第19話 客室への入り口?

 フロントが示した俺等の部屋は、フロントの真横だった。


 「え? この場所が俺等の部屋?!」

 「?」

 「いや、あの、いくらなんでも受付の真横が部屋になるなんて・・。」

 「なにを仰っているんですか?」

 「いや、だって部屋はあそこなんでしょ?」


 「・・あの、お客様は我が国をどのような国と思っておいでですか?」

 「?」

 「我が国にも空間技術くらいはありますよ。」

 「えっ?」

 「あの扉は客室に通じておりますが、この階ではありません、別の場所です。

ですので、あの扉から中に入り扉を閉じますと、この場所からドアは消えます。

納得していただけましたか?」


 そう、フロントは答えた。


 「あ、いえ、あの、そうでしたか、失礼しました・・。」

 「いえ、どういたしまして。」


 誠はそう言ってフロントを離れ、すこし離れた穂乃花の場所に戻る。

穂乃花は先ほどの部屋を別々にするかどうかの一件で気が抜けたのか、フロントと離れた場所の休憩所みたいな場所でニャン吉を抱いてうつむいていた。

すこし疲れているようだ。

ニャン吉の肉球を無意識にプニプニしている。


 「穂乃花、部屋に行くよ。」

 「うん・・、良い部屋だといいね。」

 「そう・・だね・・。」

 「ん? 誠さん、どうしたの?」

 「いや、なんていうかさ、ここは現代と違い理解できない事が多すぎてさ。」

 「え? そんなの此処に来たときから何度も経験して分かっていた事でしょ?」

 「ニャウ!」


 ニャン吉よ、さもそうだという態度は止めなさい。

お前だって、まだ分かっていないだろう?

さっき入り口のドアに突進して鼻をぶつけたのは誰だ?

もう忘れたのか?

いや、猫に言っても無駄か・・。

猫は直ぐに忘れるから。

猫は鶏より記憶力が無いんじゃないだろうか?

鶏なら三歩、歩くまでは覚えていられるしね。


 はぁ・・、それにしても穂乃花にさとされるとは思わなかった。

でも、たしかに穂乃花に言われるとおりだ。

ここでは驚いてばかりであるが、いいかげんに慣れなければいけないかもしれない。


 「穂乃花、あのフロント横のドアが俺等の部屋のドアだよ。」

 「ええええ!!!! やだ! フロントの横なんて!」

 「いや、だから、フロントの横に部屋がある訳じゃないよ?」

 「え?! でも、あれが部屋のドアなんでしょ?!」

 「そうだけど、そこのドアを開けて中に入り閉めると、そのドアはフロントから無くなるらしい。」

 「え?! 私達、消されちゃうの!!」

 「いや、そうじゃなくて・・。」

 「そうじゃなくちゃ、どうなのよ!!」

 「・・あの、穂乃花?」

 「何!」

 「・・落ち着いて。さっき現代ではわからない世界だと言ったのは君だよ?」

 「え?」

 「ドアが消えても、僕らが消えるわけではないよ?」

 「何それ? まったく訳が分からないんだけど?」

 「そう、だから、さっき、この世界は分からないと言ったでしょ?」

 「え、あ、確かにそう言ったような・・気がする。」

 「そういう事。」

 「・・・」


 穂乃花はまだ納得していないようだ。

でも、こんなフロント前で、穂乃花と(?)を続けていても仕方ない。

穂乃花が分かろうが、分かるまいがどうでもいいから穂乃花と部屋に入ろう。

おちついた場所なら、すこしは穂乃花も冷静になるだろう。

それに、俺も疲れた。


 「さぁ、穂乃花、部屋に行くよ。」

 「え、ええ・・。」


 そう言ってフロントの横にあるスライド式のドア、平たくいうとふすま、そこに向った。

襖をあけると、そこは小上がりこあがりになっており、さらに襖があった。

おそらく小上がりの上の襖を開けると、そこが客室なのだろう。

純和風を思わせる造りだった。

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