第18話 動物虐待だって?
フロントに猫の扱いについて聞いてみた。
「あの、猫なんですがゲージを持って来ていないのですけど・・。」
「ゲージ? なんですか、それは?」
「え? いや、あの、猫を入れて持ち運ぶ箱なんですが?」
「? 何のための箱ですか?」
「いや、猫を連れ歩く時に猫が怖がってどこかにいかないように箱に閉じ込めて運んだり、一時的に猫が出歩かないように閉じ込める箱です。」
「・・お客様、そのようなことを話されない方がよろしいかと。」
「へ?」
「動物愛護法で虐待の罪に問われますよ?」
その言葉を聞いたニャン吉が、俺の後ろの方から叫ぶ。
「にゃうん!」
首を回して、ちらりと後ろにいるニャン吉を見た。
おい、ニャン吉、そら見たことかという得意顔と、声を上げるのは止めなさい。
本当に君は猫か?
いや、猫又か!
いや、ニャン吉はどうでもいい、動物虐待と思われるのか・・。
「えっと、そうなんですか?」
「はい・・、海外の
「・・・はい。」
「箱に入れなくても、館内はどこでもペットを連れ歩いて結構です。」
「えっと、でも、爪を立てたりしたら・・。」
「それは大丈夫です。ペットに張る膜が対処しますので。」
「あの・・それはどういう効果が?」
「ああ、仲居より詳細を聞いてないのですね。
ペットに張る膜は、ペットから出されるアレルゲン、抜け毛、排泄物を分子レベルに分解し無効化して消去します。
ですので、館内のどこに連れ歩いても、温泉に入れても問題ありません。
また、温泉などのお湯や水、および石鹸などは膜を通してペットに届きます。
そのため普通に体を洗うこともできます。
また、タオルなどで濡れたペットを拭いて乾かすこともできます。
それから、膜があっても普通に飲めたり、食べたりできます。
そして、爪などで建物や他人へ傷つけるような行為においては、膜が爪や牙などを阻止します。
噛みつこうとしても噛みつけないように膜が猿ぐつわのような効果を発揮しますのでご安心を。
ただし、飼い主はその対象に入りません。
飼い主の方の中には噛みつかれたり、引掻かれることがお好きな方がいるためです。」
ん?噛みつかれるのが好きだとか今、言ったよね?
変態はいつの時代にもいるんだ。
って、まてよ! じゃあ、俺はニャン吉の攻撃を防げないのか!!
いや、俺は飼い主ではないから大丈夫か?
実験してみるか・・。
いや、止めておこう。
いやな予感がする。
フロントでの長い説明は、要約すると以下となる。
猫はお好きなように連れ歩いてください。
人への攻撃は無効にし、マーキングなどで汚すこともないようにしてあります。
至れりつくせりのペットの宿と思えばいいということだ。
「それでは、お部屋への案内をします。」
「あ、えっと、ペットに膜を張るのは?」
「それは先ほどお客様が泊まる意思を示した段階で処理をしました。」
「え? そうなの?」
「はい。」
これは合理的というのだろうか?
それとも、このフロント・スタッフが優秀なのだろうか?
あるいはISO9000とかで、マニュアル通りなのだろうか?
まあ、チェックインに時間がかからないのはありがたい。
それにしてもニャン吉が騒がない。
おそらく膜を張られたことに気がついていないのだろう。
本当に理解できない技術であり、考えてもしかたない事でもある。
そんな事を考えていると、フロントから声がかかる。
「それではお部屋の案内をしますが、荷物はどうされますか?」
「荷物は自分で持って行きます。」
「そうですか?」
「はい。」
「では、お部屋ですが、この受付の右にあります扉がお客様のお部屋です。」
フロント係が示したのは、フロントの真横の引き戸だった。
嘘でしょ?
フロントの真横の部屋が、俺等が泊まる客室?・・
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