇を
『TVとはなんですか?』
「「わっ!」」
突然の声に、誠と穂乃花は悲鳴をあげた。
ニャン吉は、飛び上がり尻尾がタヌキになる。
『あ、失礼しました。 驚かれました?』
「あ、ああ・・、なかなか、このシチュエーションには慣れなくて・・。」
『しちゅえーしょん? なんですか、それは?』
「いや、気にしないでくれ。」
『分かりました・・・。』
心臓に手をあてて、穂乃花がすこし裏返った声で謎の声に問いかける。
「あの・・、貴方は、また案内さんですか?」
『また?』
「え、ええ・・、海岸で同じような声の案内さんがいたのですが?」
『ああ、海岸の浜辺を案内するための声ですね。』
「え、ということは貴方は違うの?」
『ええ、私はこの旅館の総合案内です。』
「えっと、では何と呼べば?」
『ハナコと呼んで下さい。』
これには誠が
「花子?!」
『はい、ハナコです。』
「それはまた古風な名前だね。」
『そうですか? よくある総合案内の名前ですが?』
「そうなんだ・・。」
『はい。』
『ところで、てれび とは何ですか?』
「ああ、それは映画とか、ドラマなどが見られるやつなんだけど?」
『えいが? どらま?』
「えっと、まあ、これも気にしないでくれ。」
『はあ、わかりました。』
「ところでさ、そこの窓、開けられないのかな?」
『ああ、あの壁ですか?』
「壁になるのかな・・、湖が見えるんだけど。」
『ええ、壁なんですが、現在は透明にして外を見せています。』
「そうなの? 透明以外にできるの?」
『ええ、このように・・』
そういうと窓が消えて、
「えっ! すごい!」
『はぁ・・、珍しいものではないのですが・・。』
「そうなんだ・・。」
穂乃花はその会話を聞いていて、思いついたことをハナコに尋ねる。
『ねぇ、ハナコさん、それじゃあ天井はどうなるの?』
「空を見ることができますよ。」
『え! そうなの?』
「はい。見てみますか?」
『ええ、見せて!』
すると天井が突然透明になり、まるで井戸の底から見ているような青空が見えた。
「なあ、ハナコさん、部屋の四方の壁も透明にできるの?」
『ええ、できますが?』
「ちょっと、やってみて。」
そう言った瞬間、部屋は床以外透明となり、360°、および天井までもが透明になった。
本当に何もないかのようだ。
そう、穂乃花と二人、あ、わすれていた一匹・・
「ニャ!」
あ、悪いニャン吉、わざと間違えた。
あ! 待った! 待ちなさい、ニャン吉!
爪を出して、こちらを見るのは止めなさい!
俺が悪かった、誠はそう心で思いニャン吉を見た。
ニャン吉は、ゆっくりと爪を引っ込めた。
本当に猫か、お前は・・・。
猫又の方がまだ可愛げがあるのではなかろうか?
いかん、いかん、ニャン吉のために今の状態を説明するのを忘れた。
要は、今、湖の畔に床だけがある。
その床の上に、穂乃花と俺、そしてオマケのニャン吉だけがいるだけとなった。
「・・・、あのハナコさん?」
『はい。』
「あ、居るんだ。」
『え、ええ、居りますが?』
「俺達、野原に放り出されている?」
『いいえ、部屋の中におりますが?』
「そうなんだ・・。」
『自然の風を通すことや、外の音を出すこともできますが?』
「え、じゃあ、風だけ通してみて?」
そういうと、本当に屋外の冷たい風が、そよそよと吹き寄せる。
それも自然に吹く風そのものだ。
その風に穂乃花が反応した。
「少し寒い・・。」
『あ、それでは風の温度を変えますね。』
すると風がちょうどよい温度で吹いてくる。
まるで春のうららかな日のようだ。
ただ、周りの音が聞こえないので、すごい違和感満載だ。
「えっと、ハナコさん、周りの音もききたいんだけど・・。」
『わかりました。』
直ぐに湖の波の音、それと遠くで
それと、よく耳をすますと、
「これは凄い!」
『はぁ・・、そうですか?』
「うん、凄いよ、いいな、これ。」
『何か他に用事はありますか?』
「いや、このま・」
「アイスクリームが食べたい!!」
誠の言葉を遮って、穂乃花が突然、雄叫びをあげた。
『あいすくりーむ? なんですか、それ?』
「えっ! 無いの?」
『はい、そのようなものは聞いたことがありません。』
誠は自分の会話を穂乃花に中断され、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが、再起動に成功した。
「いや、穂乃花、多分言い方を変えた方がいい。」
「え?」
「ハナコさん、牛の牛乳を冷やしてかき混ぜると固形物ができるから、それをお願い。」
『はぁ・・変な注文ですね、わかりました。』
そういうと机の上に陶器の皿が突然現れた。
その皿には、確かにアイスクリームが乗っている。
ただし、スプーンはない。
「あ、ハナコさん、スプーンが欲しい!」
『すぷーん? なんですか?』
「あ、サジね、それを一つお願いしたいんだけど。」
『わかりました。』
するとサジがすぐに出てきた。
穂乃花は直ぐにサジを取り、アイスをすくって食べる。
「美味しい!」
満面の笑みだ。
それを見て、誠も微笑んだ。
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